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銀血姫ブリュンヒルド~処刑執行人の恋~  作者: さとう
第四章

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摸擬戦

 ハスティの告白を正式に断ったことで、ブリュンヒルドの決意はより一層固まった。

 自分でも忘れていたことが、屋敷に戻るなり気付かされた。

 部屋で着替え、食事のためにダイニングへ向かうと。


「え? お兄様に、お母様……?」


 領地にいるはずの兄エイル、そして母がいた。

 そして、ウキウキしているシグルーン、いつもと変わらない父。

 ダイニングにはいつも通り来たはず。いつもはシグルーンが一番最後に来るのだが、今日はブリュンヒルドが最後だった。

 不思議に思っていると、シグルーンが言う。


「お姉様!! 十六歳のお誕生日おめでとうございます!!」

「え……」


 十六歳。

 そう言われ、ようやく今日が自分の誕生日だと気付いた。

 テーブルには飾り付けがしてあり、メイドや使用人たちが拍手する。

 そして、エイルが花束をブリュンヒルドへ渡した。


「おめでとう、ブリュンヒルド」

「お、お兄様。それにお母様も……お仕事がお忙しいのでは?」

「ははは。確かに忙しいけれど、驚かせたくてね。母上と一緒に帰って来たんだ」

「さあさあ!! お姉様、お席に座って!! 今日は家族団らんの食事会だから!!」


 家族が揃い、シグルーンはブリュンヒルドより嬉しそうだ。

 食事はコース形式だが、いつもより豪華な食事だった。

 アルストロメリア公爵家は一般貴族より遥かに裕福な貴族だが、それを誇示するような催しはすることがないし、食事に関しても特にこだわりはない。

 だが、この日だけはライオスが高級な食材を取り寄せるようコックに命じ、コックたちは王都を奔走し最高の食材を手に入れ、調理をした。

 数十種類の海産物で出汁をとったスープ、希少な牛のほんの僅かな部分しか取れない肉の部位、他国から取り寄せた珍しいフルーツなど、どれもブリュンヒルドたちの舌を楽しませる。

 そして、この日だけは家族でワインを飲む。ワインを飲みながら、母がプレゼントをブリュンヒルドへ。


「これは……ネックレス?」

「ええ。あなたはあまり貴金属を好まない子だけれど、女の子だから身だしなみは大事よ。シンプルなネックレスなら似合うと思ってね」

「わあ、綺麗……お姉様、いいなあ」


 鳥の羽を模した意匠のネックレスだ。

 素直に嬉しく、ブリュンヒルドは微笑を母へ向ける。


「お母様、ありがとうございます」

「お姉様!! 私からはこれです!!」


 メイドに命じて持ってこさせたのは……なんとも大きい、白いフクロウのぬいぐるみだった。

 デカい。とにかくデカい。

 父も母もエイルも驚いている。男の使用人が二人がかりで、ダイニングに運んできた。


「え、えっと……ぬいぐるみ、よね」

「はい!! 王都の裁縫職人に依頼して、大きな白フクロウのぬいぐるみを作ってもらいました!! お姉様、以前言いましたよね? 『物語に出てくる大きな白フクロウが好き』って!! ふふん、私ちゃんと覚えてました。それで、職人に大きなものを作らせたんですよ!!」

「そ、そう……ありがとう。私の部屋に運んでくれる?」


 使用人たちはデカいフクロウを運んで行った。

 エイルからは銀細工の栞と高級万年筆をもらい、父からは手袋をもらった。

 そして、久しぶりの家族団らんの時間は過ぎて行き……夜も更けてきた。

 お酒を飲んだシグルーンが眠そうな顔をしたので、エイルがお姫様抱っこする。


「エイル様、私たちでお運びします」

「いいんだ。たまには兄らしいことをしないとね。はは……重くなったなあ」

「エイル。女の子に『重い』なんてダメですよ」

「わかっていますよ。内緒にしてくださいね、母上。じゃあブリュンヒルド、父上……おやすみなさい」


 母、エイル、シグルーンが部屋へ。

 ライオスは言う。


「ブリュンヒルド。このまま私の部屋へ来なさい」

「はい」


 父の声は、『父』ではなく『処刑執行人』の声になっていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ライオスの部屋に入ると、カギを二重に閉め、カーテンも閉めた。

 そして、壁に設置されているランプを掴んで捻ると、本棚が僅かにズレた。

 その仕掛けに驚いていると、ライオスは人が一人通れるほどの隙間にある『箱』を取り出す。

 

