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銀血姫ブリュンヒルド~処刑執行人の恋~  作者: さとう
第二章

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摸擬戦

 数日後、授業が終わり放課後となり、ブリュンヒルドは帰り支度をしていた。

 すると、教室にハスティがやって来た。


「ブリュンヒルド、いるかー?」


 授業が終わったばかりなので人が多い……そして、視線はハスティ、ブリュンヒルドへと集まる。

 ブリュンヒルドは顔に出さず、ため息を吐きたくなった。

 すると、ブリュンヒルドよりも先に、カタリーナがハスティの前へ。


「ごきげんよう、ハスティ様」

「ん、ああ」

「わたくし、カタリーノ侯爵家のカタリーナと申します。何かご用件があれば、わたくしがお伺いしますわ」


 四男とはいえ、三大公爵家の一つであるアウリオン公爵家の息子だ。その影響力、権力は決して無視できない……たとえハスティが何とも思っていなくても。

 するとハスティは言う。


「じゃあ、ブリュンヒルドを呼んでくれ。ブリュンヒルド・アルストロメリア公爵令嬢だ」

「……彼女に、用件が?」

「ああ。大事な用事でな、って……なんだ、いるじゃないか」


 視線を彷徨わせていたハスティと目が合った。

 さすがに隠れるわけにもいかず、ブリュンヒルドはカバンを手にハスティの元へ。

 授業が終わったにも関わらず、誰も帰ろうとしない。まるで見世物のようだった。


「ハスティ様、何か御用でしょうか」

「以前言っただろ? 今日は、交流摸擬戦の相手を決める日なんだ。へへ、お前に見てほしくてな」

「そう言えば……約束でしたね。わかりました、見学させていただきますね」

「おう。じゃあ行こうぜ!!」

 

 ハスティは先に教室を出た。

 すると、カタリーナがジロッとブリュンヒルドを睨む。


「……あなた、ハスティ様狙い?」

「何のことでしょうか」

「……フン。石腹のくせに、彼を狙っているのかしら。忌々しい」

「……では、失礼します」


 何を言っても無駄そうなので、ブリュンヒルドは一礼して教室を出るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ブリュンヒルドは、ハスティと二人並んで剣術部の訓練場へ向かった。

 ハスティは着替えるために途中で分かれ、ブリュンヒルドは見学用の席へ。

 そこには、多くの女生徒たちがいた。どうやら、見学のために来たようだ。

 そして十五分もしないうちに、訓練用の制服を着て、腰に剣を差した男子生徒たちが整列する。

 剣術部の顧問は、現役騎士だ。

 ブリュンヒルドは見たことのある騎士。


「オスマン騎士……? 彼が顧問教官だったのね」


 オスマン。

 父ライオスの部下であり、かつてアルストロメリア公爵家が所有する騎士団に所属し、ライオスの弟子だった騎士だ。

 怪我で引退し、今は若くして剣術部の顧問教官を務めているようだ。

 子供の頃、何度か挨拶してもらったこともある。

 

「それではこれより、ヘルメス王国との摸擬戦に出場する選手を決める。摸擬戦を行い、上位三名が選手となる……全員、全力で挑むように」

「「「「「はい!!」」」」」


 一年、二年、三年生と返事をした。

 合計で五十名ほどだろうか、この中の上位三名にハスティは残らなくてはいけない。

 すると、中間の列に並んでいたハスティが、ブリュンヒルドに向けて微笑んだ。


「……全く、私を見ている場合じゃないのに」


 ブリュンヒルドの周りにいた女生徒数名がキャッキャッと騒ぐ……どうやら、ハスティがサービスしてくれたと勘違いしたようだ。

 そして、摸擬戦が始まった。

 一対一、抽選はくじ引きで、そして試合開始。

 最初の対決は、二年生対三年生。

 試合が始まり、生徒たちの剣が交差し、剣戟が繰り広げられる……が。


(……これが普通、なのかしら)


 正直、自分が十二歳くらいの頃の実力と大差ない気がした。

 恐らく、戦えば勝てる……三年生が相手だろうとも。

 そして、試合は三年生が、一年生の剣を弾いて幕を閉じた。


「そこまで!! では、次の試合」


 特に勝利を称えることもなく次の試合へ。五十名いるので、テンポよく進めるようだ。

 そして、試合は続き……ハスティの番。

 ハスティと、相手は三年生。剣を構えて試合開始。


「行くぜ!!」


 三年生はかなりの実力者。ハスティとの激しい剣戟……ブリュンヒルドは思う。


(……強い)


