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第10話「裏組織の影」

 謎の組織の調査を始めてから2週間が経った。

「ついに尻尾を掴んだ」

 地下空間のモニタールームで、俺は最新の調査結果を確認していた。魔力線の逆探知を繰り返した結果、東京の拠点候補を3箇所まで絞り込むことができた。

 新宿の高層オフィスビル、渋谷の研究施設、そして池袋の地下施設。どれも表向きは正当な事業を行っているが、魔力反応のパターンが異常だった。

「今夜、直接偵察してみよう」

 ただし、相手も相当な実力者揃いだ。迂闊に近づけば察知される可能性がある。最大限の注意を払って行動する必要がある。

 その時、モニターに緊急アラートが表示された。

「また異常事態……今度は福岡か」

 九州の『キュウシュウ・ドラゴンスレイヤーズ』が、予想外の強敵と遭遇していた。しかし今回は、これまでとは明らかに様子が違う。

「魔力強化のレベルが異常に高い……」

 通常の3倍どころか、5倍以上の強化が施されている。これは『キュウシュウ・ドラゴンスレイヤーズ』の実力では絶対に対処できないレベルだった。

「相手も本気になってきたか」

 俺は即座に現場に急行した。


 福岡のダンジョン『竜王の巣』は、完全に異常事態に陥っていた。

 内部の魔物が全て5倍以上に強化されており、『キュウシュウ・ドラゴンスレイヤーズ』のメンバーは既に2名が重傷を負っている。

「これは危険すぎる」

 俺は即座に『白銀の審判者』として介入した。

「皆さん、すぐに避難してください」

「白い守護天使様……助かりました」

 メンバーたちを安全な場所に避難させた後、俺は強化された魔物たちと対峙した。

「これほどの強化……相当な魔力を消費しているはずだ」

 ボスモンスターの古竜は、通常のS級に匹敵する強さまで強化されていた。しかし、俺にとっては大した脅威ではない。

『白銀の刃』百本展開で、一気に決着をつける。

「終了です」

 全ての魔物を無力化した後、俺は例の魔法陣を調査した。今回の魔法陣は、これまでで最も複雑な構造をしていた。

「技術レベルが向上している……相手も本格的に動き始めたということか」

 魔力線を逆探知すると、操作者は福岡市内にいることが分かった。

「福岡にも拠点がある……東京、大阪、福岡……全国に支部を持つ大規模組織だ」

 俺は慎重に魔法陣の構造を分析した。すると、これまでに見つからなかった新しい情報を発見した。

「これは……組織のコードネームか?」

 魔法陣の隅に、微かに刻まれた文字があった。『Project Chimera』という文字が見える。

「プロジェクト・キメラ……」

 これが組織の正式名称、あるいは作戦名らしい。ようやく相手の正体に関する具体的な手がかりを得ることができた。


 翌日、俺は『Project Chimera』について詳しく調査した。

 しかし、一般的な情報源では一切の情報が見つからない。政府のデータベースにも、学術論文にも、この名前は登場しない。

「完全に秘匿された組織だ」

 表の世界には一切痕跡を残さない、真の闇組織ということか。

 高校では、最近の異常事態について話題になっていた。

「また大きな事故があったらしいね……」

 美咲が心配そうに言った。

「今度は九州で……『キュウシュウ・ドラゴンスレイヤーズ』が全滅寸前だったって」

「でも『白い守護天使』が助けたんでしょ?」

「うん、でも最近本当に事故が多すぎるよ。なんか変だよね」

 美咲の直感は的確だった。一般の人々も、異常さを感じ取り始めている。

「政府は何してるのかしら」

「きっと調査してるんじゃない?でも原因が分からないから対策できないとか……」

 実際、政府は事態の深刻さを把握していないようだった。表面的な事故として処理され、組織的な妨害工作だとは認識されていない。

「これは俺が独自に対処するしかないな」

 授業中、俺は今夜の偵察計画を詳細に検討していた。


 夜10時、俺は新宿の高層オフィスビルの偵察を開始した。

 透明化と魔力遮断を同時に発動し、完全に気配を隠して建物に侵入する。

 表向きは『先端技術研究所』という名前の企業が入居しているビルだったが、内部の魔力反応は明らかに異常だった。

 地下3階で、俺は決定的な証拠を発見した。

「これは……」

 巨大な研究施設が広がっており、そこでは人間を使った実験が行われていた。檻の中に若い女性が数名囚われており、彼女たちの体には異常な変化が見られる。

「人体実験……魔物との融合実験か」

 実験台の上では、魔物の因子を人間に移植する手術が行われていた。成功すれば超人的な能力を得られるが、失敗すれば魔物化するか死亡する。

「許せない……」

 俺は即座に研究者たちを無力化し、被験者たちを救出した。しかし、彼女たちの多くは既に実験の影響で記憶を失っており、正常な生活に戻ることは困難だった。

