第20話「最初の救出作戦」
『ゼフィラス』の正式組織として初の大規模作戦が決行される日が来た。
「全部門、作戦開始5分前」
地下空間の作戦司令室で、アインが最終確認を行っている。
「戦闘部門、準備完了」
「情報部門、準備完了」
「支援部門、準備完了」
「医療部門、準備完了」
各部門から次々と報告が入る。メンバーたちの緊張感が伝わってくる。
「司令官、作戦の最終確認をお願いします」
アインが俺に向かって言った。
「はい。では、改めて作戦内容を確認しましょう」
俺は大型モニターに標的施設の情報を表示した。
「目標:千葉県の地下研究施設」
「被害者数:推定50名」
「敵戦力:研究者20名、警備員15名、魔力能力者5名」
「かなり大規模な施設ですね」
「はい。これまでで最大規模の作戦になります」
俺は作戦の詳細を説明した。
「第一段階:情報部門による偵察」
「第二段階:戦闘部門による制圧」
「第三段階:医療部門による救護」
「第四段階:全員での撤退」
「了解しました」
メンバーたちが真剣に頷いた。
「それでは、作戦『リベレーション・ワン』を開始します」
まず、ツヴァイ率いる情報部門が先行偵察に向かった。
「ツヴァイ、状況はどうですか?」
「施設の詳細構造を確認中です」
通信機越しに、ツヴァイの声が聞こえる。
「地下5階層、被害者は最下層に集中しています」
「警備状況は?」
「予想より厳重です。魔力能力者の数が情報より多いようです」
「何名程度ですか?」
「8名は確認できています」
予想の倍近い数だった。
「作戦の変更が必要でしょうか?」
アインが心配そうに尋ねた。
「いえ、予定通り実行します」
俺は決断した。
「戦闘部門の戦力なら十分対応できます」
「了解しました」
実際、この2週間で戦闘部門のメンバーたちは飛躍的に成長している。8名程度の敵なら問題ないはずだ。
「ドライ、戦闘部門の突入準備はどうですか?」
「完了しています。いつでも行けます」
「では、第二段階開始」
ドライ率いる戦闘部門12名が施設に突入していく。
「戦闘開始」
通信機から戦闘音が聞こえてきた。
「第一班、1階制圧完了」
「第二班、2階制圧完了」
「第三班、3階で敵と交戦中」
順調に進んでいるようだった。
「3階の敵、制圧完了」
「4階も制圧完了」
「最下層への進入開始」
戦闘部門の報告が続く。
「被害者を発見しました」
「状況はどうですか?」
「50名全員を確認。ただし、重篤な状態の者が多数います」
「医療部門、出動してください」
「了解」
医療部門4名が現場に急行した。
「治療開始。重篤者から優先的に処置します」
「支援部門も展開してください」
「了解しました」
支援部門6名が医療部門のサポートに向かった。
「司令官、想定以上に被害者の状態が深刻です」
医療部門のリーダーから報告が入った。
「どの程度ですか?」
「半数以上が危険な状態です。すぐに本格的な治療が必要です」
「分かりました。可能な限り迅速に搬送してください」
「はい」
俺も現場に向かうことにした。
「アイン、司令部を任せます」
「了解しました」
現場に到着すると、想像以上に悲惨な状況だった。
「これは……酷すぎる」
被害者たちは皆、実験の影響で重篤な状態にあった。体の変化も、これまで見た中で最も深刻だった。
「司令官、治療をお願いします」
医療部門のメンバーが俺に頼んできた。
「分かりました」
俺は被害者たちの治療を開始した。これまで培った魔力治療技術を駆使し、一人一人丁寧に処置していく。
「この子は竜の因子が過剰に融合しています」
「こちらは鳥の因子で呼吸器に異常が」
「この子は狼の因子で神経系に問題が」
それぞれが異なる症状を示している。
「全員を安定化させるには、かなり時間がかかりそうです」
「どのくらいですか?」
「最低でも2時間は」
「2時間……」
それだけの時間、この場所にいるのはリスクが高い。
「でも、彼女たちを見捨てるわけにはいきません」
俺は治療を続けることにした。
「全部門、この場での長期戦になります。警戒を継続してください」
「了解しました」
メンバーたちが周囲の警備を固めた。
治療は困難を極めた。これまでで最も深刻な実験被害者たちだった。
しかし、メンバーたちの懸命なサポートもあり、少しずつ状況は改善していった。
「1時間経過。30名の容態が安定しました」
「残り20名も、あと1時間で安定化できると思います」
医療部門の報告に、俺は安堵した。
そんな時、緊急事態が発生した。
「司令官、大変です」
ツヴァイから緊急通信が入った。
「どうしました?」
「敵の増援部隊が接近しています」
「増援?」
「50名規模の部隊です。20分後に到着予定」
