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第2話「秘密の力の修行開始」

 7歳になった俺は、もはや魔力操作にかなりの自信を持っていた。

 毎朝5時に起きて庭で練習を続けた結果、髪の毛一本だけなら完全に白銀色に変えることができるようになった。時間も最初の30分から、今では3分程度まで短縮できている。

「よし、今度は範囲を広げてみよう」

 今日の目標は髪の毛10本。前髪の一部分だけでも白銀に変えることができれば、大きな進歩だ。

 朝露が残る庭の片隅で、俺は集中していた。魔力を意識しながら、前髪の一房に手を当てる。『エターナルクエスト』の「白銀の審判者」の姿を頭に浮かべ、その髪色をイメージする。

 ゆっくりと魔力を流し込んでいく。1本、2本、3本……

「おお……」

 前髪の一部が徐々に白く染まっていく。まるで絵の具を薄く塗ったような感覚だった。5本、6本、7本……

「琴音、朝ごはんよー」

 母親の声が聞こえた瞬間、集中が途切れて魔力が散った。髪は一瞬で元の黒に戻る。

「くそ、もう少しだったのに」

 でも悔しさより達成感の方が大きかった。確実に上達している。このペースなら、夏休みが終わる頃には髪全体を変色させることができるかもしれない。


「琴音ちゃん、最近よく早起きするのね」

 朝食の席で母親が不思議そうに言った。

「うん、朝の空気が気持ちいいから」

 これは嘘ではない。実際、早朝の修行は気持ちが良かった。誰にも邪魔されず、静寂の中で魔力と向き合う時間は、前世では味わえなかった贅沢だった。

「健康的でいいことね。でも無理はしちゃダメよ」

「分かってる!」

 父親が新聞を読みながら話に加わった。

「最近のニュースを見ると、魔力能力者の活動がどんどん活発になってるな。昨日も大阪で建物火災を魔力で消火したって記事が載ってる」

 俺は興味深く耳を傾けた。

「へー、魔力で火を消せるんだ」

「水を操る能力者らしい。一瞬で大量の水を作り出して、火災を鎮圧したそうだ。すごい能力だよな」

 父親の話を聞きながら、俺は自分の魔力について考えていた。今のところ確認できているのは変身能力だけだが、他にもできることがあるかもしれない。攻撃魔法、防御魔法、補助魔法……『エターナルクエスト』の「白銀の審判者」は様々な魔法を使えた。

「俺も色々試してみよう」

 そんなことを考えていると、母親が心配そうな顔をした。

「琴音ちゃん、魔力能力者に憧れてるの?」

「え?」

 突然の質問に動揺した。まさか修行がバレたのか?

「いや、そんなに真剣な顔で聞いてたから……」

「あ、ああ!ちょっと興味があるだけだよ」

「そうね。でも魔力能力者になるのは大変よ。テレビで見る限り、みんな厳しい訓練を受けてるみたいだし」

 厳しい訓練、か。俺の秘密の修行も、客観的に見れば厳しい訓練なのかもしれない。でも俺にとっては楽しい時間だった。憧れの存在に近づいている実感があるから。


 学校が始まると、修行時間の確保が難しくなった。

 小学校1年生の俺は、クラスメイトたちと普通に過ごす必要がある。『白銀の審判者』計画の重要な部分は、「普段は完全に普通の人間として振る舞う」ことだ。

「おはよう、琴音ちゃん!」

「おはよう、美咲ちゃん」

 美咲は俺の隣の席の女の子だった。人懐っこくて、いつも笑顔を絶やさない。前世の俺なら、こんな風に自然に人と接することはできなかっただろう。

「今日の算数の宿題、分かった?」

「うん、大丈夫だよ」

 実際、小学1年生の勉強は前世の知識があれば楽勝だった。むしろ、子供らしく振る舞いながら、あまり目立たないよう注意を払うのが大変だった。

「琴音ちゃんって頭いいよね。いつも先生の質問に答えられるし」

「そ、そんなことないよ」

 褒められると照れてしまう。これは演技ではなく、本当に嬉しかった。前世では他人から褒められることなんてほとんどなかったから。

 授業中、俺は窓の外を見ながら考えていた。放課後の修行メニューについてだ。今日は瞳の色を変える練習をしてみよう。髪の色変化はかなり上達したが、瞳はまだ一度も成功していない。


 放課後、家に帰ると即座に庭に向かった。

「ただいまー」

「おかえりなさい。宿題は?」

「もう学校で終わらせたよ」

 これは本当だった。前世の知識があるおかげで、宿題なんて授業中に終わらせることができる。

 庭の奥、母親からは見えない場所に俺の「修行場」がある。大きな木の陰になっていて、家からは死角になる絶好のスポットだ。

「よし、今日は瞳の色に挑戦だ」

 手鏡を取り出し、自分の黒い瞳を見つめる。『エターナルクエスト』の「白銀の審判者」は琥珀色に発光する瞳を持っていた。それも単なる色の変化ではなく、内側から光を放つような神秘的な輝きだった。

