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帰り道の剣士

 帰り道、ブリュンヒルドはいつもの道を通って帰ろうとしたのだが、図書室から外へ出る道のドアが壊れて開かないので、遠回りをして帰るようにと言われた。

 なので、特に疑問に思うことなく、訓練場経由で外に出て帰ろうとした。

 訓練場。その名の通り、騎士を目指す下級貴族の少年少女が訓練する場である。

 ブリュンヒルドは、訓練場の通路を歩いていると……訓練服を着た赤髪の少年と目が合った。


「……」

「あ」


 少年はブリュンヒルドに見覚えがあるのか、「あ」と声を出す。

 当然、ブリュンヒルドは知っていた。


「ごきげんよう、ハスティ様」

「あれ、オレのこと知ってんの?」

「はい。アウリオン公爵閣下とは、何度かご挨拶させていただきました」


 アウリオン公爵家。

 イクシア帝国に三つある公爵位で、『武』を司る家だ。

 アルストロメリア公爵家、アウリオン公爵家、シェパード公爵家。イクシア王国を支える三大貴族の名を知らない者はいない。

 ハスティ・アウリオン。彼はブリュンヒルドと同い年で、アウリオン公爵家の四男だ。

 ハスティは首を傾げ、ブリュンヒルドをジロジロ見て……ポンと手を叩いた。


「思い出した!! その銀髪赤目、アルストロメリア公爵家か!!」

「はい」

「そういえば、親父が客として招いたことあったな。オレも挨拶したけど、おっかないヒトだったぜ……あ、ごめん」

「いえ」


 素直なんだろう、よく表情が変わる。

 申し訳なさそうにしたが、すぐに表情が切り替わる。


「お前さ、結婚しないってマジ?」


 あまりにも、とんでもない、無神経にもほどがある質問だった。

 さすがにポカンとするブリュンヒルド。するとハスティが言う。


「クラスのヤツがさ、お前のこと言ってたんだよ。すっげぇ美人だけど結婚できない、可哀想な女だって。なんで?」

「…………」


 怒るべきなのか。それとも普通の令嬢なら泣き出すのだろうか。

 ブリュンヒルドは、無表情で「何を言えばいいのか」考えていた。

 ちょっとだけ、ムカっとしていた。


「ハスティ様。私は確かに結婚できません。生まれつき、女としての機能に欠陥があるので、子を成せない身体なのです」

「……え」

「レディに対し、あまりにも酷な質問、ありがとうございました。では」


 カーテシーで一礼すると、まだポカンとしているハスティの横を通りすぎ、ブリュンヒルドはその場から去るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 自宅に戻り、ブリュンヒルドは着替えて地下へ。

 そこで素振りを始める……特に的などない、剣術はもう卒業し、今は首を両断するための重い剣を振ることばかりやっていた。

 だが、ブリュンヒルドはもうコツを掴んでいた。

 

「──ふっ」


 力噛ませに振るのではない。

 重さを利用し、わずかな力で持ち上げ、勢いを利用して振り下ろす。

 力の流れ。それを支配できれば、華奢なブリュンヒルドでも大剣を振るえる。

 そのあとで、剣筋が鈍らないよう、一般的なロングソードでの訓練を始める。

 すると、地下室に父がやってきた。


「精が出るな」

「お父様。おかえりなさいませ」

「ああ、学園はどうだ?」


 学園はどうか。父は必ずこの質問をする。


「問題ございません。普通の令嬢として、振舞えていると思います」

「そうか。ならいい……ふう」

「……お父様、お疲れのようですが」

「なに、大したこと……いや、お前には伝えておくか。ブリュンヒルド、イクシア帝国とヘルメス王国の戦争が間もなく終わる」

「……!!」


 それは、朗報だった。

 戦争……ブリュンヒルドが六歳のころに起き、もう八年も続いている。

 一度だけ、大きな衝突があった。だが、それ以降は小競り合いばかり起きている。


「イクシア帝国が領地の返還に応じた。ヘルメス王国側も、それ以上の侵攻はしないと明言した。近く、友好条約が制定され、戦争は終わる」

「それはようございました」

「学園では噂になっているだろう。交換留学が再開すると」

「ええ、噂で」

「……その交換留学生の一人に、カルセドニーが含まれることになった」

「えっ」


 これには驚きしかなかった。

 カルセドニー・マルセイユ。ヘルメス王国の子爵家の少年。ブリュンヒルドの……幼馴染といっていい少年である。


「……ガムジンが傷を負い、カルセドニーが十三歳で爵位を継承し、前線で戦った。わずか十三の子供に、領地の一角を奪い返された。正直……私は、戦争が長引けば、ヘルメス王国の侵攻に敗北していたと思う。カルセドニーが爵位を継承して一年後に、まさかこうも接戦となるとはな」

「…………」

「ヘルメス王国では、英雄と呼ばれている。ガムジンも安泰だろうな……」

「その、カルセドニーが……交換留学に?」

「ああ。だが、戦争の後始末がある。留学は早くても二年後、お前の最終学年の時だろうな」

「…………」

「ブリュンヒルド、これから忙しくなる。手伝いを頼むぞ」

「手伝い……」


 父の手伝い。それは、一つしかなかった。


「……国内で何人か反逆者が出た。その処刑が始まる」

「……わかりました」


 父はイクシア帝国の処刑執行人。ブリュンヒルドは跡継ぎだ。

 すでに覚悟は決めていた。ブリュンヒルドは父に一礼する。


「傍で、学ばせていただきます」

「……うむ」


 処刑執行人の仕事は、戦争のあとに始まるのだった。

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