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銀血姫ブリュンヒルド~処刑執行人の恋~  作者: さとう
第四章

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冤罪 

 ブリュンヒルドは連れて行かれたカルセドニーを見送り、すぐに全力で走り出す。

 向かったのは、アルストロメリア公爵家……自分の家。

 屋敷に戻り、メイドや使用人たちを無視し、父ライオスの執務室へ。

 ドアのノックもせずにドアを開けると、ライオスは待ち構えていたように窓へ身体を向けていた。


「……話があるようだな」


 ライオスは、全て知っているかのような口ぶりだった。

 ブリュンヒルドは怒りを、そして疑問を投げつける。怒りの矛先が父に向くべきではないと知りつつも、怒りを抑えきれなかった。


「お父様!! カルセドニーが戦争犯罪者として連れて行かれました……どういうことですか!!」

「落ち着きなさい。私も驚いている」

「……戦争犯罪者って、カルセドニーがそんなことするはずない!!」

「落ち着きなさい」

「お父様!!」

「落ち着きなさいと言っている」


 怒気を孕んだ静かな声に、ブリュンヒルドは震えた。

 父の怒り。感じたことのない怒気に、ブリュンヒルドは口を閉じる。


「……ブリュンヒルド、忘れたのか」

「……え?」

「我々は、処刑執行人の一族……司法の決定に口を挟むなどできない。我々は罪人の首を刎ねる執行者だ。それが、誰であろうと」

「……ま、まさか、お父様。カルセドニーのことを」

「戦争犯罪者は、例外なく処刑だ。それが例え他国の英雄だろうと、戦争の発端、そしてヘルメス王国が納得したなら、処刑は免れん」

「でも!! ヘルメス王国の英雄ですよ? ヘルメス王国側が納得しても、納得できない者だっているはず!! 戦争が終わったばかりなのに火種を付けるようなことをすれば、また戦争が」

「起きない。イクシア帝国もヘルメス王国も、これ以上の戦争は望んでいない。それに……ブリュンヒルド、イクシア帝国側の戦争犯罪者も、ヘルメス王国で処刑されている」

「そんな……」


 ブリュンヒルドは拳を強く握りしめる。

 ライオスは静かに言う。


「……ブリュンヒルド。お前は、処刑執行人として気持ちを新たにしたのではないか? カルセドニー……たとえ、幼馴染であろうと、その首を刎ねるのに迷いはないのではないか?」

「……」


 想像した。

 処刑台へ上がるカルセドニー。剣を手にした自分。

 目隠しをされ台に固定され、剣を振りかぶる自分。

 そして、剣を振り下ろし……。


「──……っ!!」


 ブリュンヒルドは首をブンブン振った。

 考えたくもなかった。

 自分が、カルセドニーを殺す……そんな、あり得ない未来なんて。


「……お父様、お願いします。私は……カルセドニーを、救いたいです」

「…………」


 ライオスは、ブリュンヒルドにゆっくり近づき、その肩に手を乗せた。


「……お父様?」

「涙を拭きなさい」

「え、あ」


 ブリュンヒルドは、自分が泣いていることに気付いた。


「カルセドニーを救いたい。まさか、お前がそんな必死になるとはな」

「……カルセドニーは、私に温かい気持ちをくれたんです。私は……あの温かさを忘れようとしました。胸の奥に秘めようと思いました。でも……無理でした。あの温かさが失われるのは……怖い」

「…………わかった」


 ライオスは、壁に掛けてある黒いコートを羽織り、帽子をかぶり、杖を手にする。


「できる限りのことはする。お前は、ミュディア王女殿下の元へ行きなさい」

「ミュディア王女殿下……?」

「彼女はヘルメス王国の王女だ。現状、この状況を覆す可能性があるのは、ヘルメス王国側の王女である彼女だけ……彼女なら、カルセドニーと面会する程度のことはやるかもしれん」

「わかりました。お父様……ありがとうございます」

「……ふっ」


 ライオスは出て行った。

 ブリュンヒルドは、強く拳を握る。


(カルセドニー……絶対に、死なせない)


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日、ブリュンヒルドは学園へ行くと、道中でヘドウィグ、カティアに出会った。

 まるで待ち構えていたかのようだ。


「アルストロメリア公爵令嬢、ミュディア王女殿下がお待ちです」

「そう。私も用があるの……案内して」

「はい。それと、申し訳ございませんが……本日は学園ではなく、王女殿下の別邸へご案内します」


 ヘドウィグ、カティアは学生ではなく、王女殿下の護衛としての顔になっていた。

 案内されたのは、学園からほど近いところにある屋敷。

 警護の門兵が門を開け、屋敷の中へ。

 中では、ミュディアだけでなく意外な人物もいた。


「ハスティ……?」

「おう、お前も来たか」


 ハスティ、そしてミュディアが出迎えた。

 ドアを施錠し、ミュディアは挨拶もそこそこに言う。


「カルセドニーが何らかの策に嵌められ、戦争犯罪者にされたわ。私個人はもちろん、ヘルメス王国側としても絶対に許すことはできない……裏を探るわよ」

「「はっ」」


 ヘドウィグ、カティアが敬礼する。

 ハスティ、ブリュンヒルドは頷いたが……ハスティは言う。


「オレは、あいつと剣を合わせて、その誠実さを感じた。オレ個人としてはあいつが悪人には見えないし、思えない。でも……戦争に参加した以上、何らかの原因で『戦争犯罪』を犯した可能性はゼロじゃないと思ってる……その辺、どうなんだろうな」

「……戦争をし、人を殺したなら全員が戦争犯罪者よ。それだけで言うなら私だって、ヘドウィグだってカティアだってそう。大事なのは、悪意を持って争いを引き起こすきっかけを作ったかどうかよ」

「……だな。悪い」

「いいえ。疑問や思ったことは何でも言って。むしろ、あなたのそういうはっきり言うところ、好感が持てるわよ」

「……どーも」


 ハスティはやや照れていた。

 ブリュンヒルドは言う。


「王女殿下。ヘルメス王国側としては、どのような対応を?」

「当然、厳重抗議。それと『カルセドニー・マルセイユが戦争犯罪を行ったという明確な理由の開示』を請求したわ。なにをもってカルセドニーを犯罪者としたのか……その前に、確認させて」


 ミュディアは、ブリュンヒルドをまっすぐ見た。


「ブリュンヒルド・アルストロメリア。アルストロメリア公爵家ではない、あなた個人に聞く。あなたはカルセドニーをどうしたいの?」

「助けたいです。彼は……大事な人ですから」

「……そう」

「…………」


 ミュディアは頷き、ハスティはブリュンヒルドを見て小さく頷いた。

 そして、ハスティ。


「ハスティ・アウリオン。アウリオン公爵家ではない、あなたはどうしたい?」

「助けたい。あいつとはもう一度勝負したいからな!! へへ」

「そう……二人とも、ありがとう」


 ミュディアは微笑み、頷いた。


「まずは、証拠が開示されたら確認する。裁判は三回行われるから、そこで何としても無罪を勝ち取るわよ」

「ミュディア王女殿下。この件、私の父も動いています。何かわかりましたら共有しますので」

「ええ……それとブリュンヒルド。少し、私と二人で話がしたい」

「え……?」


 ミュディアは、ブリュンヒルドと別室へ移動するのだった。

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