表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/38

第3話「隠れた実力の開花」

 10歳になった俺の魔力操作技術は、もはや別次元に達していた。

 地下15メートルに広がる俺だけの秘密空間で、鏡を見ながら変身の確認をする。髪全体を完璧な白銀色に変え、瞳を理想的な琥珀色に輝かせることは朝飯前。何より驚くべきは、変身の持続時間が実質無制限になったことだ。自然魔力回復量が消費魔力を上回っているため、意識的に解除しない限り変身状態を維持できる。

「これは……予想以上だな」

 鏡に映る姿は、もはや『エターナルクエスト』の「白銀の審判者」を完全に超越していた。白銀の髪が魔力の光を受けて神々しく輝き、琥珀色の瞳が深遠な光を放っている。

 この地下空間は、7歳の頃から3年かけて少しずつ掘り進めてきた俺の秘密基地だった。夜中にこっそり庭に出て、魔力で音と振動を完全に遮断しながら地面を掘り進める。掘り出した土は魔力で分解して消去し、痕跡を一切残さない。

 現在の地下空間は、縦横高さ各10メートルの立方体。壁面は高密度に圧縮され、練られた魔力の膜でコーティングしてある。その耐久性は凄まじく、理論上は核爆発にも耐えられるレベルだ。入り口は庭の大きな木の根元に隠蔽されており、魔力による偽装で発見は不可能。

 出入りの際も完璧だった。魔力の膜で光を屈折させ、自分の姿を完全に透明化する。誰かに見られる心配は一切ない。

「さて、今日も能力の確認をしよう」

 だが、外見の変化だけではない。魔力操作の精密性も飛躍的に向上した。

 右手に魔力を集中させ、『白銀の刃』を形成する。一本、二本、三本……そのまま数を増やしていく。十本、二十本、五十本……

「百本!」

 ついに同時展開百本に到達した。白銀に輝く刃が俺の周囲に浮遊し、まるで天使の羽根のように美しく舞い踊る。一本一本が鋭い切れ味を持ち、思考一つで自在に操れる。地下空間の魔力コーティング壁に試し切りしてみると、さすがに傷一つつかない。この壁の強度なら、俺の全力攻撃でも大丈夫だろう。

 緻密な魔力操作により、理論上は小さな山なら吹き飛ばせるほどの威力を出すことも可能だ。もちろん、そんな破壊的な魔法を実際に使うつもりはないが、脳内シミュレーションでは確実に実現できる。

「次は光弾の速度テストだ」

 今度は遠距離攻撃の練習。地下空間の向こう側の壁を標的に、光弾を発射する。

 パン!

 音速を超えた光弾が一瞬で壁に到達し、魔力コーティングに弾かれて消散した。連射速度も格段に上がっている。マシンガンのように連続発射しても、魔力切れを起こすことはない。

「最後は新しい能力の確認」

 最近習得した新技術、『白銀の外套』を展開してみる。魔力で作り出した白銀のフード付き外套が俺の体を包み込む。生地は実際の布以上に滑らかで、どんな攻撃も通さない強固さを持っている。フードを深くかぶれば、顔をほぼ完全に隠すことができる。

 そして声の変調も試してみる。

「あーあー、テスト、テスト」

 いつもの子供の声から、徐々に成人女性の声に変化させていく。さらに魔力を込めて、聖女のような神聖さを加える。

「これが私の真の声……」

 完璧だった。もはや10歳の子供の声とは思えない、威厳と慈愛に満ちた美しい声だった。これなら年齢も性別も完全に偽装できる。


 小学4年生になった俺は、クラスでも人気者だった。

「琴音ちゃん、今度の土曜日、みんなでカラオケ行かない?」

 美咲が誘ってくれる。彼女とは1年生の時からの付き合いで、今では親友と呼べる関係になっていた。

「いいね!行く行く!」

 こういう普通の小学生らしい時間も大切だった。『白銀の審判者』計画の根幹は「普段は完全に普通の人間として振る舞う」ことだ。友達付き合いを疎かにするわけにはいかない。

 それに、美咲たちと過ごす時間は純粋に楽しかった。前世では友達らしい友達がいなかった俺にとって、この関係は宝物だった。

「琴音ちゃんって、なんか最近すごく綺麗になったよね」

 別の友達の言葉に、俺は内心ドキッとした。

「そ、そうかな?」

「うん、なんていうか……神秘的っていうか、近寄りがたいオーラがあるよ」

 まさか魔力の影響が外見に出ているのか?確かに鏡で見る自分の顔は、以前より整っているような気がする。魔力を鍛えることで、肉体そのものが美化されているのかもしれない。