 三年生ではない、ハスティがだ。

 恐らく、自分と同じくらいの強さ。

 素質、才能にあふれた若々しい剣。恐らく、自分と同じ幼少期から剣を握っていたのだろう。

 ハスティの剣は、三年生の剣を軽々と叩き落とした。


「そこまで!!」

「っしゃ!!」

「ハスティ、大袈裟に喜ぶんじゃない。これはあくまで摸擬戦であるぞ」

「は、はい、すんません」


 ハスティは苦笑しながら謝り、ブリュンヒルドをチラッと見て軽く手を挙げた。

 ブリュンヒルドは微笑み、小さく頷く……それが嬉しいのか、ハスティは親指を立ててニカっと微笑んだ。

 子供……でも、十五歳らしい。

 十五歳らしくないブリュンヒルドは、どこか新鮮な気持ちでハスティを見るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 全ての試合は終わり、なんとハスティは二位の成績で交流戦の切符を手に入れた。

 この日の剣術部の活動は終わり、ブリュンヒルドは見学席からハスティ……ではなく、顧問教官のオスマンの元へ。

 オスマンは、ブリュンヒルドに向かって騎士の礼をした。


「お久しぶりでございます、お嬢様」

「やめてちょうだい。あなたはもう、アルストロメリア公爵家の騎士じゃないわ。ここでは、私のことも一人の生徒として扱ってちょうだい……と、私もね。お久しぶりです、オスマン先生」


 そう言うと、オスマンは驚きつつも照れる。

 父よりも若い顧問教官は、困ったように苦笑する。


「お嬢様にそう言われると、少しくすぐったいですね……」

「ふふ。あなたが剣術部の顧問教官だったこと、今日初めて知ったわ。古傷はどう?」

「問題ありません。前線に出ることはありませんが、後進の育成なら問題なくできます」

「そう……よかった」

「お嬢様……ところで、今も剣を続けておられるので?」

「えっ」


 と、背後から驚きの声を上げたのは、急いで着替えてきたハスティだった。

 そして、どこか嬉しそうにブリュンヒルドの元へ。


「なんだよブリュンヒルド!! お前、剣術やってんのか? じゃあ剣術部に入れよ!!」

「……はあ」

「あー……申し訳ありません、お嬢様」

「お嬢様? 教官、ブリュンヒルドと知り合いで?」

「そうだ。というか……盗み聞きをするのは、騎士に相応しいとは言えないぞハスティ。交流戦の代表を考え直さないといけないかもな」

「そ、それは勘弁っ!! お、おいブリュンヒルド、なんとか言ってくれよ」

「さあ? 彼はもうウチの騎士団の騎士じゃないし、私からすれば教師だから。ふふ」

「お、おい~」


 ブリュンヒルドはクスクス笑い、オスマンに向かって頷く。

 オスマンは、「では失礼します」とその場を去った。

 残ったのは、ブリュンヒルドとハスティ。


「で……お前、剣術やってるんだな」

「ええ。我が家の方針でね……心身を鍛えるために、幼少期から剣術を習うのよ」


 嘘である。

 心身を鍛えるためにではなく、処刑執行人としての技術として習う。

 兄や妹は剣術を習うか父に聞かれたことがあるが、二人とも拒否……兄エイルは「ぼくは才能の欠片もないし体力もないから」と、シグルーンは「剣よりドレスがいい」と拒否をした。

 ハスティはニヤリと笑い、見学席の近くにあった木剣を二本持ってきた。

 そして、一本をブリュンヒルドへ渡す。


「へへ、腕前見せてくれよ。アルストロメリア公爵家の剣術をさ」

「……私、やるとは言ってないけど」

「行くぜっ!!」


 と、ハスティは有無を言わさず剣を振り下ろす。

 ブリュンヒルドの身体は勝手に動いてしまった。半歩ずれて振り下ろしを躱し、そのまま木剣をハスティの喉元へ突きつける……が、ハスティは首だけを動かし突きを回避。

 驚いたようにブリュンヒルドを見た。


「マジか……お前、すげぇじゃん」

「…………」


 しまった、とブリュンヒルドは思う。

 身体が勝手に動いてしまった。そして、ハスティが躱したことに驚きもした。

 

「ブリュンヒルド!! お前、剣術部入れよ!! 一緒にやろうぜ!!」

「……ごめんなさい。私にとって剣術は、倒す技術じゃなくて……」


 殺す技術だから。

 そう言おうとしたが言えず、木剣をハスティに渡す。


「じゃあさ、オレのパートナーになってくれよ!!」

「……え?」

「相手がいた方が強くなれる。実はさ……オレの相手できるやつ、剣術部にいないんだよ。上級性もオレに敵わねぇし、みんな避ける。今日一位になった先輩も、オレじゃなくて別の上級生をパートナーにして練習してるし……」

「…………」

「ダメか?」

「…………まあ、たまになら」

「よっしゃ!! じゃ、明日からな!! へへ、またなっ!!」


 そう言い、ハスティは大喜びで去っていった。

 残されたブリュンヒルドは、考えていた。


「……なんで、受けちゃったんだろう」


 その理由を考えたが……なぜか、答えは出ないのだった。

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