第33話「マスター・キメラの影」
三人の記憶が戻ってから2日が経った。
「司令官、緊急事態です」
早朝の司令室で、アインが青ざめた顔で俺を呼んだ。大型モニターには、世界各地からの緊急通信が次々と表示されている。
「何が起こっているのですか?」
「世界同時多発作戦です」
ツヴァイが状況を説明した。
「午前6時を境に、世界各地でProject Chimeraが一斉に大規模作戦を開始しました」
モニターに表示された世界地図には、赤い警告マークが無数に点滅していた。
ニューヨーク:魔力能力者研究所襲撃
ロンドン:政府機関への大規模テロ
ベルリン:魔力学会の会場占拠
東京:複数の研究施設同時攻撃
パリ:Dr.ヴェルデによる植物テロ拡大
「これは……」
俺は事態の深刻さに愕然とした。
「明らかに我々を標的にした挑発行為ですね」
ドライが分析した。
「各攻撃の規模から判断すると、ゼフィラス・エテルナの対応能力を測定している可能性があります」
「対応能力の測定?」
「はい。我々がどの程度の同時対応が可能か、実験されているのです」
その時、司令室の大型スクリーンに突然映像が割り込んできた。
画面に映し出されたのは、人間とは思えない異形の存在だった。
性別不明、年齢不詳、体の一部が機械的で、一部が生物的。まさに「キメラ」という名前にふさわしい存在だった。
『久しぶりだね、諸君』
歪んだ声が司令室に響いた。
『特に、ゼフィラス・エテルナの皆さんには初めてお目にかかる』
「マスター・キメラ……」
アインが震え声で呟いた。
『そう、私がマスター・キメラだ』
『君たちの成長ぶりを、この数年間楽しく観察させてもらった』
マスター・キメラの不気味な笑い声が響く。
『特に君、白銀の審判者』
俺を直接見つめているような視線を感じた。
『君の能力は実に興味深い。私の研究の最終目標そのものだ』
「研究の最終目標?」
『そう。完全なる超越者の創造』
『人間でも魔物でもない、新たな存在』
『君はまさに、私が目指していた理想の姿だ』
俺は背筋が凍った。この化け物が、俺のような存在を作り出そうとしていたのか。
『今日の同時作戦は、君たちへの最終試験だ』
『果たして、世界規模の危機に対応できるかな?』
『成功すれば、君たちは私の研究パートナーとして迎えてやろう』
『失敗すれば……』
マスター・キメラの声が不気味に歪んだ。
『地球上の全人類を実験材料として活用させてもらう』
通信が切れた後、司令室は重苦しい沈黙に包まれた。
「これは……宣戦布告ですね」
アインが震え声で言った。
「地球上の全人類が人質にされています」
ツヴァイが状況の深刻さを指摘した。
「我々が失敗すれば、本当に全人類が実験材料にされる」
ドライが拳を握りしめた。
「でも」
俺は立ち上がった。
「だからこそ、絶対に失敗するわけにはいかない」
「司令官……」
「マスター・キメラは我々を試していますが、逆に言えば、我々にもマスター・キメラを試す機会です」
俺は冷静に分析した。
「彼が本当に全人類を実験材料にできるほどの力があるのか、確かめてみましょう」
「各支部の状況を確認してください」
「はい」
アインが世界各支部との通信を開始した。
『北米支部、エリカです!ニューヨークの状況は深刻ですが、対応可能です!』
『ヨーロッパ支部、イヴォンヌです!複数都市での同時攻撃ですが、何とか対処しています!』
『南米支部、マリアです!環境破壊テロが発生していますが、我々の技術で対応中です!』
『アフリカ支部、アイシャです!通信インフラへの攻撃がありましたが、バックアップシステムで運用継続中です!』
「素晴らしい」
俺は各支部の対応力に感心した。
「皆、確実に成長していますね」
「はい。でも、日本の状況が最も深刻です」
ツヴァイが国内の状況を報告した。
「東京都内の5箇所で同時攻撃が発生し、しかも……」
「しかも?」
「美咲さんが通うゼフィラス・アカデミーも標的になっています」
俺の血が凍った。
「美咲が?」
「はい。現在、アカデミーが包囲されています」
ドライが詳細を説明した。
「幸い、アカデミーの防御システムが機能しており、学生たちは安全ですが……」
「時間の問題です」
俺は即座に決断した。
「私は美咲の救出に向かいます」
