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茜色の君とチョコレート

作者: 昼月キオリ

茜色の君とチョコレート

ー自己紹介ー

仕事の帰り道。外はすでに暗くなっていた。

誰かが言ってた。

工場で働いている人にろくな奴はいないって。

はつね「あなただって工場勤務のくせに」(ぼそっ)

はつねはメガネを指先でスッと整えた。

ぼやくなぼやくな。

はぁ、やばい。今私、心が死んでる。

だけどこういう時こそ人を信じちゃいけない。

人を求めてはいけない。人に期待してはいけない。

誰かに慰めてもらうんじゃなくて自分で自分の機嫌を取りに行かなくちゃいけない。

これは私が31年間生きて来た中での教訓だ。


はつね31歳。

工場で働いている。

メガネをかけ、肩まで伸びた髪はシンプルに後ろでひとつに結んでいる。


ジョン22歳。

チョコレート専門店でアルバイトをしている。

グリーンアイ。くるくると癖毛な赤髪。センターパート。長さはミディアム。そばかす。


シース。47歳。

チョコレート専門店のオーナー。

ジョンと同じ国籍。

背が高くガタイがいい。



ー2月1日ー

はつねは仕事が終わった後、疲れ果てた体を引きずりチョコレート専門店に向かった。

ちょうど夕陽が落ちかけていた頃だった。

最近新しくできたお店らしく、チョコレート好きなはつねはずっと気になっていた。

ジョン「いらっしゃいませ」

はつね「こんばんは」

綺麗なグリーンアイと茜色の夕陽みたいな髪。

クルクルとした癖毛が可愛いらしい。

歳は10個近く下だろう。

そばかすが特徴的な笑顔。チャーミングという言葉がよく似合う子だと思った。



ー2月3日ー

二日後の夕方。

はつねがチョコレート屋に行くとこの間の店員さんが二人組の若者にいじめられているのを見かけた。

ジョンよりも若い二人組の男性だった。

男性1「余所者が店なんか出してんじゃねーよ」

男性2「そーだそーだ!」

ジョン「ご、ごめんなさ」

はつね「謝っちゃだめ」

ジョン「?」

ジョンが声のする方へ振り返るとそこには一人の女性が立っていた。

あ、この間のお客さんだ。

男性1「な、何だあんたは」

はつね「それはこっちのセリフよ、人が一生懸命仕事してるのに

茶々入れるんじゃないわよ」

男性2「関係ない奴は引っ込んでろよ!」

はつね「関係あるわよ!私はこの店のファンなんだから!」(バアアン!!)

はつねは仁王立ちしながら堂々と言い放った。

ジョン「!」

ジョンははつねのその言葉に目を見開く。

男性1「ファン?」

男性2「だと?」

はつねの意外な言葉に二人は一瞬キョトンとする。

はつね「そうよファンよ!!」

男性1「2回も言った!何この人!!」

男性2「何か変なおばさん出てきたし関わりたくないから行こうぜ!」

男性1「あ、ああ・・・」

二人はそそくさとその場を去っていった。

はつね「何よ、失礼しちゃうわね」

ジョンはぷりぷりと怒っている彼女の横顔を見る。

歳上とは思えないな。

感情を表に出した彼女はかなり幼く見えた。

僕の半分しかない体で男二人に立ち向かった。

勇敢で心優しい人だと思った。

ジョン「ありがとございます」

はつね「いえいえ、むしろお店の評判下げちゃったかもしれない、ごめんなさい」

ジョン「ノーノー、大丈夫です、あなたが味方なってくれて嬉しかったです」

こう言ったら失礼かもしれないけど彼の片言の日本語は可愛らしかった。

はつね「ふふ、どういたしまして、じゃあまた来ます」

ジョン「はい、また来てください」

この日からあなたは僕のお気に入りだ。




ー2月8日ー

ジョン「大丈夫ですか?」

何度目かの仕事帰りにこの店に立ち寄ったある日、例の店員さんに突然話しかけられた。

はつね「え?」 

ジョン「ここに来る時、いつも疲れた顔してるから

少しだけでもチョコレートで癒されて欲しい」

はつね「ありがとうございます・・・」

うう、アラサーの荒んだ心に彼の優しさが心に染みる。




ー2月14日ー

今日、2月14日。私は自分用にチョコレートを買いに行こうとお店に立ち寄った。

仕事を頑張った自分へのご褒美も兼ねて。

ジョン「これ、受け取って下さい!」

はつね「え?」

思ってもみなかったジョンの言葉にはつねは目をまん丸くさせて固まる。

ジョン「今日バレンタインだから」

ああ、そうか、このチョコレート新作か何かなんだ。

きっとそれを売りたくて言ったのだろうと私は質問をした。

はつね「ありがとうございます、あの、いくらですか?」

ジョン「ノーノー、お金はいらないです、僕からあなたへバレンタインのプレゼントです」

え?プレゼント?無料で?