「気のせいだよ、気のせい」

 慌てて話題を変えたが、内心では少し嬉しかった。美貌も『白銀の審判者』にとって重要な要素の一つだ。

 授業中、俺は窓の外を見ながら考えていた。最近、テレビのニュースで魔力能力者関連の事件が急増している。昨日も新宿で魔力能力者による銀行強盗事件があったし、先週は大阪で建物を破壊する規模の魔力犯罪も発生した。

 政府の魔力能力者たちも対応に追われているようだが、犯罪者側の能力向上が著しく、手に負えない事件が増えているらしい。

「これは俺の出番が近づいているな」

 でも、まだ10歳の俺が表立って活動するのは目立ちすぎる。もう少し慎重に、影から世界を守る存在として活動すべきだろう。

 夜になると、俺は地下空間での修行を続けた。透明化の魔力を纏いながら庭の木の根元に近づき、隠蔽された入り口から地下へと向かう。家族が寝静まった今なら、誰にも気づかれることはない。


 地下空間で『白銀の審判者』モードに変身し、総合力テストを行った。

『白銀の外套』を展開し、フードで顔を隠す。鏡で確認すると、もはや人間かどうかも判別困難な神秘的な存在になっていた。

「戦闘能力の最終確認」

『白銀の刃』を百本同時展開。光る刃が俺の周囲を舞い踊り、思考一つで自在に操れる。地下空間の魔力コーティング壁に向けて、刃の一群を放つ。

 シュシュシュ!

 さすがに俺が作った魔力の壁だけあって、傷一つつかない。この耐久性なら、どんな激しい修行をしても大丈夫だろう。

 光弾の連射も試してみる。音速を超えた光弾が連続で壁に衝突し、美しい光のシャワーを作り出す。魔力切れの兆候は全くない。

「完璧だ……これで本当の戦闘にも対応できる」

 でも、実戦経験はまだない。理論上の能力と実際の戦闘は別物だ。機会があれば、安全な範囲で実戦経験を積んでみたい。

 その時、地上から微かな騒ぎ声が聞こえてきた。魔力で聴覚を強化すると、近所で何かトラブルが起きているようだった。

「これは……」

 俺の初めての実戦機会かもしれない。


 地上に出て状況を確認すると、3軒隣の家で騒ぎが起きていた。

 窓の明かりが点いたり消えたりしており、中から怒鳴り声が聞こえる。どうやら空き巣が侵入したらしい。住人の老夫婦が脅されているようだった。

「ついに……俺の出番が来た」

 これは絶好のチャンス。初めての実戦経験を積むチャンス。

 透明化の魔力を纏い、音を立てずに問題の家に近づく。窓から中を覗くと、二人組の侵入者が老夫婦を脅している。ナイフを持っているが、魔力能力者ではなさそうだ。普通の強盗なら、俺の能力で十分対処できる。

『白銀の審判者』モードに変身。髪が白銀に変わり、瞳が琥珀色に輝く。『白銀の外套』を展開し、フードで顔を隠す。声も成人女性の神聖な声に変調する。

 魔力で窓の鍵を開け、音を立てずに侵入する。

「そこまでです」

 静かに、しかし威厳に満ちた声で告げると、侵入者たちが振り返った。

「な、何だお前は?その格好……まさか魔力能力者か?」

「正義の執行者です」

 我ながらカッコいいセリフだった。侵入者たちはナイフを俺に向けてくる。

「子供が調子に乗るな!」

 二人同時に襲いかかってくる侵入者。しかし、魔力で強化された俺の動体視力には、その動きがスローモーションに見えた。

『白銀の刃』を二本形成し、彼らの手首に軽く触れさせる。魔力を最小限に抑えているため、軽い痺れ程度の効果しかないが、ナイフを落とすには十分だった。

「うわあああ!」

「化け物だ!」

 侵入者たちは完全に戦意を失った。俺は『白銀の刃』を彼らの喉元に浮かべて威嚇する。もちろん実際に傷つけるつもりはない。

「動かないでください。すぐに警察が来ます」

 老夫婦に向かって言うと、おじいさんが震え声で答えた。

「あ、ありがとうございます……神様ですか?」

 神様、か。悪くない評価だ。

「ただの通りすがりです」

 侵入者たちを軽く気絶させてから、透明化して家を離れた。遠くから警察のサイレンが聞こえてくる。誰かが通報したらしい。


 自室に戻ってから、俺は一人でニヤニヤしていた。

「完璧だった」

 正体もバレなかったし、侵入者も無事に逮捕されるだろう。何より、本当に人を助けることができた。これこそが俺の目指していた『白銀の審判者』の姿だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