終生旅行
俺はブラック企業に勤める人間だ。家に帰れるのは月に二度だけ、それ以外は会社な に泊まって寝るまで仕事をする。そんな会社だ。そんな俺は今オシャレなカフェにいる。思い切って会社を飛び抜けてきたのだ。それもある人に会うために。
「すみません遅れて。待ちました?」
外の景色を見て虚けていると急に声をかけられたので驚いた。
「あなたが華さんですか?」
「ということは、あなたが御幸さんですね」
待ち合わせ相手は見た目を知らないチャットを送りあった相手だった。
ある日、鬱々としたこの人生に一筋の光が差した。
「一緒に死にませんか?」
華さんから送られたこの一言は俺の心をうった。琴線に触れたと言っても過言では無い。そうして、共に死ぬためにこうして顔を合わせたのだ。
「いつにします?」
外から聞くとデートの打ち合わせのように思えるのだろうか。そう思いながら言葉を返す。
「なるべく早く、楽に死ねるといいな」
「そうですね。でも独り身で遺産の行く末がよく分からないんです。だから良ければお譲りさせていただきたくて。そのための時間を頂けますか?」
「生憎、俺も独り身です。どうか自分のために使ってください。」
そう返すと彼女は悩んだ素振りを見せるようにした後に言った。
「じゃあ2人で使っちゃいましょうよ。最後くらいはばーっと使いましょ。」
自慢じゃないが俺は相当お金を持っている。使う時間がなかっただけだ。本当は断りたいがこの人と死ぬ。そう決めている俺はそれが出来なる事だけは嫌だったのでそれを承諾することにした。
「いいですよ、何しましょう。どのくらいありますか?」
華さんは黙って通帳を見せた。そのには8桁程のお金があった。
「俺も、同じくらいです。」
華さんは少し驚いた素振りを見せた。きっと貯金に自信があったのだろう。そんな彼女に俺はある提案をした。
「海外旅行しませんか?世界を見て回るんです。そうすればきっと自分にとって一番の死に場所を見つけられる。」
思いつきの提案だったが彼女は快く承諾してくれた。
そうして俺たちは世界中を旅した。その間に華さんについて様々なことを知った。虫が好きなこと、青が好きなこと、メールは適当に送ると俺に着いたこと。それを運命だと感じてくれたこと。自分のこともよく知れた。実は虫が無理なこと。色がよく見えなくなっていること。華さんがタイプの女性だということ。
世界を回った俺たちは死に場所を決めかねていた。もしその決断力があれば会社を辞められていたかもしれない。辞められていないのだから死に場所を選ぶ勇気はきっとないだろう。悩み悩んで、ある作戦を決行することにした。
飛行機に乗った俺たちは口の中に入れていた折りたたみ式のガラスクラッシャーを取り出して窓を割った。
そうして2人で外の世界へ飛び込んだ。
その先は凍えるほど寒く、急激に呼吸が苦しくなった。だが、それが望んだものだった。朦朧とする意識の中、私はキスをした。きっと出会いが違えば幸せになれたのだろう。そう思ったが私は今も幸せだった。