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銀血姫ブリュンヒルド~処刑執行人の恋~  作者: さとう
第二章

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再会

 放課後、ハスティと訓練をするようになって一月が経過した。

 おなじみになった訓練……訓練後、一緒に帰ることも増えた。

 今日も、訓練を終えた二人は、一緒に帰路についている。

 ハスティは、大きな欠伸をしながら言う。


「あー、腹減った」


 相変わらず、貴族らしくない。

 ちなみに、アウリオン公爵家とアルストロメリア公爵家の屋敷は意外にも近い。帰りが一緒になることは自然だった。

 ハスティは唐突に言う。


「なあ、お前知ってるか? 終戦協定……」

「ええ、帝国と王国が正式に終戦を迎えたことですね」

「ああ。近日中にも、国内に知れ渡るだろうな。長い戦争がよーやく終わる……まあ正直、ここ数年は小競り合いばかりで、戦争って気がしなかったけどな」

「イクシア皇帝と、ヘルメス国王が互いに『わかっていた』おかげでしょうね」

「……どういうこった?」

「簡単です。帝国と王国、二つの大国がぶつかれば、どちらかは必ず滅ぶ。そして残った国も建て直しに数年、数十年はかかる……恐らく、最初に一番大きな衝突が起きたあと、両国の王は妥協点の模索を始めたと思います」

「……すげえな、よくそこまで読める」

「まあ、お父様の受け売りですけど」

「親父の話かよ!!」


 そして、領地の返還、賠償金の支払いで両国は停戦となった。

 ここまでくるのに、九年もかかった……その間、大きな武力行使はない。

 どちらの王も有能。それが、この結果だった。


「戦争、と言われていますけど、私たち貴族や民の暮らしはほぼ変わりませんでした……でも」

「でも?」

「……いえ」


 これだけ、戦争とは言えない戦争でも……『死』はある。

 小競り合いでも武力衝突で死ぬ人はいる。

 そして……裏の行いで戦争に加担した者には、『死』を与える。


(処刑執行人……)


 アルストロメリア公爵家は、処刑執行人の一族。

 これから、戦争犯罪人を裁くための仕事が多く舞い込んでくる。

 ブリュンヒルドが剣を清め、祈りを捧げる日も多くなるだろう。


「あ、そうだ。なあ……終戦を迎えたらすぐ、ヘルメス王国との交流が再開するんだって。それで、交換留学生の受け入れも再開される。さっき聞いたんだけど、来年からじゃなくて、準備が整い次第すぐに交換留学生を再開するみたいだぜ」

「すぐに?」

「ああ。なんでも、あっちの『英雄』様が急かしたんだとさ」

「……英雄、って」

「カルセドニー・マルセイユだよ。へへ、交換留学を早めるってことは、摸擬戦も早まるってことだ。英雄様も、オレとの試合を楽しみにしてくれてるのかね」

「…………」


 ──さよなら。


 なぜかブリュンヒルドは、子供の頃に別れを告げたカルセドニー・マルセイユの顔が浮かんだ。

 交換留学を急がせた……不思議と、自分は無関係でない気もするのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 終戦。

 国内は大いに沸いた……が、戦争時でもあまり生活に変化がなかったこと、大きな衝突がなかったことで、終戦を迎えたのだが喜びは長く続かず、数日後には普通の生活に戻っていた。

 ブリュンヒルドは、普通に学園へ向かい、授業を受けていた。

 そして放課後……この日は、ハスティとの訓練はナシ。

 その代わり、第一訓練場へ来るように言われたので向かう。

 訓練場の観客席では、多くの生徒たちが見学に来ていた……七割は女子だった。


「……多い」

「あら、アルストロメリア公爵令嬢……あなたも来たのねぇ」

「カタリーノ侯爵令嬢。これは何の集まりですか?」

「あなた、知らずに来たの?」


 小馬鹿にするような言い方だった。

 こういう人なんだなあ……と、ブリュンヒルドは怒ることもなく、ただ答えを待つ。

 カタリーナは「フン」と鼻を鳴らす。


「今日、ヘルメス王国の交換留学生が来ますの。先ほどまで学園長に挨拶し、今はそれぞれ分かれて、所属する部活動の元へ向かったそうですわ。それで、剣術部にはこれから来ますのよ……英雄が!!」

