始まりは突然に
?:ケッ…しけてんな。
(豆電球の明かりだけが天井に灯り、薄暗い部屋の中で手帳を開くと、溶けかけた塊の氷に茶色い液体がグラスに入っており、グラスを傾けながらグラスの縁に口を付けて喉を鳴らしながらグラスの中身の半分程飲むと、手帳に目線を移し小さくため息を吐く。)
?:いつからこうだった?(少しいつもより口調も荒く一人で呟くと、テーブルにグラスを振り下ろすように置く)
『カシャン』(テーブルの上に乱雑で置かれた前日、前日以前の食器にグラスがぶつかる)
?:嫌…はじめた時から何も変わらねぇんだ。この水道屋を始めた時から仕事がねぇのは何も変わらねぇ…ずっと不況だ(ヤレヤレと椅子に身体を寄り掛からせるとギーッと音が静かな空間に響いたと同時に水道屋兼自宅の扉が開いて聞き慣れた声が聞こえてきた)
??:お前また飲んだくれてんのか?(ギシギシと床の鳴る音と同時にやけ酒をまた咎めてくる)
?:うるせえ不況なんだから仕事がねぇのは仕方ねぇだろ…
??:不況ってのを理由にして逃げてるだけだろカール?
カール:お前に何がわかんだよケビン…
ケビン:わかんねぇよ?だから仕事持ってきてやった。
カール:あ?何言ってんだお前?
ケビン:黙ってついてこい!(親指で外を差すと踵を返し、玄関の開閉音が聞こえる)
カール:自分勝手な奴…(とはいいつつも明日の酒も買えなくなっていた為、酒が飲めることに少し安堵する自分がいた)行くか…(多少面倒くさそうに一言呟くと身体を起こすと、頭の中が揺れるような感覚が襲われるがそのまま立ち上がると玄関に向かう)
『バタン』(玄関の扉を開け即座に締める薄暗い中ガレージに向かおうとするとまたケビンの声が聞こえてくる)
ケビン:俺のバンに乗れ(親指で自分が乗ってきたであろうバンを指差すとカールが無言でバンに向かって歩を進める)
『ギィーガラガラ』(スライドドアを開けるとまた別の声が聞こえて来る)
???:おぉー久しぶりだな!カール
カール:ん?(首を傾げながら助手席から首を後部座席に向けてくる人間の顔を目を細めて眺めるも思い出せず首を傾げながら誰だ?と聞き返す)
???:時が経つと同級生すら忘れちまうのかねー!あー薄情だ(わざとらしく左手の人差し指で涙を拭う素振りを見せると前に向き直り)アレクだよ忘れたか?
カール:…あ(何十年も前の学校生活でのその人物との思い出を思い出し)お前老けたな!!(対向車から照らされるライトと室内のライトに寄って白くなった髪、髭を指差し)
アレク:ウルセェお前だって馬鹿みたいに逃げ伸ばしてジジイみたいになってる癖に人のこと言えんのか!(お互いの容姿の変わりように指を差しながら)パチーン(掌を音を出しながら合わせ)
ケビン:さあ、出発しようか。(挨拶が一通り済んだのを確認すると、シートベルトをし車の鍵を回しブレーキを踏みながらエンジンをかけてDにシフトを入れて走り出す)