第17話「戦闘訓練」
地下空間での新生活が安定してから1週間が経った。
「皆さん、今日から本格的な訓練を開始します」
地下空間の大訓練場で、俺はアイン、ツヴァイ、ドライの三人に向かって宣言した。
「これまでは個別訓練でしたが、今日からはチーム戦術も含めた総合的な訓練になります」
「了解しました、司令官」
三人が揃って答えた。この1週間で、彼女たちの基礎能力は飛躍的に向上している。
「まず、各自の能力を改めて確認しましょう」
俺は訓練メニューを説明した。
「アイン、貴女の光魔法の精度はどの程度ですか?」
「はい、現在は半径100メートル以内の標的に、95パーセントの命中率です」
「素晴らしい。では、今日は半径200メートルまで射程を伸ばしてみましょう」
「頑張ります」
アインが意気込んだ。
「ツヴァイ、空間操作の範囲は?」
「直径50メートルの範囲で、最大30分間の隠蔽が可能です」
「こちらも優秀ですね。今日は範囲を100メートルまで拡大してみましょう」
「はい」
ツヴァイが静かに頷いた。
「ドライ、破壊魔法の威力は?」
「厚さ3メートルのコンクリート壁を一撃で粉砕できます」
「頼もしい。今日は連続攻撃の訓練をしましょう」
「任せてください!」
ドライが拳を握りしめた。
「では、まず個別訓練から始めます」
俺は訓練場を三つのエリアに分割した。
「アイン、こちらのエリアで射撃訓練を」
「ツヴァイ、あちらで隠蔽・偵察訓練を」
「ドライ、向こうで破壊訓練を」
「了解しました」
三人がそれぞれの訓練エリアに向かった。
俺は順番に各エリアを回り、個別指導を行った。
まずはアインのエリアから。
「光弾の威力は十分です。今度は精密射撃に挑戦してみましょう」
200メートル先に、人型の標的を10体設置した。
「すべて急所に命中させてください」
「はい」
アインが集中して光弾を発射する。1発目、2発目、3発目……すべて見事に急所に命中した。
「完璧です。射程が伸びても精度は落ちていませんね」
「ありがとうございます」
アインが嬉しそうに微笑んだ。
「次は移動しながらの射撃です」
「移動しながら?」
「実戦では止まって撃てるとは限りません」
俺は動く標的を作り出した。
「これらを移動しながら撃ち抜いてください」
「分かりました」
アインが走りながら光弾を発射する。最初はコントロールが難しそうだったが、数回試すうちにコツを掴んだようだった。
「上達が早いですね」
「司令官のご指導のおかげです」
次にツヴァイのエリアに向かった。
「隠蔽の精度は申し分ありません。今度は移動中の隠蔽に挑戦しましょう」
「移動中の隠蔽ですか?」
「はい。偵察任務では、隠れながら移動する技術が重要です」
俺は複雑な障害物コースを設置した。
「このコースを隠蔽状態のまま通り抜けてください」
「承知いたしました」
ツヴァイが空間操作を発動し、姿を消した。俺の魔力感知でも、彼女の位置を特定するのが困難なほど完璧な隠蔽だった。
「素晴らしい技術です」
障害物コースを難なく通り抜けたツヴァイに、俺は称賛を送った。
「でも、まだ改善の余地があります」
「どのような点でしょうか?」
「隠蔽しながら情報収集する技術です」
俺は新たな課題を設定した。
「隠蔽状態を維持しながら、標的の詳細情報を収集してください」
「了解しました」
ツヴァイが再び姿を消し、慎重に標的に接近していく。
「完璧です。この技術があれば、敵の施設の偵察も安全に行えるでしょう」
「はい、頑張ります」
ツヴァイの能力の高さに、俺は改めて感心した。
最後にドライのエリアに向かった。
「破壊力は申し分ありません。今度は精密破壊に挑戦してみましょう」
「精密破壊?」
「必要な部分だけを破壊し、他は無傷で残す技術です」
俺は複雑な構造物を作り出した。
「この構造物の特定の部分だけを破壊してください」
「分かりました」
ドライが慎重に魔力を調整し、ピンポイントで破壊魔法を発動した。
「見事です。これなら、人質がいる状況でも安全に救出作戦を実行できます」
「本当ですか?」
「はい。この技術は非常に高度です」
ドライが誇らしそうに胸を張った。
個別訓練の後は、チーム戦術の訓練に移った。
「今度は三人で連携して、模擬戦闘を行います」
俺は大型の敵を模した標的を設置した。
「相手は強力な防御力を持つ敵です。三人の連携で攻略してください」
「了解しました」
三人が作戦会議を始めた。
「まず私が隠蔽で敵の背後に回ります」
ツヴァイが提案した。
「その間に、私が正面から注意を引きます」
アインが続けた。
「隙ができたところで、私が決定的な一撃を」
ドライが最後を引き受けた。
「良い作戦ですね。では、実行してください」
三人の連携は見事だった。ツヴァイの隠蔽、アインの陽動、ドライの決定打。完璧なチームワークで標的を攻略した。
「素晴らしい連携でした」
俺は心から感動していた。
「これなら、どんな敵でも倒せるでしょう」
「ありがとうございます」
三人が嬉しそうに答えた。
「でも、まだまだ改善の余地があります」
「どのような点でしょうか?」
「複数の敵との戦闘です」
俺は新たな課題を設定した。
「今度は5体の敵を同時に相手にしてください」
「5体……」
「大丈夫です。皆さんなら必ずできます」
俺の激励に、三人が決意を新たにした。
複数敵との戦闘訓練も、三人は見事にクリアした。
「完璧です。これで基本的な戦闘技術は習得できました」
「次は何を練習しますか?」
アインが意欲的に尋ねた。
「次は……実際の任務を想定した総合訓練です」
俺は新たな訓練プログラムを説明した。
「施設への潜入、被害者の救出、敵との戦闘、安全な撤退。すべてを含んだ実戦形式の訓練です」
「実戦形式……」
三人の表情が真剣になった。
「ただし、非常に厳しい訓練になります」
「覚悟はできています」
ドライが即座に答えた。
「私たちの目標は、すべての被害者を救うことです」
アインが決意を述べた。
「そのためなら、どんな厳しい訓練でも耐えます」
ツヴァイも静かに決意を表明した。
三人の強い意志を見て、俺は嬉しく思った。
「分かりました。明日から実戦形式の訓練を開始しましょう」
「はい!」
三人が力強く答えた。
こうして、『ゼフィラス』の本格的な戦闘訓練が始まった。