第24話「組織本格化」
ゼフィラス・ファイナンスの成功から1年が経った。
「司令官、極秘報告があります」
地下空間の最奥部、新設された秘密会議室で、アインが重要そうな資料を持参してきた。この部屋は、俺も知らないうちに作られていた特別な施設だった。
「極秘報告?」
「はい。我々の真の活動について、ご報告する時が来ました」
ツヴァイとドライも同席している。三人の表情がいつになく真剣だった。
「真の活動?」
俺は少し困惑した。企業活動以外に何かやっているのか?
「実は、司令官にお伝えしていない活動がありました」
アインが申し訳なさそうに言った。
「どのような活動ですか?」
「世界規模での組織構築です」
「世界規模?」
俺は驚いた。
「はい。現在、我々は5つの大陸で活動を展開しています」
ツヴァイが世界地図を広げて説明した。
ゼフィラス・エテルナ世界展開状況
アジア支部(日本本部)
メンバー数:500名
拠点数:15箇所
年間売上:1000億円
北米支部
メンバー数:200名
拠点数:8箇所
年間売上:500億円
ヨーロッパ支部
メンバー数:150名
拠点数:6箇所
年間売上:300億円
南米支部
メンバー数:100名
拠点数:4箇所
年間売上:200億円
アフリカ支部
メンバー数:80名
拠点数:3箇所
年間売上:100億円
「総メンバー数1030名、年間総売上2100億円……」
俺は数字の大きさに唖然とした。
「いつの間に、こんな巨大組織に……」
「この3ヶ月間で急速に拡大しました」
アインが詳細を説明した。
「各国で Project Chimera の被害者を発見し、救出と同時に組織に勧誘しています」
「各国にも被害者がいるのですか?」
「はい。Project Chimera は世界規模の組織なので、被害者も世界中に存在します」
ドライが補足した。
「現在までに、世界で2000名以上の被害者を救出しました」
「2000名……」
想像を絶する規模だった。
「そのうち約半数が、我々の組織に参加を希望しました」
「つまり、メンバーの大部分が元被害者ということですね」
「その通りです」
ツヴァイが確認した。
「皆、Project Chimera への復讐と、同じ被害者を救いたいという強い意志を持っています」
「それで、これほど急速に組織が拡大したのですね」
「はい。しかも、各国の元被害者たちは現地の事情に詳しく、効率的な活動が可能です」
確かに、現地人が中心の組織なら、文化や言語の壁もない。
「でも、どうやって各国での活動資金を調達したのですか?」
「日本と同様の手法です」
アインが財務資料を提示した。
「各国でフロント企業を設立し、正当なビジネスで利益を上げています」
海外フロント企業群
北米:ゼフィラス・アメリカ・グループ
IT企業、金融業、不動産業
ヨーロッパ:ゼフィラス・ヨーロッパ・グループ
製造業、物流業、エネルギー業
南米:ゼフィラス・ラテン・グループ
資源開発、農業、観光業
アフリカ:ゼフィラス・アフリカ・グループ
鉱業、通信業、金融業
「どの地域でも、確実に利益を上げています」
「すごい……本当に世界規模の企業グループですね」
俺は三人の経営手腕に感動していた。
「でも、なぜこれまで報告してくれなかったのですか?」
俺は少し寂しく思った。
「申し訳ありません」
アインが深々と頭を下げた。
「司令官を驚かせたくなかったのと、まだ構想段階だったので……」
「構想段階?これだけの規模で?」
「はい。我々の最終目標からすると、まだ準備段階に過ぎません」
「最終目標?」
ツヴァイが重要な資料を取り出した。
「世界政府との対等な交渉力の確保です」
「世界政府?」
「Project Chimera は各国政府に深く浸透しています」
ドライが説明した。
「これに対抗するには、我々も国家レベルの影響力が必要です」
「つまり……」
「はい。最終的には、ゼフィラス・エテルナを一つの国家に匹敵する組織にしたいのです」
俺は三人の壮大な構想に圧倒された。
「国家に匹敵する組織……」
「経済力、軍事力、外交力……すべてを備えた超国家組織です」
アインが詳細を説明した。
「そうすれば、Project Chimera だけでなく、世界中の悪を根絶できます」
「世界中の悪……」
「はい。我々の使命は、世界平和の実現です」
三人の瞳に、強い使命感が宿っていた。
俺は彼女たちの真剣さに圧倒されていた。
最初は組織ごっこのつもりだったのに、いつの間にか世界規模の真の組織になっている。
「分かりました。その構想、支持します」
