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第29話「政治の裏側」

 千葉作戦から3日が経った。

「司令官、重大な発見があります」

 司令室で、アインが厚いファイルを持参してきた。その表情は、これまでにないほど深刻だった。

「重大な発見?」

「はい。千葉施設で発見した『マスター・ファイル』の解析が完了しました」

 ツヴァイとドライも同席している。三人とも、明らかに動揺していた。

「マスター・ファイル?」

「Project Chimeraの最重要機密文書です」

 ツヴァイが説明した。

「組織の真の目的と、活動の全貌が記録されています」

 俺は資料を受け取った。表紙には『Project Chimera - Final Solution』と書かれている。

「『最終解決』……不吉な名前ですね」

「はい。そして、その内容は私たちの想像を遥かに超えていました」

 ドライが重々しく言った。

 俺はファイルを開いた。最初のページに、Project Chimeraの真の目的が記載されていた。

『人類の完全支配による新世界秩序の確立』

「人類の完全支配……」

「はい。単なる人体実験組織ではありませんでした」

 アインが詳細を説明した。

「世界各国の政府要人、軍事関係者、経済界の実力者……あらゆる権力者に融合実験を施し、Project Chimeraの意のままに操る計画です」

「つまり、世界征服が目的だったということですね」

「その通りです」

 ツヴァイが頷いた。

「そして、既に計画の一部は実行されています」

 俺は次のページをめくった。そこには、既に実験を受けた権力者たちのリストが記載されていた。

「これは……」

 日本政府の閣僚3名、アメリカの上院議員5名、ヨーロッパの外務大臣2名……錚々たるメンバーが並んでいる。

「世界各国の政府内部に、Project Chimeraの協力者が潜んでいるということですか」

「はい。しかも、彼らは自分の意志で協力しているわけではありません」

 ドライが恐ろしい事実を告げた。

「融合実験により、思考を操作されているのです」

 俺は背筋が凍った。世界の指導者たちが、知らぬ間に操り人形にされている。

「これでは、まともな政治など……」

「はい。最近の世界情勢の混乱も、これが原因の可能性があります」

 アインが分析結果を報告した。

「日本政府の状況はどうですか?」

「深刻です」

 ツヴァイが日本の部分を指差した。

「魔力政策を担当する文部科学大臣、防衛大臣、そして内閣官房長官がリストに含まれています」

「つまり、日本の魔力政策は……」

「Project Chimeraの意向で決定されていた可能性があります」

 俺は愕然とした。これまでの政府の魔力政策が不自然だったのは、これが原因だったのか。

「魔力能力者の過度な規制、民間企業への圧迫、研究開発の制限……すべて説明がつきます」

 ドライが指摘した。

「Project Chimeraにとって都合の良い政策ばかりでした」

「でも、これは証拠になるのでしょうか?」

 俺は実務的な問題を考えた。

「このファイルだけで、政府要人がマインドコントロールされていると証明できますか?」

「困難です」

 アインが認めた。

「しかし、私たちには別の手段があります」

「別の手段?」

「政治的な対応です」

 ツヴァイが提案した。

「ゼフィラス・エテルナの影響力を使って、清廉な政府関係者と水面下で交渉するのです」

「政治的な対応……」

 俺は少し躊躇した。政治に関わるのは複雑で面倒そうだった。

「でも、必要なことですよね」

「はい。このまま放置すれば、Project Chimeraの影響力がさらに拡大します」

 ドライが危機感を示した。

 その時、俺の携帯電話が鳴った。美咲からだった。

『琴音ちゃん!今日ゼフィラス・アカデミーの入学試験なの!』

『そうだったね。頑張って』

『うん!でも、ちょっと緊張してる』

『大丈夫。美咲ちゃんなら絶対に合格できるよ』

『ありがとう!琴音ちゃんが応援してくれるから、勇気が出る』

『試験の後で連絡して。結果を聞かせて』

『うん!じゃあ、行ってきます!』

 通話が終わった後、俺は複雑な気持ちになった。

 世界政治の陰謀について議論している最中に、美咲の入学試験の話。この対比が、俺の二重生活を象徴しているようだった。

「司令官、美咲さんですか?」

 アインが気を遣って尋ねた。

「はい。今日が入学試験なんです」

「そうですね。アカデミーの方には、美咲さんへの特別配慮を指示してあります」

「特別配慮?」

「はい。安全性を最重視したカリキュラムの提案と、優秀な指導員の配置です」

 ツヴァイが説明した。

「美咲さんには、最高の環境で学んでもらいます」

 俺は安心した。これで美咲の安全は確保される。

「ありがとうございます」

「では、政治的対応の件に戻りましょう」

 アインが話題を戻した。

「具体的には、どのような方法を考えていますか?」

「まず、清廉な政府関係者の特定です」

 ツヴァイが説明した。

「マスター・ファイルに記載されていない政府要人の中から、信頼できる人物を選出します」

「次に、秘密会談の設定です」

 ドライが続けた。

「ゼフィラス・エテルナの代表として、Project Chimeraの脅威について情報提供します」

「最後に、協力体制の構築です」

 アインがまとめた。

「政府とゼフィラス・エテルナが連携して、Project Chimeraの協力者を排除し、正常な政治を取り戻します」

 俺は提案を検討した。確かに、政治的な対応は必要だろう。でも、政治の世界は複雑で、思わぬ副作用もありそうだった。

「リスクはありませんか?」

「当然あります」

 アインが正直に答えた。

「政治に関わることで、私たちも政治的な攻撃にさらされる可能性があります」

「でも、現状を放置する方がより危険です」

 ツヴァイが指摘した。