「司令官、でも他の攻撃も……」
「他の攻撃は皆さんにお任せします」
俺は三人を見つめた。
「信じています。皆さんなら、必ず対処できる」
「分かりました」
アインが決意を込めて答えた。
「司令官は美咲さんの救出を。私たちは他の攻撃を食い止めます」
「必ず成功させましょう」
ツヴァイが冷静に言った。
「今度こそ、マスター・キメラに我々の本当の力を見せてやりましょう」
ドライが力強く宣言した。
俺は『白銀の審判者』モードに変身し、ゼフィラス・アカデミーに向かった。
瞬間移動で到着した俺が見たのは、アカデミーを取り囲む黒装束の戦闘員たちの姿だった。
数は約200名。全員が魔力武器で武装している。
「これほどの戦力を投入するとは……」
明らかに俺を誘い出すための罠だった。
アカデミーの中から、美咲の声が聞こえた。
『琴音ちゃん……どこにいるの……』
俺の心臓が締め付けられた。美咲が怖がっている。
「絶対に助ける」
俺は怒りを込めて敵部隊に向かった。
『白銀の刃』千本同時展開。
光る刃が俺の周囲を舞い踊り、敵部隊を次々と無力化していく。
「な、何だあれは……」
「化け物か……」
敵たちが恐怖に震えている。
俺は一切の容赦をしなかった。美咲を危険にさらした者たちは、絶対に許さない。
『領域展開』で周囲500メートルを支配下に置き、敵の動きを完全に封じる。
わずか5分で200名の敵部隊を全滅させた。
「美咲!」
俺はアカデミーの中に駆け込んだ。
「琴音ちゃん!」
美咲が俺を見つけて駆け寄ってきた。その瞬間、俺は変身を解除していた。
「大丈夫?怪我はない?」
「うん、大丈夫。でも怖かった……」
美咲が俺に抱きついて泣いている。
「もう安全よ。白い守護天使が悪い人たちをやっつけてくれたから」
美咲は俺の正体に気づいていない。当然だが、それが良かった。
「琴音ちゃんのおかげで強くなれたから、怖くなかった」
美咲が涙を拭きながら言った。
「琴音ちゃんがいつも応援してくれるから、私も頑張れたの」
俺は胸が熱くなった。美咲の強さは、俺が与えたものではなく、彼女自身の心の強さだった。
その時、アカデミーの他の学生たちも集まってきた。
「美咲ちゃんの友達が助けに来てくれたのね」
「すごいタイミングだったね」
「でも、どうやってここまで?外は危険だったでしょう」
俺は適当にごまかした。
「たまたま近くにいて、白い守護天使が道を開いてくれたから」
美咲と他の学生たちの安全を確認した後、俺は他の攻撃現場の状況を確認した。
通信機器で各部隊と連絡を取ると、驚くべき報告が入った。
「司令官、各攻撃現場の制圧が完了しました」
アインの声には達成感が込められていた。
「東京都内5箇所、すべて成功です」
「素晴らしい」
「それだけではありません」
ツヴァイが追加報告をした。
「世界各支部からも成功の報告が入っています」
「全支部が?」
「はい。マスター・キメラの同時作戦、完全に阻止しました」
ドライが誇らしげに報告した。
俺は深い満足感を覚えた。
ゼフィラス・エテルナは、世界規模の危機に完璧に対応した。
これで、マスター・キメラに我々の真の力を証明できた。
その夜、司令室で俺たちは勝利を祝った。
「今日の成功で、マスター・キメラも我々を侮れないと理解したでしょう」
アインが分析した。
「次は本格的な最終決戦になります」
「準備はできています」
ツヴァイが確信を込めて言った。
「今日の連携で、我々の結束はさらに強くなりました」
「マスター・キメラがどんな手を使おうと、もう怖くありません」
ドライが力強く宣言した。
「でも」
俺は重要なことを忘れていなかった。
「今日の一番の成果は、美咲が無事だったことです」
「もちろんです」
三人が同意した。
「司令官にとって、美咲さんの安全が最優先です」
「我々もそれを理解しています」
俺は三人の理解に感謝していた。
美咲にメッセージを送った。
『今日は怖い思いをさせてごめん』
『ううん、琴音ちゃんのせいじゃないよ』
『でも、琴音ちゃんが来てくれて安心した』
『これからも、ずっと親友でいようね』
『もちろん。何があっても変わらないよ』
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