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散文詩  作者: 百島圭子
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散文詩 30 「前世の記憶」

日々、心に残ったことを文字にしてみた

「前世の記憶」


大学の時、少しだけ陶芸部にいたことがある。ろくろで何か作ってみたかった。ろくろを使う前に肝心の土を捏ねる作業をしなければならない。これはかなりの重労働だ。大学では潤沢な資金はないから使用済の土を何度も使う。固い土を捏ねて捏ねて再生する。

土の練り方に菊練りという手法がある。捏ねた土が菊の花のように見えるからついた名称だ。


先輩はこの練り方は難しいからできるようになるまで何年もかかったよと言う。私は先輩に教えてもらい菊練りに初めて挑戦したが、数分でできてしまった。私の手元では土が美しい菊の花の形になっている。

先輩は驚いて「お前、そんなにすぐできたら人生つまんないだろう!」と言う。大きなお世話だ。あんたがぶきっちょなだけ、私は人生楽しんでますよと心の中で反論し、「偶然ですよ。」とか適当に返した。


こういうことはよくある。私は自分が器用なのだと思っていた。ほとんどのことがたいていすぐにできてしまうからだ。何回かやると本職にできるのではと思う。


こんなこともあった。クロアチアのスプリトに行ったときのことだ。スプリトはアドリア海沿岸に位置する古い古い港町で、古代ローマの遺跡が残っている。旧市街は迷路のように細い道が入り組んでいて、建物が林立しているから右も左もすぐに方向がわからなくなる。地図もGPSも頼りにならない。


私は旧市街の中に泊まっていたが、どこに出かけても何も見ずに何も考えずに自分の宿に必ず帰ってこられた。とても不思議だった。私は特別方向感覚がいいほうではないし、東京でもiPhoneなしでは目的地に着けるかわからない。


その時、思った。これは前世の記憶だ。私はきっと何百年も前にここに住んでいたのだ。この考えに私は妙に納得した。


初めてやることがすぐにできてしまったり、初めて行ったところで迷子にならなかったり、とても不思議な現象が前世の記憶ということで説明がつく。初めて行った場所なのに来たことがあるような気がするときもある。初対面なのに昔から知っていたような人もいる。


輪廻転生の考えを周りの大人たちはみな当たり前のこととして話していたから、私は特に意識したことがなく死んだら生まれ変わるものだと思って育った。


今度生まれ変わる時はイギリスの貴族の家に生まれてとか、身長185センチで生まれてスーパーモデルになるとか、来世に期待することもあった。


しかし長く生きてくると、なんだかもういいやって思う。もう十分。生まれ変わってまた人間を生きるのはもういいや。かと言ってアフリカ象になって密猟者に牙を取られて殺されるのも嫌だし。輪廻転生なんかなくて、死んだらおしまいということになんとかしてもらえないだろうか。

どの神様にお願いすればいいんだろう。



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