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16 追手

 「逃げろ〜!!!逃げるんじゃ!ほら、早う走らんか!ってお主イケメンじゃのう。」


 なんですか。なんなんですか?何しにきたんですか。


 私は走りながらノアさんに抱えられている華美な和服の少女?を睨みつけました。嫉妬じゃないですよ。


 それにしてもあの女。どさくさに紛れてノアさんに抱きついてやがる。

 嫉妬じゃないですよ。


「スカイ!大丈夫かい?」


「はい、私は大丈夫です。でもどこに逃げるんですか?」


「分からないけど、とりあえず走るしかない。」


 私たちは街中を人々の間を縫って疾走します。いっそ魔法でやっつけて仕舞えばいいのでは?と思ったのですがこの人混みでは民衆がパニックに陥ってしまいそうです。


 チラリと後ろを振り返ると修道服を着た男女が鬼の形相で私たちを追いかけてきています。


「なんじゃ、反撃せんのか?妾の家来なら間違いなく反撃しておるぞ。まったく使えんのぅ。其方の杖は魔法を出すための道具ではないのか。」


 なんなんですか。このガキ。いえ、ガキではないかもしれませんが、見た目はガキです。それにとても傲慢。腹が立ちますね。ノアさんに抱えてもらっているのにこの態度。

 嫉妬じゃないですよ。


「そもそもこんな事になっているのはあなたのせいでしょ。一体何したんですか。」


「いや、火がつけたかったんじゃよ。今日は寒いじゃろ。妾は旅をしておるからの。それで紙が欲しかったんじゃ。」


 和服の少女はノアさんに抱えられて揺られながら呑気に語りました。こっちの苦労も知らずに。


「それで教会という場所におる者は親切だと聞いたから。そこで紙をもらったんじゃ。いや、勝手にとったのはすまぬと思うが。」


 そう言って、少女は懐から一冊の……


「聖書じゃないですか。それは怒られますよ。」


 しかも中身はビリビリに破かれていました。これは怒られても仕方がないでしょう。ノアさんも複雑な顔を浮かべています。投げ捨てられないだけ感謝するべきでしょうね。


「スカイ、次の角を曲がったら屋根に飛び乗ろう!」


 ノアさんが言いました。私は短く返事をしてノアさんの後ろを走ります。

 そして角を曲がった瞬間に杖を振りました。


「おぉ〜!!これは楽しいのう。」


 本当に呑気な少女です。屋根の上に着地し、追手を巻く事に成功した私たちは改めて少女と向き合いました。


 そもそもこんな事になったのはなぜだったのでしょうか。それは数分前に遡ります。



 私たちは船で別の島に渡りました。あの島にいてもよかったのかもしれませんが、あそこは変態が多過ぎました。まずポーツの街の船まで私のテレポートで飛びました。一度行った場所なら私のテレポートで移動可能なのですよ。


