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銀血姫ブリュンヒルド~処刑執行人の恋~  作者: さとう
第五章

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医院へ

 ブリュンヒルドたちは、ハモス治療院へと急いだ。

 そして、医院へ到着。すぐに受付へ向かい、ブリュンヒルドは受付嬢へ言う。


「アルストロメリア公爵家、ブリュンヒルド・アルストロメリアです。治療記録の確認をさせてちょうだい」

「え、あ……えっと」


 いきなり現れた貴族令嬢が、治療記録の確認をさせろと言う。

 情報量が多く理解できず、受付嬢は固まった。

 そして、ハスティはブリュンヒルドの肩を掴む。


「落ち着いて説明しろよ。焦る気持ちは理解できるけどな」

「……ごめんなさい」


 ブリュンヒルドは、丁寧に説明した。

 すると、理解が追いついたのか、受付嬢は「しばらくお待ちください」と言って奥へ。それから数分もせずに、老齢の医師が現れた。

 メガネをかけ、髭を生やした医師は丁寧に一礼する。


「これはこれは、アルストロメリア公爵家の……御父上には大変お世話になっております」

「あなたは、父を御存じで? と……申し訳ありません。今は急ぎでして、十年前の治療記録の閲覧をお願いします」

「十年前……いやはや、これはこれは。何かあったのですかな」


 医師は眼鏡をクイッと上げ、首を傾げる。

 ハスティは、ややイラついたように言った。


「あーもう、とにかく見せてくれよ。こっちは急ぎなんだ!!」

「ええ、はい。わかりました……こちらへ」


 医師に案内され、三人は別室へ。

 そこは資料室。部屋いっぱいに診療記録が収まった本棚があり、この医院が古くからやっていることを裏付けた。

 ハスティは、ミュディアを見て言う。


「ここに、カルセドニーの治療記録があれば」

「そして、子爵殺害の日付と合わせて、矛盾がなければ……カルは殺人を犯していない証拠になる。おじいさん、十年前の診療記録を」

「それなんですが……」


 医師は、首を傾げて言う。


「さきほど、貴族の方がいらっしゃいましてね。十年前の診療記録を寄越せと、十年前の記録を根こそぎ持って行ってしまいましてねえ」

「「「え!?」」」

「ちょうどそこです。そこ」


 老医師が指差した場所を見ると、そこの本棚だけ何も入っていなかった。

 ハスティは、老医師に詰め寄る。


「さ、先ほどって……いつだ!? いつ持って行った!?」

「ええと、一時間ほど前でしたかなあ」

「ちっくしょう。ブリュンヒルド、オレたちがカルセドニーと喋ってる間だぞ!!」

「……まさか」


 ブリュンヒルドはハッとなりミュディアを見る。

 ミュディアも同じ結論なのか、小さく頷いた。


「ええ、恐らく……カルとの会話を聞かれて、先回りされたようね」

「クソが。まさか、リカルド伯爵じゃねぇだろうな」

「「…………」」

「な、なんだよ二人して」

「いえ、その」

「あなた、頭が回るのね……って思ったのよ」

「はあ?」


 ミュディアに言われ、ハスティはムスッとする。

 ブリュンヒルドは、間違っていないと思っていた。


(カルセドニーの罪が認められない場合、困るのはリカルド伯爵……どうやら、監獄にリカルド伯爵の手先がいるようね)


 ブリュンヒルドは拳を握る。

 せっかく見つけた無罪の証拠を、このままでは消されてしまう。

 そう、思っていた時だった。


「申し訳ありません。もしかして……十年前、そして貴族の怪我の治療というと、マルセイユ子爵の息子さんのことですかな?」

「「「!!」」」


 三人が老医師を見た。


「その時の治療は、私が担当しました。いやはや、七歳の少年が両腕の骨にヒビを作るなんて、騎士の鍛錬とは厳しいものだと思いましたな」

「お、おじいさん……あなた、知ってるの?」

「ええ。確か、カルセドニー……でしたな。幸い、折れてはいなかったので、添え木を当てて固定治療をしました。しばらくは両手を使えないと言うと、彼の父親は笑っていましたなあ。貴族でありながら、実に豪快な笑いをするお方でした」


 老医師はしみじみ言う。そしてハスティが叫ぶように言った。


「い、いつだ? それ、いつのことだ!?」

「ええ、七月の十日でしたな。私は年寄りですが……治療した患者さんのことは全て覚えています」

「七月の十日……ミュディア」

「ええ。子爵殺害の日時は、七月十二日。両腕に亀裂が入った状態のカルには不可能だわ!!」

「よっしゃあ!! あー……でも、肝心の診療記録がないと、証拠にならねぇんだよな。くっそー……」


 頭を掻きむしるハスティ。ブリュンヒルドは言う。


「あの、おじいさん。なんでもいいんです、治療記録を持って行った人たちって、どんあ人たちでしたか?」

「ふぅむ……全員、マントを被っていましたからな。ああ、紋章を見せられましたな。黒い蛇の描かれた紋章でした」

「黒い蛇……リカルド伯爵家の紋章ね。間違いない、リカルド伯爵の手先が、治療記録を運んだのね」

「よし、じゃあリカルド伯爵を問い詰めて」

「ダメよ。そもそも、おじいさんの証言だけで、リカルド伯爵の手先が盗んだなんて認めるわけがない。無茶な追及は、こちらが不利になるわ」


 三人は黙りこむ。すると、老医師が言う。


「ああ……そういえば、『郊外にある森へ運べ』と言っていたような……」

「郊外の森……この辺りだと、西門を出てすぐのところかも」

「よっしゃ、行ってみようぜ。このまま喋ってても仕方ねぇしな」

「待ちなさい。敵の数とか、わからない以上は……」


 ミュディアが言うと、ハスティが遮る。

 そして、ブリュンヒルドに言う。


「どうする、ブリュンヒルド」

「……行きます。このまま、証拠隠滅されるわけにはいきません」

「よし。王女様よ、あんたは部下の二人を連れて、あとから合流しろ。オレとブリュンヒルドは、このまま郊外の森へ行ってみる」

「……はあ。わかったわよ、ただし、危険と判断したら無茶しないこと。いいわね」

「ああ、よし行くぜ、ブリュンヒルド」

「ええ。おじいさん、ありがとうございました」


 三人は部屋を出た。

 残された老医師は、静かに手を振るのだった。

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