「英雄……カル、マルセイユ子爵が?」

「子爵ではありません。侯爵ですわ!!」

 

 カタリーナはキーキー怒る。

 あまり学内の行事に詳しく……いや、興味のないブリュンヒルドは、今日カルセドニーが来ることを知らなかった。

 カタリーナが何かをペラペラ喋り出したが、もうブリュンヒルドは聞いていない。

 すると、訓練場にハスティたち剣術部の生徒が、剣術部のユニフォームを着て整列する。


「敬礼!!」


 顧問教官が号令をかけると、剣術部たちは一糸乱れぬ動きで剣を抜き胸の前で構えた。

 静まり返る訓練場内。

 そして、来た。


「……!!」


 赤を基調としたイクシア帝国の剣術部ユニフォームに対し、ヘルメス王国は青が基調だ。

 先頭に、ヘルメス王国側の顧問教官。そして十名ほどの剣術部生徒が歩いて来る。

 そして、その先頭にいたのは。


(──……カルセドニー)


 女生徒たちが見惚れていた。

 カルセドニー・マルセイユ侯爵。

 十五歳……まもなく十六歳を迎える少年は、十五歳には見えないほど大人びていた。

 身長も高く、体格もいい。実戦を得て少年らしさよりも騎士としての顔が身についていた。

 誰がどうみても美少年。

 濡羽色の髪、整った顔立ち、アイスブルーの瞳。

 太陽の光を浴び、綺麗な青瞳が輝いた……次の瞬間。


「──……」


 ブリュンヒルドと、目が合った。

 ブリュンヒルドは感じた。カルセドニーの一瞬の驚き、そして……口元が少しだけ、優しく微笑んだ。

 その微笑がサービスとなったのか、ブリュンヒルドの隣にいたカタリーナがふらつく。


「い、いま、いま……わ、わたしを、みて」

「…………」

「ああ、美しいお方ですわ……そ、想像以上に」

「…………」

「ね、ねえ、ねえ……すごいお方ですわね」

「…………そうですね」


 誓ってもいい。

 カルセドニーは間違いなく、ブリュンヒルドを見て微笑んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 この日は、剣術部同士の挨拶だけで終わった。

 ブリュンヒルドは見学席を出ると、ハスティが近づいて来る。


「おーい!! ブリュンヒルド!!」

「……ハスティ」

「見たか? なあ、あれが英雄カルセドニー・マルセイユだ。すっげぇなあ……同い年なのに、貫禄っていうのか、親父みたいな立ち振る舞いでさ」

「……そうですね」

「……なんか元気ないな。どうしたんだ?」

「あ、いえ……その、なんというか」

「あ、まさかお前……惚れたな?」

「はい?」

「英雄様だよ。カルセドニー・マルセイユ。あーあー、確かにカッコいいもんなあ」

「…………」


 ブリュンヒルドは、白けたような目でハスティを見た。

 だがハスティは首を振る。


「ま、諦めた方がいいぜ。噂じゃ、英雄様はすでに、ヘルメス王国の王女様と婚約決まってるらしいしな……」

「……そうなのですね」

「ああ。噂だけど……でもまあ、十五歳で爵位受け継いで、英雄みたいな戦果上げてるんだ。しかもイケメンだし、王女様も惚れちまうだろ」

「……まあ、私には関係ない話です。それに、私は結婚などしませんし、できませんから」

「……あのよ、それなんだけど」


 ハスティは、コホンと咳払い。

 周囲をキョロキョロし、誰もいないことを確認。

 ブリュンヒルドは、いきなり挙動不審になるハスティを見て首を傾げた。


「あのさ、オレ……アウリオン公爵家の四男だ」

「存じてますけど……」

「でさ、その……爵位は継げないし、騎士として国に仕えるつもりだ。でもまあ、王都のどこかに屋敷を買って暮らすつもりではある」

「はあ」

「でさ、オレ……その、お前さえよければ」


 ハスティらしくない、妙に遠回しな言い方。

 しかも、最後の方はどこか、ショボショボとした声色でよく聞こえない。

 聞き取りにくいので、近づいた時だった。


「──……相変わらず、よく目立つ髪色だな」


 ハスティの背後……現れたのは、カルセドニー・マルセイユだった。

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