 そしてこの島にやってきました。港には大きな船がたくさん停泊し、この街は漁業で賑わっているようです。


 というわけで早速海の幸を食そうと市場を歩いていた時、その出来事は起きました。


「どけ〜い!」


 大声をあげて走ってきたのは黒髪和服の少女。人混みをかき分けて走ってきたのでしょう。ところが、


「いたっ。」


 身長差50センチはあるのではないかと思うノアさんとぶつかって少女は後ろに吹き飛びました。


「すみません。大丈夫ですか?」


 そしてノアさんが優しく手を伸ばします。しかしそこで……


「待て〜!この不届き者め〜!!!」


 修道服の集団が私たちの目に飛び込んできました。私たちは教会から追われる身。その時は私たちが狙われていると思ったのです。追いかけられていたのは少女でしたがけどね。


 咄嗟にノアさんは少女を抱えて走り出し、私も逃げ出しました。


 そして、今に至ります。



 煌めく太陽の日差しが降り注ぐも塩気を帯びた海風が肌を冷やす中、私とノアさんは少女と向かい合いました。


「それで君は一体何者なんだい?」


 その問いに少女は凛とした表情で答えます。


「妾はやなぎ千桜ちおと申す。極東の国から海を渡り、はるばるやって来た旅人じゃ。」


 なるほど。極東ですか。私の知識にもあります。

 ここから遥か東。通称サムライの国。またの名を黄金の国です。ということはもしかしてお金持ちだったりするのでしょうか。


 ポーツの街で稼いだお金もそろそろ底をつきそうですし、お礼として分けてくれたりしないでしょうか。と、ちょっと腹ぐろくなってみます。


「では柳さんはお金持ちだったりするのですか?」


 期待を込めて私は聞きました。きっと今の私の視線を羨望の眼差しというのでしょう。


「もちろんじゃ。」


「やっぱり!………ゴホンッ」


 ちょっとはしゃぎ過ぎましたね。ノアさんが驚いたような目を向けて来るのが痛いです。

 わざと咳払いして私は改めて少女?と目を合わせました。こうして見てみると彼女は可愛らしい顔つきです。お人形さんみたいとはこの娘のことを言うのでしょう。


「それで、柳さんはこの後どうするんですか?」


 すると柳さんは困ったように顔を顰めました。一体どうしたと言うのでしょうか。


「実は家来とはぐれてしもうてな。どうしたらいいのか分からんのじゃ。それに金はあやつが持っておるから何もできん。」


 あら、そうでしたか。………これは迷子では?

 と思ったのですが、私は敢えて口には出しません。だって少女が泣き出してしまいそうです。既に涙目ですけどね。


「大丈夫ですよ。一緒にその家来の方を探しましょう。いいですよね?」


 私はノアさんに了承を取りました。


「いいよ。でもあまり表立って行動はできないよ。なんせ追手は教会だ。」


 そうでした。相手は教会です。私たちは見つかるわけにはいきません。それでも容認してくれるのがノアさんです。


 そうして私たちは柳さんの家来の方を見つけるべく、街中の捜索を始めました。あくまでこっそりです。


「そういえば柳さんはどうして旅を?ここまで遠かったのではないですか?」


 捜索中、暇だったので。いえ、ちゃんと探してますよ。でも無言で街中を歩くのも気まずかったので聞いてみました。


「ただ世界を見てみたくなっただけじゃよ。妾は見ての通りある武家の姫じゃ。次期に嫁がねばならん。ならば今のうちに世界旅行でも嗜んでみようと思っての。」


 なるほど姫だったわけですか。どうりで豪華な服を着ていると思いました。しかし、思うこともあるのです。


「それならこんな所でこんな事していてもいいのですか?」


 その質問に少女は首を傾げます。


「こんな事とはなんじゃ?旅のことか?それなら其方たちだって同じじゃろう。何かやることがあるのではないか?」


 妾を助けてくれたのは感謝するがと、付け加えて少女は真顔で答えました。いえ、私たちが特にやることはないのですが、強いて言うなら教会の人に見つからないようにすることですね。


 でも彼女が姫と言うなら彼女はもっと何かやるべきことがあるのではないかと思うのです。


 しかし私がそう言うと、少女はまるでさも当たり前のように言いました。


「そもそも何かをやると言うことはそれ以外をやらないと言うことじゃ。必死に何かをやった結果、何かを成し遂げたと思うかもしれん。それでも後々になってみれば、あの時別のことをしておけばと思うことなど幾億もあろう。」


 少女は語ります。というかこれは少女なのでしょうか。少女にしては聡明すぎやしませんか。


「だからどうせ後悔するならその時の自分がやりたいと思ったことをするべきじゃと妾は思うわけじゃよ。」


「なるほど、勉強になりました。」


「そこまで畏まらんでも良いぞ。妾は寛大じゃからの。」


 見直した途端にこれです。やはりどんな考えを持とうが態度で人の評価とは変わるものなのかもしれませんね。


 と、そこで一つ異変が起きます。


 賑わっている街の群衆がいつの間にか割れているではありませんか。そしてその先から大声を上げて走る一人の男。


 ではなく……


「サムライ?」

「お〜!見つけたぞ!」


 そしてやはりその男の後ろにも修道服の怖い顔の人たちが。

 私たちは再び走り出したのでした。

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