「Project Chimeraの政治的影響力が拡大すれば、私たちの活動も制限される可能性があります」

「それに」

 ドライが付け加えた。

「美咲さんのような普通の人が安全に夢を追える世界にするためには、政治の正常化が不可欠です」

 その言葉に、俺は心を動かされた。美咲のような人たちのためなら、政治的なリスクも受け入れるべきかもしれない。

「分かりました。政治的対応を承認します」

「ありがとうございます」

 三人が安堵の表情を見せた。

「ただし、慎重に進めてください」

「もちろんです」

「では、さっそく準備を開始しましょう」

 アインが立ち上がった。

「清廉な政府関係者の特定から始めます」

 2時間後、候補者リストが完成した。

「財務大臣の田中氏が最有力候補です」

 ツヴァイが分析結果を報告した。

「マスター・ファイルに記載されておらず、過去の発言からもProject Chimeraとは無関係と判断されます」

「この方なら、信頼できそうですね」

 俺は田中財務大臣の経歴を確認した。確かに、清廉潔白な印象の政治家だった。

「他の候補者は?」

「外務副大臣の佐藤氏、文部科学副大臣の鈴木氏なども有力です」

 ドライが追加候補を説明した。

「いずれも、Project Chimeraの影響を受けていないと推定されます」

「では、田中財務大臣との秘密会談を設定してください」

「了解しました。アプローチ方法を検討します」

 アインが引き受けた。

「どのような名目で接触しますか?」

「ゼフィラス・グループの代表として、経済政策についての意見交換を申し入れます」

 なるほど、表向きは普通の企業と政府の会談というわけか。

「それなら自然ですね」


 その夕方、美咲から連絡が入った。

『琴音ちゃん!入学試験、合格しました!』

『本当に?おめでとう!』

『ありがとう!すごく難しい試験だったけど、なんとかなった』

 俺は内心で苦笑いした。きっとアインたちが合格できるよう調整したのだろう。

『どんな試験だったの?』

『筆記試験と実技試験があったの。実技では、基本的な魔力操作を評価されたよ』

『美咲ちゃんの魔力、どのくらいだったの?』

『そんなに強くないけど、「将来性がある」って言われた』

『そうなんだ』

『それで、来月から本格的に授業が始まるの。すごく楽しみ!』

 美咲の声には、心からの喜びが込められていた。

『私も嬉しいよ』

『琴音ちゃんのおかげで、夢に一歩近づけた。本当にありがとう』

『私は何もしてないよ』

『そんなことない。琴音ちゃんがいつも応援してくれるから、頑張れるの』

 美咲の素直な感謝の言葉に、俺は胸が熱くなった。

 通話が終わった後、俺は政治の問題と美咲の夢について考えていた。

 世界の政治が腐敗していても、美咲のような純粋な夢は守りたい。そのためにも、政治的な対応は必要だった。

「美咲のような普通の人が、安全に夢を追える世界」

 それが俺の目指すべき世界だった。


 翌日、田中財務大臣との秘密会談が実現した。

「この度は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」

 都心の高級ホテルの個室で、アインが丁寧に挨拶した。俺も同席している。

「こちらこそ。ゼフィラス・グループの急成長ぶりには、政府としても注目しています」

 田中大臣は温厚そうな初老の男性だった。

「さて、どのようなご相談でしょうか?」

「実は、国家安全保障に関わる重要な情報をお伝えしたいのです」

 アインが慎重に切り出した。

「国家安全保障?」

「はい。Project Chimeraという組織についてです」

 田中大臣の表情が変わった。

「Project Chimera……聞いたことがあります」

「ご存知でしたか」

「最近、政府内でも話題になっています。ただし、詳細は不明でした」

「それについて、重要な情報をお伝えできます」

 アインがマスター・ファイルの要約版を提示した。

「これは……」

 田中大臣が資料を読みながら、徐々に顔色を変えていく。

「本当だとすれば、大変なことです」

「すべて事実です」

 俺が確証を与えた。

「私たちは実際に、Project Chimeraの施設を複数攻略し、被害者を救出しています」

「つまり、政府内部にも……」

「はい。思考を操作された協力者が潜んでいます」

 田中大臣は深刻な表情で資料を見つめていた。

「これが事実なら、直ちに対策を講じる必要があります」

「私たちも協力させていただきたいと思います」

 アインが申し出た。

「ゼフィラス・エテルナの情報網と戦力を、国家の正常化のために提供します」

「分かりました」

 田中大臣が決断した。

「私から信頼できる同僚に相談し、秘密裏に調査を開始します」

「ありがとうございます」

「ただし、これは極秘事項です。Project Chimeraの協力者に気づかれては、すべてが水の泡になります」

「もちろんです」

「それと」

 田中大臣が俺を見つめた。

「貴方が『白銀の審判者』ですね」

 俺は驚いた。正体がバレている?

「どうして……」

「政府の情報機関も、それなりに優秀です。ただし、この情報は極めて限られた人間しか知りません」

「そうですか……」

「安心してください。政府として、貴方の活動を支援させていただきます」

 田中大臣の言葉に、俺は安堵した。

「これで、正式に政府との協力体制が構築されました」

 会談が終わった後、俺とアインは安心していた。

「想像以上にスムーズでした」

「田中大臣は信頼できる方のようですね」

「はい。これでProject Chimeraの政治的影響力を排除できます」

面白いと感じていただけましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

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