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咲かないでコスモス、鳴かないでカナリア

 スコープから覗く敵指揮官は、通信兵から受話器を受け取ろうと指揮車から腕を伸ばし、

 そのこめかみを撃ち抜いて、クラッカーのように向こうで血飛沫が炸裂した。

「よくやりました、ライナス」

 くしゃ、と頭を撫でる女兵士。スコープから顔を上げると、まるでリプレイのように、彼女のこめかみが撃ち抜かれた。


 戦勝に湧くバーで、クライブはグラスを掲げ、

「我らが狙撃手に」

「我らが英雄殿に」

 ライナスは呆れたようにグラスを合わせる。

「英雄はやめてくれ。たまたま繰り上げで指揮を任されただけだ」

 快活に笑い、グラスを煽って、

「だが、まぁ、これでみんなも認めてくれるだろう。俺はエミリアに、プロポーズするよ」

 歌姫として喝采を受ける幼馴染みを見ながら、アルコールとは別の理由で頬を染めるクライブ。

「式には呼んでくれよ」

 再びグラスを掲げるライナスに、クライブは軽快にグラスを鳴らした。


『本日未明、クライブ・ベルガー大佐が息を引き取りました。ベルガー大佐は終戦式典出席中に、同席していた夫人の目の前で爆破テロに巻き込まれ、治療の甲斐無く他界されたとの事です』


「あんたが超一流のスナイパー、ベルクトか。いいか、あんたに仕留めてもらいたいのはこの女だ。どう取り入ったのか知らないが、戦争のどさくさでウチに紛れ込んだ平民だよ。このままじゃこいつが遺産の半分を持っていきやがる。そんなのは間違ってるだろう?」


「超一流のスナイパーは、ターゲット以外には傷一つ付けない」

 スコープから覗くのは、屋敷の窓から外を眺める女。

 その目は庭先の花を見ているようで、しかしなにも映していない。すぐ傍を鳥が飛んでも瞬き一つしなかった。

「つまり、窓際に小鳥ちゃんが居るから今日は狙撃しません。シーユー」

「ちょ、アニキー!?」


 その日は風が強かった。

 屋敷の庭先で、コスモスが揺れている。

 爆撃を受けて半壊した時計塔から、ベルクトは狙撃銃を構え、スコープを覗き込んだ。

 隣では自称・弟子のライナスが、双眼鏡を覗きながら観測手の真似事をしている。その横顔は、彼女によく似ていた。

 一際強い風が、コスモスの花を舞い上げた。

 銃声。

 銃弾はエミリアの胸を貫き、彼女はその両手を翼のように広げながら、ぱたりと倒れた。

「やりました、アニキ!」

 スコープから顔を上げる。笑うライナスの頭をくしゃくしゃして、舞い散る花弁を見やり、

「病める時も健やかなる時も、一緒だって約束なんだろ?」

 架空戦記なのでいつの時代とかいつの戦争とかは無いです。

 狙撃兵のライナス、軍人家系のクライブ、バーの歌姫エミリアは幼馴染み。

 戦後、ライナスはベルクトと名を変えてスナイパーに。

 弟子のライナスは、戦争中のライナスの、観測手兼護衛の随伴歩兵だった女性の弟。

 エミリアは目の前でクライブが爆死して心を病んでしまっています。

 ちゃんと長編で書こうと思ってたんですが、「コスモス」のキーワードが去年のやつだと思ってたら今年のやつだったので、せっかくなので。

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