「十六歳……お前も成人となった」

「…………」


 それは、横長の木箱だった。

 テーブルに置き、蓋を開けると……そこにあったのは、銀色に輝くクレイモア。

 柄に、アルストロメリア公爵家の紋章が輝く大剣(クレイモア)と、漆黒の鞘。

 ライオスは大剣を手にし、ブリュンヒルドに差し出す。


「お前の処刑用大剣だ。成人の祝い……そして、私の後継者として、この剣を送る」

「……ありがとう、ございます」


 剣を受け取り、その重さを感じる。

 掲げ、構えると、重さを感じつつも扱えることに気付く。


「鍛錬の賜物だな。これなら、処刑執行も行える」

「……はい」

「初仕事はまだ先だが、いつでも断罪する覚悟を持て」

「───はい!!」


 恋も、愛も、女としての価値も捨て、ブリュンヒルドは《処刑執行人》となる。

 カルセドニー……自分を好きだと言い、キスをした幼馴染の少年。

 今も、その甘さを、熱を思いだせる。

 でも……ブリュンヒルドは、その甘さと熱を封印し、冷たい処刑執行人としての人生を生きることを、改めて誓うのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 早朝、兄と母は領地へ戻って行った。

 本当に、ブリュンヒルドを祝うためだけに来てくれたようだ。

 酒が入ったシグルーンは見送りに行けなかったことを悲しんだが、二日酔いでそれどころではなく学校を休んだ。

 ブリュンヒルドは、普通通り学校へ。

 今日は摸擬戦の日。イクシア帝国代表と、ヘルメス王国代表での摸擬戦だ。

 授業があっという間に終わり放課後。

 ブリュンヒルドは、摸擬戦が行われる第一訓練場へ。


「わあ……すごい人」


 訓練場の見学席には、大勢の生徒が見学に来ていた。

 男女半々だろうか。人で溢れて入ることができない。

 どうしようか迷っていると。


「こっちよ」

「え、あ」


 いきなり手を引かれた。

 見学席の隣にある教員用見学席のある部屋に連れ込まれた。

 そして、自分の手を引いたのがミュディアだと気付いた。


「みゅ、ミュディア……様」

「様はいいって。見学でしょ?」


 ミュディアは、騎士服を着ていた。

 腰に剣を差しており、髪型もポニーテールでばっちり決めている。


「あの、ミュディア……も、出るの?」

「もちろん。カル、ヘドウィグ、カティナも出るわ。ブリュンヒルドはここで見学していいからね。まあここ教師用の見学席だから、二人ほどいるけど」


 部屋にはもう二人、オスマンとリガドーがいた。

 オスマンは小さく微笑んで一礼し、リガドーはブリュンヒルドを見てピクリと眉を動かす。


「じゃ、ゆっくり見学してね!!」

「あ……」


 ミュディアは行ってしまった。

 するとオスマンが来た。


「お嬢様、どうぞこちらへ」

「オスマン騎士……じゃなくて、オスマン先生、ありがとうございます」

「おっと……すみません。どうもお嬢様呼びが抜けず」


 ブリュンヒルドはクスっと微笑んだ。

 オスマンは「少し選手たちの様子を見てきます」と部屋を出た。

 そして、リガドーを見て小さく会釈する。


「初めまして、ですかな……アルストロメリア公爵家の令嬢。いや……『後継者』とお呼びすればよろしいですかな?」

「……このような場で何を言いだすのかわかりませんが。ご挨拶を。初めまして、ブリュンヒルド・アルストロメリアと申します」

「これはこれは。リガドー・リカルドと申します。ククク……姫様といいご友人のようで。ですが……本当の姿を見た時、どんな反応をするでしょうなあ」

「…………」


 妙な言い方で神経を逆なでするような男だった。

 リガドーは知っている。アルストロメリア公爵家の『処刑執行人』のことを。そして、ブリュンヒルドがその後継者ということも。

 だが、裏を返せばブリュンヒルドも知っている。とうに廃れたが、リカルド伯爵家もまた処刑執行人の家系だと。

 だが、そんなことを言っても意味はない。


「ところで、カルセドニー・マルセイユとは仲がいいようで……ああ、幼馴染でしたかな」

「……だから、なんでしょうか」

「いえいえ。戦争の英雄となった少年……その幼馴染であるあなた。一体、どういう関係なのでしょうかねえ。ククク……」

「…………」

「もし、もしですよ。カルセドニー・マルセイユが何か犯罪を犯し、処刑となったら……この国での処刑は、あなたが行うことに?」


 ブリュンヒルドは、冷たい目でリガドーを見た。

 リガドーは驚いた。十六の小娘がするような目つきではない……と。

 それ以上は言わず、口を閉じた。


 まもなく、試合が始まる。

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