魑魅魍魎
それを見たのは偶然だった。
赤黒い。
赤黒いナニカ。
それが眼前の視界にいきなり飛び込んできた。
深夜の山。
雪の積もった山をチェーンを巻いたタイヤで走った時のことだ。
チェーンを巻いてやっと車で運転可能な雪山の道。
予定外の荷物を運ぶ為に、深夜に見知らぬ雪山を車で登る。
名前も知らない山を車で登った時の出来事だ。
生憎ナビなんて洒落たものは積んでいない。
地図を確認しながらの運転だった。
これがいけなかった。
今思えば。
当然か。
かなり危険な行為だから。
全てのタイヤが雪を派手に舞い上がらせ車体を止めた。
派手に。
物凄く派手に。
大きな音を立てて。
雪山奥で僕は車から降りると前方に歩き出した。
薄暗い山の中を、僕は車のライトが照らしたヘッドライトの光を頼りに進んだ。
ヘッドライトの明かりが途切れ、最後は薄暗い月夜の灯りが目的の物を見つけてくれた。
正確に言えば者であった物。
助手席に居た妻の血まみれの姿が。
片手には先程まで使っていた地図を握っていた。
その姿を見て僕は崩れ落ちた。
「だからシートベルトをしろと言ったのに……」
あのときに見たアレ。
赤黒いナニカ。
あれは何だったんだろう?
フロントガラス越えに見えたアレは?
まるで妻の……。
そうして僕は意識を失った。