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終章 未来の空へ

 小さな女の子が、空を見上げている。

 晴れていても冬の訪れを感じさせる、冷たい水色の空を。

 南へ向かう渡り鳥の最後の群れが、北風に乗って羽ばたいている。カランティの街を歩く人々も、厚いコートに身を包んでいる。

「ねえ、シェルお姉ちゃん!」

 子供らしい唐突な動きで、女の子がこちらを振り返った。母親似の朱い髪が揺れる。

「あたしも空をとびたいな。ねえ、シェルお姉ちゃんのひこうきにのせてよ」

 どことなく挑発的で、強い光を放つ瞳。これも母親譲りだ。

「……いいわよ」

 渡り鳥の群れをぼんやりと見ていたシェルシィは、少し遅れてうなずいた。

「でも、どうしてママに頼まないの? あたしよりもママの方が、飛行機の操縦はずっと上手よ」

「だってママ、いつたいいんするかわかんないもん。昨日もりはびりをさぼって、おいしゃさまにおこられてたんだよ」

 思わず苦笑してしまう。ソニアらしいといえばらしい話だ。

 リハビリを怠けるだけではない。先日は病室に大量のワインを持ち込んでいたのが見つかって怒られていた。もっとも、ソニアに命令されてそのワインを調達したのはシェルシィなのだが。

 どんな状況でも、ソニアはやっぱりソニアだった。そんなソニアがたまらなく好きだった。

「じゃあ、急いで病院に行こう。ママがリハビリをさぼらないように見張ってなくちゃ」

「うん!」

 差し出した手に、女の子がぶらさがるようにしがみついてくる。二人は並んで歩き出した。

「もうちょっと大きくなったら、飛行機の操縦を教えてあげようか? 自分で操縦して飛ぶ方が、ずっと楽しいよ」

「ホントに? ぜったい、やくそくだよ!」

 しがみつく手に力が込められる。空いている方の手で、その頭を撫でてやる。ソニアがシェルシィにするように、髪をくしゃくしゃにする乱暴な撫で方で。母親の癖だからだろう、この子はそうされるのがお気に入りだった。

 歩き出してすぐに、シェルシィはふと背後を振り返った。

 先刻の小鳥の群れが遠ざかっていく。その上から灰色の矢が襲いかかり、群れが散らばる。

 隼だ。

 乱れた群れは、すぐにまた集まって南を目指していく。一羽減っていることなど誰も気づきはしない。獲物を得た隼も、ゆっくりと引き上げていく。

 そう。

 空は、決して平和な場所ではない。遠い昔から、最初に空を飛ぶ生命が生まれた瞬間から、空には戦いがあった。人間が空に戦いを持ち込んだなんて、自惚れでしかない。

 それでも。

 それでもやっぱり、願わずにはいられなかった。


 この子が自分で飛べるようになる頃には、大空が、もう少しだけ平和な場所になっていますように――




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