第21話「被害者救出の連鎖」
第一次作戦成功から2週間が経った。
「司令官、おはようございます」
地下空間の司令室で、アインが朝の報告を持参してきた。最近、彼女の表情には以前にも増して真剣さが宿っている。
「おはよう、アイン。今日の予定は?」
「はい。午前中は新メンバーの訓練指導、午後は次回作戦の詳細検討会議です」
俺は彼女の効率的なスケジュール管理に感心していた。
「順調に組織が成長していますね」
「はい。現在メンバー数は95名、全員が高い戦闘能力を身につけています」
確かに、最近の地下空間は活気に溢れている。各所で訓練に励む声が聞こえ、まるで本物の軍事組織のような雰囲気だった。
「でも、司令官」
アインが少し躊躇うような表情を見せた。
「何か問題がありますか?」
「実は……私たちからお願いがあります」
「お願い?」
「はい。救出作戦をもっと積極的に展開したいのです」
アインの瞳に強い意志が宿っていた。
「現在のペースでは、すべての被害者を救うのに3年はかかってしまいます」
「3年……確かに長いですね」
「はい。その間にも、新たな被害者が生まれ続けています」
アインの言葉に、俺は考え込んだ。
「具体的には、どのような方法を考えていますか?」
「複数チームによる同時作戦です」
アインが詳細な提案書を提示した。
「現在の我々の戦力なら、3つのチームに分けて同時に異なる施設を攻略できます」
なるほど、確かに効率的だ。
「各チームの構成は?」
「Aチーム:私が指揮、戦闘部門主体」
「Bチーム:ツヴァイが指揮、情報・隠密作戦主体」
「Cチーム:ドライが指揮、破壊・制圧作戦主体」
「私はどのチームに?」
「司令官には、全体の統括と緊急時の支援をお願いしたいのです」
俺は提案を検討した。確かに、現在の組織力なら複数同時作戦も可能だろう。
「面白い提案ですね。やってみましょう」
「本当ですか?」
アインの表情が明るくなった。
「はい。ただし、安全第一で」
「もちろんです」
「では、さっそく作戦計画を立案してください」
「既に準備してあります」
アインが厚いファイルを取り出した。準備が早い。
「今週末に、3箇所同時攻略を実行したいと思います」
「分かりました」
俺は彼女たちの積極性に感心していた。組織ごっこの域を完全に超えている。
その日の午後、作戦会議が開催された。
「では、『トリプル・リベレーション作戦』の詳細を説明します」
アインが大型モニターを操作しながら説明を始めた。
標的A:神奈川県の研究施設
被害者数:推定40名
敵戦力:中程度
担当:Aチーム(アイン指揮)
標的B:埼玉県の地下施設
被害者数:推定25名
敵戦力:軽微、高度な隠蔽
担当:Bチーム(ツヴァイ指揮)
標的C:群馬県の要塞型施設
被害者数:推定60名
敵戦力:重厚、要塞化
担当:Cチーム(ドライ指揮)
「かなり大規模な作戦ですね」
俺は作戦の規模に驚いた。
「はい。成功すれば一度に125名の被害者を救出できます」
「各チームの戦力配分は?」
「Aチーム:30名」
「Bチーム:25名」
「Cチーム:35名」
「予備隊:5名」
ほぼ全戦力を投入する計画だった。
「リスクは高いですが、効果も絶大です」
ツヴァイが分析結果を報告した。
「各施設の警備状況を詳しく調査しましたが、同時攻撃なら成功率は90パーセント以上です」
「敵が連携する前に、一気に決着をつけるわけですね」
「その通りです」
ドライが力強く答えた。
「これで一気に形勢を逆転できます」
三人の自信に満ちた表情を見て、俺は作戦を承認することにした。
「分かりました。『トリプル・リベレーション作戦』を実行しましょう」
「ありがとうございます」
三人が嬉しそうに微笑んだ。
作戦当日、地下空間は緊張感に包まれていた。
「各チーム、最終確認」
俺が司令室から全体を統括する。
「Aチーム、準備完了」
「Bチーム、準備完了」
「Cチーム、準備完了」
「では、作戦開始」
三つのチームが同時に出発していく。
「全チーム、作戦開始から30分経過」
各チームからの報告が入る。
「Aチーム、施設への侵入成功」
「Bチーム、隠蔽侵入完了」
「Cチーム、正面突破開始」
順調なスタートだった。
「1時間経過」
「Aチーム、被害者40名全員を確認」
「Bチーム、被害者25名を発見、救出開始」
「Cチーム、敵の抵抗激しいが順調に制圧中」
予想通りの展開だった。
「1時間30分経過」
「Aチーム、救出完了、撤退開始」
「Bチーム、救出完了、既に撤退中」
「Cチーム、被害者60名の救出完了、撤退開始」
「全チーム、作戦完了」
『トリプル・リベレーション作戦』は完全成功だった。
被害者125名の救出に成功し、しかも負傷者は軽傷者3名のみ。
「素晴らしい成果ですね」
俺は三人の指揮能力に感動していた。
作戦終了後、地下空間は一変した。
「メンバー数220名……」
俺は数字の大きさに驚いていた。わずか2ヶ月で、3人だった組織が220人の大組織になったのだ。
「司令官、施設の大規模拡張が必要です」
アインが提案してきた。
「どの程度の規模ですか?」
「500名収容可能な地下都市を建設したいと思います」
「500名……そんなに必要でしょうか?」
「はい。現在のペースで救出を続ければ、半年後には500名に達します」
半年で500名。確かに計算上はそうなる。
「分かりました。拡張工事を開始しましょう」
「ありがとうございます」
拡張工事は俺の魔力で短期間に完了した。
新しい地下都市は、まさに地下の楽園とも呼べる充実した設備を備えていた。
「すごい……本当に地下都市ですね」
新しく救出されたメンバーたちが、施設の規模に驚いている。
「ここが私たちの新しい家です」
アインが案内している。
「こんな素晴らしい場所があるなんて……」
「白銀様のおかげです」
「白銀様って、あの伝説の……」
新メンバーたちの俺への憧れは、想像以上に強いようだった。
「皆さん、白銀様を本当に尊敬しています」
ツヴァイが報告してくれた。
「そうですか……」
俺は少し照れていた。
その夜、三人が俺のもとに相談に来た。
「司令官、重要な報告があります」
「どのような?」
「Project Chimeraの動向に変化があります」
アインが深刻な表情で言った。
「どのような変化ですか?」
「我々の活動に対する警戒が急激に高まっています」
「当然でしょうね。これだけ大規模に救出していれば」
「はい。そして、敵も対策を取り始めています」
ツヴァイが詳細を説明した。
「各施設の警備が大幅に強化されています」
「それに、我々の正体を探る動きも活発化しています」
ドライが追加情報を提供した。
「つまり、これまでのような簡単な作戦は通用しなくなる、ということですね」
「はい。今後はより慎重で高度な作戦が必要です」
「分かりました。作戦の質を向上させましょう」
「実は、そのための提案があります」
アインが新たなファイルを取り出した。
「何でしょう?」
「組織のさらなる専門化です」
「専門化?」
「はい。諜報部門、研究開発部門、後方支援部門……より細分化された組織にしたいのです」
俺は提案を検討した。確かに、組織が大きくなれば専門化は必要だろう。
「面白いアイデアですね。検討してみましょう」
「ありがとうございます」
三人が嬉しそうに答えた。
こうして、『ゼフィラス』はさらなる発展を遂げようとしていた。
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