第34話「帰国と決戦準備」
世界同時作戦を阻止してから3日が経った。
「司令官、各支部からの詳細報告が完了しました」
司令室で、アインが分厚いファイルを提示してくれた。
「マスター・キメラの作戦規模は、我々の予想を上回っていました」
「どの程度の規模だったのですか?」
「総攻撃参加者数:約5000名」
ツヴァイが統計を読み上げた。
「投入された資金:推定200億円」
「使用された魔力兵器:最新型を含む300種類以上」
ドライが戦術分析を報告した。
「明らかに、Project Chimeraの総力を結集した作戦でした」
俺は数字の大きさに改めて驚いた。
「それだけの規模の攻撃を、我々は完全に阻止したということですね」
「はい」
三人が誇らしげに答えた。
「各支部の連携も完璧でした」
「特に印象的だったのは」
アインが続けた。
「各支部が独自の判断で最適な対応を取ったことです」
「独自の判断?」
「はい。司令官からの具体的な指示を待たずに、現地の状況に応じて臨機応変に対応しました」
ツヴァイが詳細を説明した。
「エリカはニューヨークで新戦術を開発し、イヴォンヌはロンドンで政治的解決を図りました」
「マリアは環境保護技術で攻撃を無効化し、アイシャは通信技術で敵の連携を遮断しました」
ドライが各支部の成果を列挙した。
「つまり、もう我々は司令官の直接指揮がなくても機能する組織になったということです」
俺は深い感慨を覚えた。
「皆、本当に成長したのですね」
「それと」
アインが重要な報告をした。
「今回の作戦で、マスター・キメラの本拠地を特定しました」
「本拠地?」
「はい。東京地下深部、深度500メートルの位置に巨大な地下都市があります」
大型モニターに、地下構造の3D映像が表示された。
「規模は我々の地下空間の10倍以上です」
「10倍以上……」
想像を絶する規模だった。
「推定収容人数は1万名、研究施設200箇所、製造工場50箇所」
ツヴァイが詳細データを読み上げた。
「まさに地下の巨大都市です」
「防御システムも強固で、通常の攻撃では突破困難です」
ドライが軍事分析を報告した。
「つまり、最終決戦はそこで行われるということですね」
「はい。マスター・キメラも、そのつもりでしょう」
アインが同意した。
「今回の同時作戦は、我々をおびき寄せるための前哨戦だった可能性があります」
「おびき寄せる?」
「はい。マスター・キメラは司令官との直接対決を望んでいます」
ツヴァイが分析した。
「司令官の能力を完全に解析し、自分の研究に活用したいのでしょう」
俺は背筋が凍った。あの化け物が、俺の力を欲している。
「でも」
俺は決意を固めた。
「逃げるわけにはいきません」
「司令官……」
「マスター・キメラを野放しにしておけば、被害者はさらに増えます」
「それに」
俺は三人を見つめた。
「皆さんの過去の仇を討つ時でもあります」
「ありがとうございます」
アインが深々と頭を下げた。
「司令官のお言葉、心に刻みます」
その時、俺の携帯電話が鳴った。美咲からだった。
『琴音ちゃん!今度の土曜日、時間ある?』
『どうしたの?』
『実は、アカデミーで特別講習があるの。『危機管理と冒険者の心構え』っていう授業』
俺は内心で苦笑いした。それもアインたちが準備したカリキュラムだろう。
『面白そうだね』
『うん!それで、授業の後で一緒にお茶しない?久しぶりにゆっくり話したいの』
『もちろん。楽しみにしてる』
『やった!じゃあ、土曜日にね』
通話が終わった後、俺は複雑な気持ちになった。
土曜日……まさに最終作戦の決行予定日だった。
「司令官、美咲さんですか?」
アインが気を遣って尋ねた。
「はい。土曜日に会う約束をしました」
「土曜日は……」
「最終作戦の日ですね」
俺は深く考え込んだ。美咲との約束と、世界の命運をかけた戦い。
「作戦の時間を調整しましょうか?」
ツヴァイが提案した。
「いえ、大丈夫です」
俺は決断した。
「美咲との時間は午後にして、作戦は夜に実行しましょう」
「了解しました」
三人が同意した。
「それで、最終作戦の詳細ですが」
ドライが作戦書を取り出した。
「『オペレーション・ファイナル・ジャッジメント』と名付けました」
「最後の審判……いい名前ですね」
「はい。作戦は四段階で構成されています」
大型モニターに作戦図が表示された。
第一段階:情報部隊による偵察と防御システム無力化
第二段階:戦闘部隊による外周制圧
第三段階:救出部隊による被害者救出
第四段階:司令官によるマスター・キメラ討伐
「今回は、司令官に最終段階を担当していただきます」
アインが説明した。
「マスター・キメラクラスの敵は、司令官でなければ対処できません」
「分かりました」
俺は責任の重さを感じながら答えた。
「絶対に成功させましょう」
翌日、俺は最終作戦に向けた個人的な準備を始めた。
地下空間の最奥部、俺専用の修練場で、能力の最終調整を行う。
『白銀の刃』千本同時展開、『領域展開』の範囲拡大、『次元断裂』の精密制御……
すべての技術を完璧にコントロールできるよう、何度も練習を重ねた。
「司令官」
修練中に、アインが様子を見に来た。
「調子はいかがですか?」
「問題ありません。むしろ、これまでで最高の状態です」
「それは良かった」
アインが安堵の表情を見せた。
「実は、私たちからお願いがあります」
「お願い?」
「はい。今回の作戦で、私たちにも重要な役割を与えてください」
「重要な役割?」
「これまで、司令官に頼りきりでした」
ツヴァイとドライも修練場に入ってきた。
「でも、今回は私たちも戦力として計算に入れてください」
ツヴァイが真剣に言った。
「記憶が戻ったことで、戦闘能力も大幅に向上しています」
ドライが補足した。
俺は三人の成長を実感していた。
確かに、最近の戦闘では頼もしい限りだった。
「分かりました。ただし、安全第一でお願いします」
「もちろんです」
三人が力強く答えた。
「司令官を守るのも、私たちの重要な使命ですから」
その夜、俺は一人で今後のことを考えていた。
最終決戦が終われば、俺の『白銀の審判者』としての役割も一区切りつくだろう。
Project Chimeraという巨悪が消えれば、世界はより平和になる。
「そうなったら、もっと美咲との時間を増やせるな」
俺は希望を抱いていた。
でも、同時に不安もあった。
マスター・キメラは俺の想像を超える敵かもしれない。
あの異形の存在が、どれほどの力を隠しているかわからない。
「でも、やるしかない」
俺は決意を固めた。
美咲のような人たちの笑顔を守るために、必ず勝利する。
金曜日の夜、俺は美咲にメッセージを送った。
『明日、楽しみにしてるよ』
『私も!久しぶりにゆっくり話せるね』
『うん。大切な話もあるかも』
『大切な話?』
『会ってからのお楽しみ』
『気になる〜。でも楽しみ!』
俺は美咲に、自分の気持ちを伝えようと思っていた。
正体は明かせないが、彼女がどれほど大切な存在かは伝えたい。
最終決戦の前に、必ず。
土曜日の朝、ついに運命の日が来た。
「司令官、準備はいかがですか?」
アインが最終確認に来た。
「完璧です。今夜、すべてに決着をつけましょう」
「はい」
三人が揃って答えた。
「Project Chimeraとの長い戦いも、今夜で終わりです」
午前中は最終準備、午後は美咲との時間、そして夜は最終決戦。
俺の人生で最も重要な一日が始まろうとしていた。
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