「本当ですか?」
三人が嬉しそうな表情を見せた。
「はい。面白そうですから」
俺にとっては、さらにスケールの大きなゲームが始まるような感覚だった。
「では、現在進行中の秘密作戦についてもご報告します」
アインが新たな資料を取り出した。
進行中秘密作戦一覧
作戦『グローバル・ネット』
各国政府への情報網構築
進行率:60パーセント
作戦『エコノミック・ドミネーション』
世界経済への影響力拡大
進行率:40パーセント
作戦『ミリタリー・バックアップ』
独自軍事力の構築
進行率:30パーセント
作戦『ディプロマティック・チャンネル』
非公式外交ルートの確立
進行率:50パーセント
「軍事力まで構築しているのですか?」
俺は驚いた。
「はい。各国の軍事関係者の中にも、我々に協力的な人材がいます」
ツヴァイが説明した。
「元被害者の家族や友人で、軍や警察に所属している人たちです」
「彼らが情報提供や支援を行ってくれています」
ドライが追加した。
「もちろん、表立った軍事行動は行いません」
「あくまで防衛と情報収集が目的です」
確かに、これだけの規模の組織なら、自衛手段は必要だろう。
「外交ルートとは?」
「各国の政治家や外交官との人脈構築です」
アインが説明した。
「正式な外交ルートとは別に、非公式なチャンネルを確保しています」
「将来的には、ゼフィラス・エテルナが国際社会で発言権を持てるようになります」
なるほど、確かに影響力を持つためには政治的なコネクションが重要だ。
「経済面での影響力拡大とは?」
「世界の主要企業への投資や買収です」
ツヴァイが詳細を説明した。
「現在、Fortune 500企業の20社に対して影響力を持っています」
「20社も……」
「はい。筆頭株主になるか、重要なパートナーとして関係を築いています」
確かに、これだけの経済力があれば可能だろう。
「情報網の構築は?」
「各国の情報機関にも協力者がいます」
ドライが最後の説明をした。
「完全に公開はできませんが、重要な情報は入手可能です」
俺は三人の構想の緻密さと実行力に感動していた。
「素晴らしい戦略ですね」
「ありがとうございます」
三人が嬉しそうに答えた。
「でも、これほど大規模な活動を秘密にするのは大変でしょう」
俺は実務的な心配をした。
「はい。そのため、厳重な情報管理システムを構築しています」
アインが説明した。
「メンバーは階層別に情報アクセス権限が設定されており、全体像を把握しているのは我々3人だけです」
「階層別?」
「はい。一般メンバーは自分の担当業務のみ知っており、上位の計画は知りません」
ツヴァイが組織図を見せてくれた。
ゼフィラス・エテルナ階層構造
レベル9:最高司令官(白銀様)
全情報へのアクセス権
レベル8:幹部(アイン、ツヴァイ、ドライ)
戦略レベル情報へのアクセス権
レベル7:地域司令官(各大陸責任者)
地域レベル情報へのアクセス権
レベル6:部門長(各部門責任者)
部門レベル情報へのアクセス権
レベル5-1:一般メンバー
担当業務レベル情報へのアクセス権
「かなり厳格な階層制ですね」
「はい。これにより、情報漏洩のリスクを最小限に抑えています」
ドライが補足した。
「それに、各メンバーは複数の身元を持っているので、正体の特定も困難です」
確かに、これだけの情報管理体制なら、外部に秘密が漏れることはないだろう。
「通信手段はどうしているのですか?」
「独自の暗号化通信システムを開発しました」
アインが技術的な説明をした。
「量子暗号を使用しており、解読は事実上不可能です」
「量子暗号……そんな高度な技術をどこで?」
「投資先のIT企業で開発してもらいました」
なるほど、投資を通じて必要な技術を確保しているわけか。
「資金の流れも完全に追跡困難にしてあります」
ツヴァイが財務面の説明をした。
「複数の国を経由した複雑な送金システムで、資金源の特定は不可能です」
俺は三人の組織運営能力に改めて驚いていた。
これはもう、完全に本物の秘密組織だった。
「君たちは本当にすごいですね」
「司令官のご指導のおかげです」
三人が謙遜したが、これは明らかに彼女たち自身の才能と努力の成果だった。
俺にとっては壮大な組織ごっこの延長だったが、三人は本気で世界を変えようとしている。
「これからも、この活動を続けていくのですね」
「はい。最終目標達成まで、決して諦めません」
アインが決意を述べた。
「世界平和の実現……素晴らしい目標ですね」
俺は三人の志の高さに気後れしていた。
こうして、ゼフィラス・エテルナの秘密活動が本格化していく。