これは予想外だった。
「戦闘部門の戦力では対処困難な規模です」
50名の敵部隊となると、確かに戦闘部門12名では厳しい。
「どうしますか、司令官?」
アインから問い合わせが入った。
俺は迅速に判断する必要があった。
「治療はあと1時間必要です」
「敵の到着まで20分」
「戦闘は不可避ですね」
俺は決断した。
「私が増援部隊を食い止めます」
「司令官が?」
「はい。皆さんは被害者の治療と搬送を継続してください」
「でも、50名もの敵を一人で……」
「大丈夫です。私なら対処できます」
実際、50名程度の敵なら俺一人で十分だった。
「分かりました。お気をつけて」
「必ず戻ります」
俺は『白銀の審判者』モードに変身し、増援部隊の迎撃に向かった。
15分後、俺は敵の増援部隊と遭遇した。
「あれが例の『白い悪魔』か」
「一人で我々50名を相手にするつもりか」
「愚かな奴だ」
敵たちが俺を包囲する。しかし、俺にとってはむしろ都合が良かった。
「皆さん、お疲れ様です」
俺は静かに挨拶した。
「今夜限りで、貴方たちの悪事は終わりです」
「ふざけるな!一人で何ができる!」
敵のリーダーらしき男が怒鳴った。
「やってみましょう」
俺は『白銀の刃』を百本展開した。
「な、何だあれは……」
「化け物か……」
敵たちが動揺している。
「『領域展開』」
俺の周囲500メートルが俺の支配領域となった。この範囲内では、俺が絶対的な支配者だ。
「これで終わりです」
一瞬で50名全員を無力化した。殺すことはしないが、しばらく動けない状態にする。
「戦闘終了。増援部隊は全て無力化しました」
俺は通信でメンバーたちに報告した。
「さすが司令官です」
アインの声に安堵が混じっていた。
「治療の方はどうですか?」
「順調に進んでいます。あと30分で全員搬送可能です」
「了解しました」
俺は施設に戻った。
30分後、すべての被害者の搬送が完了した。
「作戦『リベレーション・ワン』、完全成功」
アインが作戦終了を宣言した。
「お疲れ様でした、皆さん」
俺はメンバーたちを労った。
「今回の作戦で、50名の被害者を救出できました」
「やりましたね」
ドライが嬉しそうに言った。
「でも、まだまだです」
ツヴァイが冷静に指摘した。
「Project Chimeraの施設は、まだ15箇所以上残っています」
「そうですね。長い戦いになりそうです」
地下空間に戻った後、新しい被害者50名の治療と受け入れ準備を行った。
「また施設の拡張が必要ですね」
「はい。今度は100名規模の居住施設を建設しましょう」
俺は地下空間をさらに大規模に拡張することにした。
「司令官、今回の作戦で分かったことがあります」
アインが報告してくれた。
「どのようなことですか?」
「我々の組織運営が予想以上にうまく機能していることです」
確かに、今回の作戦では各部門が見事に連携していた。
「皆さんの成長が著しいですね」
「司令官のご指導のおかげです」
「いえ、皆さんの努力の成果です」
俺は心から感動していた。
最初は組織ごっこのつもりだったが、メンバーたちの真剣さと能力の高さで、本当に機能する組織になっている。
「次の作戦はいつ頃実行しますか?」
ドライが意欲的に尋ねた。
「2週間後を予定しています」
「分かりました。準備を進めます」
「ただし、今回の作戦で敵も我々の存在を強く警戒するようになるでしょう」
俺は注意を促した。
「次回からは、より困難な戦いになります」
「覚悟はできています」
メンバーたちの決意は固かった。
その夜、俺は今日の出来事を振り返っていた。
「まさか、ここまで本格的な組織になるとは」
最初は三人だけの小さなグループだったのに、今では95名の大組織になっている。
「しかも、皆本当に真剣だ」
俺にとってはエキサイティングな組織ごっこのつもりだったが、メンバーたちは人生をかけて取り組んでいる。
「この責任の重さを、もっと真剣に受け止めるべきなのか……」
でも、俺はまだ完全には理解していなかった。
メンバーたちが俺以上に本気で、本当に世界を変えようとしていることを。
そして、この組織が将来、想像を絶する規模に発展することを。
「まあ、気楽にいこう」
俺は軽い気持ちで結論づけた。
翌朝、メンバーたちが俺に朝の報告をしてくれた。
「司令官、新しい被害者の皆さんも順調に回復しています」
「各部門の訓練も継続中です」
「次の作戦の準備も着々と進んでいます」
俺は満足していた。
こんなに効率的で楽しい組織活動は初めてだった。
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