「まずは色の変化から」

 魔力を瞳に集中させる。髪の毛とは違って、瞳は非常にデリケートな部分だ。下手をすれば視力に影響が出るかもしれない。慎重に、少しずつ魔力を送り込む。

 5分、10分……何も変化がない。

「うーん、やっぱり難しいか」

 髪の毛は体の外側だから比較的操作しやすいが、瞳は体の内部に近い。魔力の流し方も変える必要があるかもしれない。

 もう一度挑戦してみる。今度は魔力の質を変えてみた。髪の色を変える時は「染める」ようなイメージだったが、瞳の場合は「光らせる」イメージで挑戦してみる。

 すると、わずかに温かい感覚が瞳の奥に生まれた。

「おお?」

 手鏡を覗き込むと、確かに瞳の色が微妙に変化している。完全な琥珀色ではないが、黒からほんのりと茶色がかった色に変わっていた。

「やった!」

 初回にしては上出来だ。これなら継続すれば、いずれ完璧な琥珀色の瞳を作ることができるだろう。


 夕食の時間、俺は上機嫌だった。

「今日はご機嫌ね、琴音ちゃん」

「うん!学校が楽しかったから」

 これも嘘ではない。学校生活も修行も、どちらも楽しかった。二重生活の練習にもなるし、友達との時間も純粋に楽しめている。

「そういえば」父親がテレビのリモコンを手に取った。「今日のニュースでも魔力能力者の話題があったな」

 テレビには、空中に浮かぶ青年の映像が映し出された。

「本日、東京都内で新たな魔力能力者が確認されました。飛行能力を持つ19歳の大学生で、現在政府の魔力能力者登録を受ける予定です」

 飛行能力……いいなぁ。俺も空を飛んでみたい。『エターナルクエスト』の「白銀の審判者」も飛行能力を持っていた。

「魔力能力者って、政府に登録しなきゃいけないの?」

 俺の質問に、父親が答えた。

「能力の程度によるらしい。日常生活に支障がない程度の小さな魔力なら登録不要だが、飛行や大規模な物質操作ができる場合は登録が義務付けられてる」

 なるほど。つまり俺の変身能力程度なら、登録する必要はないということか。それは好都合だ。『白銀の審判者』として活動するには、政府に正体を知られるわけにはいかない。

「でも最近は未登録の魔力能力者による事件も増えてるから、法律が厳しくなるかもしれないね」

 父親の言葉に、俺は少し緊張した。事件?魔力能力者が悪いことをしているのか?

 テレビでは続けてニュースが流れた。

「一方、先週発生した渋谷での強盗事件では、犯人が未確認の魔力を使用していたことが判明しました。現場の防犯カメラには、一瞬で姿を消す犯人の様子が……」

 映像には、コンビニで金を奪った男が一瞬で消失する様子が映っていた。瞬間移動か透明化か、判断はつかないが、明らかに常人ではない能力だった。

「こういう悪用する奴がいるから、魔力能力者全体が警戒されるんだよな」

 父親の表情が曇った。

 俺は複雑な気持ちになった。魔力を悪用する人間がいる。それなら、俺のような『白銀の審判者』が必要じゃないか。正義のために戦う、隠れた最強の存在が。

 その夜、俺は布団の中で考えていた。


 俺の『白銀の審判者』計画は、単なる中二病的な妄想から始まった。しかし、世の中には本当に魔力を悪用する人間がいる。それなら俺の計画も、ただの自己満足ではなく、実際に役立つものになるかもしれない。

「悪い魔力能力者をやっつける、隠れた正義の味方……」

 想像するだけでワクワクした。普段は普通の小学生として過ごし、夜になると『白銀の審判者』として悪を裁く。完璧な二重生活だ。

 でも、そのためには今の能力では全然足りない。変身能力だけでは戦えない。攻撃魔法、防御魔法、そして身体能力の強化。様々な能力を身につける必要がある。

「明日から修行メニューを増やそう」

 まずは基本的な魔力操作の向上。そして、可能であれば攻撃魔法の習得。『エターナルクエスト』の「白銀の審判者」は光の矢を放つことができた。あれができれば、悪い奴らを倒すことができる。

 翌朝、いつもより30分早く起きて庭に出た。

「今日は新しい修行を始めよう」

 変身の練習は継続しつつ、今日は魔力弾の練習をしてみる。手のひらに魔力を集めて、それを球状にして放つ。ゲームでは基本中の基本の攻撃魔法だった。

 右手に魔力を集中させる。変身の時とは違って、魔力を外に放出する感覚を意識する。

「えい!」

 手を前に突き出すが……何も起こらない。

「うーん」

 攻撃魔法は変身魔法よりも難しいらしい。でも諦めるつもりはない。時間をかけて、必ず習得してみせる。

 30分間練習を続けた結果、手のひらにほんのわずかな光を発生させることができた。まだ攻撃と呼べるレベルではないが、確実に進歩している。

「よし、これで『白銀の審判者』への道がまた一歩進んだ」

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