 研究資料を調査すると、『Project Chimera』の全貌が明らかになった。

「人間と魔物の融合による超人兵士の創造……そして民間攻略会社の妨害は、自分たちの研究成果の優位性を示すため」

 つまり、政府や社会に対して「民間会社では対処できない脅威に、我々の技術が必要だ」とアピールするための工作だった。

「自分たちの商品価値を高めるために、民間会社を妨害していたのか……」

 研究資料をさらに詳しく調べると、恐ろしい事実が判明した。

 実験の成功率は約10パーセント。失敗した被験者の大部分は魔物化するか死亡し、その遺体はダンジョンに廃棄されている。つまり、最近ダンジョンで発見される「身元不明の変死体」は、全てこの実験の犠牲者だった。

「これは大規模な連続殺人事件だ……」

 しかも、成功した被験者たちは記憶を消去され、組織の戦闘員として利用されている。完全に人権を無視した非人道的な組織だった。

 俺は研究施設を完全に破壊し、証拠資料を全て回収した。そして、救出した被験者たちを安全な場所に避難させる。

「彼女たちをどうするか……」

 記憶を失い、体に異常な変化を抱えた彼女たちが、普通の社会生活に戻るのは困難だろう。俺が責任を持って面倒を見る必要があるかもしれない。


 翌日、俺は地下空間の一部を改造して、救出した被験者たちの療養施設を作った。

 3名の女性を保護したが、全員が深刻な状態だった。

 一人目は金髪で、頭部に狐のような特徴が現れている。二人目は銀髪で、犬のような特徴。三人目は赤髪で、狼のような特徴。いずれも実験の影響で、動物的な特徴を獲得していた。

「記憶はほとんど失われているが、命に別状はない」

 俺は彼女たちの魔力回路を調整し、体調を安定させた。実験の影響を完全に除去することは不可能だが、少なくとも健康的な生活は送れるようになった。

「しばらくはここで療養してもらおう」

 彼女たちが目を覚ましたのは、俺が療養室の設備を整えた後だった。

「こ、ここは……?」

 最初に目を覚ましたのは金髪の少女だった。狐のような耳と尻尾があるが、魔力で一般人には見えないよう隠蔽している。

「安全な場所です。もう大丈夫」

 俺は『白銀の審判者』の姿で彼女たちに声をかけた。

「私たち……何をされていたんですか?」

「酷い実験の被害者です。でも、もうその組織は破壊しました」

 三人とも記憶を失っているため、自分たちが何者なのか分からない状態だった。

「私たち……普通の人間じゃないんですね」

 銀髪の少女が自分の特徴に気づいて悲しそうに言った。

「外見は変わりましたが、心は人間のままです。何も変わっていません」

「でも……こんな姿じゃ、社会に戻ることは……」

「それについては、後でゆっくり考えましょう。まずは体調の回復が優先です」

 俺は彼女たちに食事と休息を提供し、心のケアも行った。実験の影響で精神的なダメージも深刻だったが、時間をかけて癒していく必要がある。


 その夜、俺は『Project Chimera』の他の拠点についても調査した。

 大阪と福岡の拠点も、新宿と同様の研究施設だった。いずれも人体実験を行っており、多数の被害者が存在していた。

 俺は3日かけて全ての拠点を破壊し、合計で15名の被験者を救出した。しかし、地下空間だけでは全員を収容しきれない。

「療養施設を拡張する必要があるな」

 俺は地下空間をさらに大幅に拡張し、被害者たちが快適に生活できる環境を整備した。医療設備、居住区画、食堂、娯楽施設まで完備した地下都市のような空間になった。

 被害者たちは皆、実験の影響で記憶を失い、動物的な特徴を獲得していた。狐、犬、狼、猫、鳥、竜……様々な特徴を持つ少女たちだった。

「全員、10代後半から20代前半の女性……組織は意図的にこの年代を標的にしていたのか」

 俺は彼女たちの治療とケアに専念した。魔力による治療で体調は安定したが、失われた記憶を回復することは困難だった。

「新しい人生を歩んでもらうしかない」

 俺は彼女たちに新しい名前を与えることにした。記憶を失った以上、過去の名前にこだわる必要はない。

 最初に救出した三人には、特別な名前を付けた。


 金髪の狐の特徴を持つ少女には「アイン」

 銀髪の犬の特徴を持つ少女には「ツヴァイ」

 赤髪の狼の特徴を持つ少女には「ドライ」


「これが貴女たちの新しい名前です」

「アイン……」「ツヴァイ……」「ドライ……」

 三人とも自分の新しい名前を口にして、微笑んだ。

「ありがとうございます……私たちを救ってくださって」

 アインが代表して感謝の言葉を述べた。

「当然のことです。これからは安全に暮らしてください」

 しかし、俺はまだ気づいていなかった。この救出劇が、俺の人生を大きく変える出来事の始まりだということを。

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