はつね「ありがとうございます・・・??」

私は頭にはてなをいっぱい浮かべながら帰宅した。

家に帰って箱を開けるとそこに入っていたのは

夕陽のようなグラデーションのチョコレートと

夜空を切り取ったような深い青色のチョコレートだった。

青い方のチョコレート中にはキラキラした星型の砂糖が散りばめられている。

まさかに夜空に浮かぶ星のようだった。

きっと常連さんに配ってるんだろうなぁ。イベントか何かだったのかな。(鈍い)

はつねは目を点にしながらぽや〜っとそんなことを考えていると箱の中身に気付く。

はつね「あれ、箱の中に紙が・・・なんだろ」

"好きです、付き合ってください"ジョンより

ジョンっていう名前なんだ。

あの子・・・色々な女の子にこうやって渡してるんだろうな。(人を信用できないタイプ)


私の恋愛経験は賽の河原と同じだ。

好きになっては失い、好きになっては失う。

石を積んでは崩され、積んでは崩され、その繰り返し。

いつしか積むことさえしなくなり、今ではそんな心ごと忘れていた。

ジョンさんに対しても表面上だけで心を許すことはできないでいた。

信頼とか愛情とかどこかに落としてきてしまった私と明るい彼とでは住む世界があまりに違い過ぎる。




ー2月18日ー

バレンタインから4日後。

この日、街にショッピングに出かけた時に少し疲れてしまい、公園で座って休んでいた。

そんな時、チョコレート専門店の常連のお客さん達に話しかけられた。

お店から公園までは目と鼻の先で、時々、チョコレートの袋を持った人が歩いていた。

今目の前にいるのは60代くらいのおじさま二人だ。

前にお店に寄った時に何度か顔を合わせていたのでお互いに覚えていた。

男性A「お姉ちゃん、バレンタインの返事どうするんだい?」

はつね「え?」

男性A「ほら、兄ちゃんからもらってただろう?」

はつね「え、でもバレンタインのってあれは常連さんに配ってたものですよね?イベントか何かで」

男性A「ははは!何言ってるんだよ、そんな聞いた事ないぜ」

男性B「女の子に渡してるなんて聞いたのあんただけだよ」

男性A「こりゃあ兄ちゃん苦労するなぁ」

男性B「だな」

はつね「は、はぁ・・・」

男性B「俺たちはさ、あの兄ちゃんもオーナーさんも気に入ってるんだ」

男性A「そうそう、だから上手くいって欲しいなっていうただの親心さ」

はつね「親心ですか・・・」

男性A「まぁ、あんたが兄ちゃんに気がないなら無理にとは言わないがあの兄ちゃんは本気だと思うよ」

男性B「うんうん、俺もそう思ったね」

男性A「ちなみにチョコレートはどんな感じのだったんだい?」

はつね「えと、夕陽みたいなオレンジのグラデーションのものと、濃い青にラメがかった夜空みたいなグラデーションのものです」

二人は顔を見合わせると笑った。

男性A「こりゃ、本気も本気だなぁ」

男性B「ああ、間違いないぜお嬢さん」

はつね「え、どうしてですか?」

男性A「だってたぶん、オレンジの方は兄ちゃん自身を、青の方はあんたをイメージしたんだろうぜ」

はつね「え?オレンジはともかく、私は何で青なんですか?」

男性A「そりゃああんたのサイフが星をモチーフにしたもんだったからだろ」

男性B「俺たちチラッと見ただけだけど星じゃなかったか?」

はつね「あ、はい、確かに星ですけど」

男性A「まぁ、後はお若い二人に任せますか」

男性B「はは、だな」

はつね「いえ、私は彼と違ってもう若くは・・・」

男性A「ははは、何言ってんだい、たかだか俺らの半分だろう」

男性B「ああ、まだまだこれからさ、若い若い」

二人の豪快な笑いに悩みが少し晴れた気がした。

男性A「お姉ちゃんは結婚とか恋人はいるのかい?」

はつね「いえ、いません」

男性A「二人とはよく話すけど彼もいないはずだよ、だったら大事なのはお嬢さんが兄ちゃんをどう思っているか、それだけじゃないかい?」

はつね「私がどう思っているか・・・」

男性B「じゃあな!いい恋しろよー!」

手を振りながら去っていく元気な二人の男性。

二人がいなくなると急に静かになった。

はつね「台風みたいな二人だったな・・・」(ポツリ)

私は彼をどう思っているんだろう・・・。

可愛いし癒されるなとは思うけど、これが恋か愛かと問われたら分からない。

第一、歳が離れすぎてる。

私みたいな人間がそんなこと思うこと自体おこがましすぎる。




ー3月14日ー

今日は仕事がないので髪やメイクを整える。

お気に入りのワンピースを着て星がモチーフのピアスをつける。

私は彼にチョコレートのお返しを渡すべくお店に向かった。

しかし、あろうことか店の前で転んでしまった。

バタッ!!

