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第14話「復讐の意志」

 三人との個別訓練を始めてから1週間が経った。

「白銀様、私たちに重要なお話があります」

 地下空間の会議室で、アイン、ツヴァイ、ドライの三人が揃って俺の前に座っていた。三人とも、これまでにない真剣な表情をしている。

「どのようなお話でしょうか?」

「私たちの記憶について……です」

 アインが代表して口を開いた。

「最近、訓練を続けているうちに、断片的な記憶が戻ってきているんです」

「記憶が戻っている?」

「はい。完全ではありませんが、実験される前の記憶や、実験中の記憶が少しずつ……」

 ツヴァイとドライも頷いている。

「どのような記憶ですか?」

「まず、私たちがどこから来たのかが分かりました」

 アインが重々しく言った。

「私たちは、全員が魔力能力者だったんです」

「魔力能力者……」

「はい。それも、かなり高い能力を持つ者として、組織に目をつけられていました」

 これは重要な情報だった。Project Chimeraが狙っていたのは、一般人ではなく魔力能力者だったのか。

「他にも思い出したことがあります」

 ドライが拳を握りしめて言った。

「あの組織は……まだ活動を続けています」


「まだ活動を続けている?」

 俺は驚いた。Project Chimeraの主要拠点は全て破壊したはずだ。

「はい。私たちが閉じ込められていた施設は、氷山の一角だったようです」

 ツヴァイが静かに説明した。

「断片的な記憶によると、全国に少なくとも20箇所以上の施設があります」

「20箇所以上……」

 想像以上に大規模な組織だった。

「それだけではありません」

 アインの表情がさらに暗くなった。

「組織の真の目的も思い出しました」

「真の目的?」

「人間と魔物の融合による超人兵士の創造……それは表向きの目的でした」

 アインが震え声で続けた。

「本当の目的は……世界の支配です」

「世界の支配?」

「成功した被験体たちを使って、各国の政府を乗っ取る計画があります」

 これは想像を絶する規模の陰謀だった。

「記憶によると、既に政府の要人の中にも、組織の息のかかった者がいるようです」

 ドライが怒りを込めて言った。

「だから、私たちの存在も隠蔽されているんです」

 確かに、Project Chimeraに関する情報は一切表に出ていない。政府内部に協力者がいれば、情報統制は容易だろう。

「他にも……」

 ツヴァイが重い口を開いた。

「まだ多くの被害者がいます。私たちのような実験を受けている人たちが」


「どのくらいの被害者がいると思いますか?」

 俺は慎重に尋ねた。

「記憶が曖昧ですが……少なくとも数百人は」

 アインの答えに、俺は言葉を失った。

「数百人……」

「はい。そして、成功率は約10パーセント。つまり、9割の人は……」

 アインが言葉を詰まらせた。

「死亡するか、処分されているということです」

「許せない……」

 ドライが立ち上がって拳を振り上げた。

「絶対に許せません!」

「ドライ、落ち着いて」

 ツヴァイがドライを制止したが、その瞳にも深い怒りが宿っていた。

「でも、ツヴァイだって怒ってるでしょう?」

「……はい。許せません」

 三人の怒りは当然だった。これほどの規模の人体実験と殺戮が行われていたのだから。

「白銀様」

 アインが俺を見つめた。

「私たちは決めました」

「何を?」

「この組織を完全に壊滅させます」

 アインの瞳に、強い決意の炎が燃えていた。

「そして、すべての被害者を救出します」

「それは……非常に危険な任務になりますが」

「覚悟はできています」

 ドライが即座に答えた。

「私たちは生き延びました。だからこそ、まだ苦しんでいる人たちを救う責任があります」

 ツヴァイも静かに頷いた。

「これは……復讐でもあります」


「復讐……」

 俺は三人の表情を見つめた。そこには、深い悲しみと怒り、そして揺るぎない決意があった。

「私たちの奪われたものは戻りません」

 アインが静かに語った。

「記憶も、普通の人生も、全て奪われました」

「でも、同じ苦しみを味わう人をこれ以上増やしたくありません」

 ツヴァイが続けた。

「だから、この組織を根絶やしにします」

 ドライが最後に宣言した。

「白銀様、私たちに力を貸してください」

 三人が揃って俺に頭を下げた。

「私たちだけでは限界があります。でも、白銀様と一緒なら……」

「きっと、すべての被害者を救えるはずです」

「お願いします」

 俺は三人の真剣な願いに心を動かされた。これは単なる正義感ではない。自分たちと同じ境遇の人々を救いたいという、純粋で強い意志だった。

「分かりました」

 俺は立ち上がった。

「私も同じ気持ちです。Project Chimeraは絶対に許せません」

「白銀様……」

「ただし、これは長期戦になります。相手は想像以上に大きく、巧妙です」

「はい」

「しっかりとした計画と準備が必要です」

「どのような計画でしょうか?」

 アインが身を乗り出した。

「まず、組織の全容を把握すること。そして、被害者の救出。最後に、組織の完全壊滅」

「段階的に進めるのですね」

「そうです。急いては事を仕損じます」


「それでは、今日から本格的な作戦会議を開始しましょう」

 俺は会議室の大型モニターを起動した。

「まず、現在分かっている情報を整理します」

 画面に日本地図が表示され、既知の施設の場所が赤いマークで示された。

「これまでに破壊した施設が3箇所。しかし、実際にはこの数倍の施設が存在している可能性があります」

「私たちの記憶が正しければ、全国に20箇所以上」

 アインが確認した。

「では、残りの施設を特定することから始めましょう」

 俺は魔力蜘蛛のネットワーク情報を表示した。

「私の監視システムを使って、怪しい魔力反応を探します」

「私たちも協力できます」

 ツヴァイが申し出た。

「実験施設の特徴的な魔力パターンを覚えています」

「それは心強い」

「私も戦闘要員として役に立ちます」

 ドライが意気込んだ。

「破壊工作なら任せてください」

「私は情報収集と作戦立案を担当します」

 アインも役割を申し出た。

「素晴らしい。では、役割分担を決めましょう」

 俺は三人の能力を考慮して、最適な役割を割り振った。

「アインは情報収集と戦術立案」

「ツヴァイは偵察と隠密行動」

「ドライは戦闘と破壊工作」

「了解しました」

 三人が揃って答えた。

「そして私は、全体の指揮と最終的な戦闘を担当します」

「はい」

 こうして、俺たちの復讐作戦が正式に始動した。

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