はつね「いたい・・・」

膝を擦りむき、そこから血が滲んでいる。

ジョン「大丈夫ですか!」

店の中からはつねが転んだ様子が見えたジョンは急いで外へ出て来た。

はつね「あ、ジョンさん、すみません、店の前で転んじゃって・・・恥ずかしい」

ジョンさんが腕を取って立ち上がらせてくれた。

彼の腕は優しいのに力強かった。


はつね「ありがとうございます・・・」

オーナー「ありゃりゃ、大丈夫かい?絆創膏持ってくるから中に入って椅子に座ってて」

オーナーさんが救急箱から消毒液と大きめの絆創膏を取り出し、手当てしてくれた。

オーナー「骨は大丈夫そうだね、帰っても痛かったら病院行くんだよ」

はつね「はい、すみません、ありがとうございます・・・」

ジョン「大丈夫ですか?」

はつね「はい、だいぶ痛みも引いてきました」

ジョン「良かった、元気になって」

二人のいい雰囲気にオーナーが急に立ち上がる。

オーナー「おおっと!そうだった!ジョン、俺これから買い出しに行かないといけないんだった!

一時間ほど店を開けるけどその間よろしくね!」

ジョン「え?は、はい、分かりました」

オーナーの一人寸劇にポカンとしたまま二人は彼の背を見送ったのだった。

はつね「あの、ジョンさん・・・これ・・」

ジョン「これは、ホワイトデー?」

はつね「はい、箱、少し潰れてしまいましたけど・・・」

ジョン「だいじょーぶです、心こもってますから」

はつね「キュン・・・」

ジョン「手作りですか?」

はつね「は、はい、チョコレート屋さんに比べたら私の作ったものは口に合わないかもしれませんが・・・」

ジョン「パクッ」

はつね「あ・・・」

ジョン「ん、とっても美味しいです、ありがとうございます」

はつね「良かった・・・」

ジョン「手紙読んでくれました?」

はつねはコクコクと頷く。

はつね「私まだ気持ちがよく分からなくて・・・」

ジョン「分からないってことはノーじゃないってことですよね」

はつね「はい」

ジョン「良かった、じゃあ友達からはじめましょー」

はつね「はい」

こうして3月14日。私はジョンさんと友達になった。




ー半年後ー

ジョンと出会ってから半年が経ったある日。

はつね「私、ジョンが好きです」

私は思い切ってジョンに告白をした。

私の心はもう決まっていた。

いや、もしかしたら最初に出会ったあの日から惹かれていたのかもしれない。

茜色の君に。

ジョン「本当に?」

はつね「待たせてごめんね?、自分に自信なくて・・・でも、ジョンがいたから少しずつ自分を好きになれたの」

ジョン「嬉しい、ありがとうはつね」

ジョンはそう言って私を抱きしめてくれた。

意外にも力強くて頼もしく感じた。

はつね「ずっと好きでいてくれる?」

ジョン「もちろん、ずっとずーっと好きだよ」

はつね「ありがとう」

不安なことはいっぱいあるけれど今はその言葉だけで充分だと思った。

ジョン「あ、はつねまだ不安なってる」

はつね「ギクッ」

最近気付いたこと。それはジョンが意外にも鋭い人だということ。

普段はニコニコふわふわとしている彼だが、実は芯がしっかりとしていて感が鋭い。

ジョン「図星なんだね?」

はつね「ごめん」

ジョン「いーよ、いーよ、これからいっぱい時間あるから信じてもらえるようにがんばる」

はつね「私も、頑張るよ」

ジョン「一緒にがんばろはつね」

はつね「うん!」

ジョンは優しい。私のネガティブも丸ごと受け入れてくれるだけじゃなくてポジティブに変換してくれる。

急に変わることは難しいけど、これからゆっくりゆっくり進んでいこう。

私だってジョンが落ち込んだ時に支えられる人になるから。

いつか、私がいるよ、大丈夫だよって自信持って言えるようになるからね。

だからジョン、もう少しだけ待ってて。

大好きよ。

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