一応私レディなんです
「……なんですの?」
やべぇ…本物の悪役令嬢だ…
目を細めてこちらを見ている
お茶会から抜け出したなんてバレたら……
今の私、蛇に睨まれた蛙…!!
噂では他人の欠点を見つけて笑いものにするって……
絶対に難癖つけられるーーー
ふう…
「せっかくのドレスが汚れますわよ?」
そっと手を差し伸べるシャルロット
「ぁえ?」
グイッと腕を引かれ立ち上がる
「まあ、情けのない声…では無くて。お名前は?」
「あ、アネット・バルテル……です」
ぎこちなくドレスの裾を持ち上げ膝を曲げる
「ああ、なるほど」
なにか納得された……
じろりと鋭い瞳と目が合う
「バルテル子爵…の娘……」
ブツブツ何か言ってる…
「…アネットさん?」
「はひっ!!」
声が裏返ったっっ
「背が曲がっていますわよ」
びくりと肩がふるえる
き、きたぁ…令嬢の指導……
噂には聞いてたけどほんとにやるんだぁ……
「……顔を前に向けて、前髪で顔を隠さない、胸を張って歩きなさい」
いやいやいや、笑いものにしたいの?したいのか…
可愛くない身長と顔
そんな私が胸を張って歩けるわけ…
「し、シャルロット様…私には……」
「まず頭の飾りを取りましょう」
ええ!?
大切な宝石のついたリボンを取られる
「……大切なもの?…じゃあ胸元につけましょう。ん、待って」
今度はわ、私のドレスみてる……
「なぜあなたは目が痛くなるような黄色のドレスを着ているのかしら?」
目がしぱしぱするわね
「メイドが選んで、くれて…」
「次からは自分で選ぶように」
「…ぇ…なぜ?」
「その方が似合うものだから。センスや流行りの前に今の服は貴方に合ってないわ」
ハッキリ言われた、でも嫌な風に聞こえない
いつもみんな上っ面だけで「可愛い」だの「似合ってる」だの言うが
私は今着ているものが自分に似合っていると思ったことは無い
「こういう色は子供っぽくなるの、そしてあなたは他の方より〝少し〟背が高いから髪の装飾より胸あたりにこのリボンをつけましょうね」
……なんでだろう
「……アネットさん。これは私のお節介…気分を害されたなら謝ります。ですが」
なんで
「猫背のあなたより今のあなたの方が十分綺麗なレディですわ」
なんで
私の目をそんなに見てくれるの?
「ふぇぇ」
ボロボロと涙が零れる
「え?!」
-
バラの庭の中心地にあるベンチに座る
「ここ、私のお気に入りの場所ですの」
噂とは違う優しい声色
「は、はあ…」
そんな中私は情けない所を見られてしまってとても恥ずかしい
「迷路みたいでしょう?」
「確かに…そうですね」
泣いてしまったことを深く聞かず
迷ったでしょう…とシャルロットは言ったきり黙ってしまう
「……」
ぼんやりと空を眺める
「あ、お茶会……!」
すっかり忘れていた…今何時だろう……!?
「お茶会は終わりましたわよ?」
「え、」
「……1人のレディがいなくなっていたんですもの」
わ、私のせいだぁぁ
「ふふ、でも早く終わって良かった」
え?
「正直楽しくなかったので」
「た、たしか……今日のお茶会の主催者って…」
クスリと笑う
「あら覚えていたの?」
「今、思い出しました」
今日のお茶会はシャルロット主催だ
たしか 『本のお話をするお茶会』だったっけ
私は家の習わしで最低でも月に1回はお茶会に参加せねばならない……
なので気を張らないであろう『本の話』のお茶会に参加した
ずっと俯いていたし手紙にはテイラー家主催、としか書いていなかったので気づかなかった
「……なぜ 抜け出してしまったんですの?」
「皆さんと趣味が合わなかったので…昔は恋愛小説好きだったんですけど…」
周りはずっと甘々な恋愛小説の話ばかりで胃もたれしそうな程だった……
今の私のブームは時代物ファンタジー小説!少年に人気らしいから言い出せなかったけど
「ねぇ、アネットさん?あの像知っている?」
シャルロットは薔薇の中にひっそりと立つ1つの像を指さす
あれは!!
「…たしか昔存在したと言われている白魔術師と剣士……ですか?」
私の好きなファンタジー小説に出てくる主人公だー!
「うふふ、そう、そうなの」
な、なんでニコニコしてるの?!
「実はね…私も恋愛小説の話は飽き飽きしていたの」
「え……?」
「でも、本は好き…だから新しい作品の話を聞きたくてこのお茶会を開いたのだけど……みんな同じ話ばかり…あ、ここだけの話よ?」
口に人差し指をつけて囁く
美人すぎて女の私でもドキッとする
「は、はい!」
「私のお茶会を色々な理由で抜け出す人はいっぱいいるわ…その度に探してあの像の話をするのだけど…」
「誰一人としてなんの像か分からなかった」
……あ、そっか、この世界のレディはファンタジーの中でも戦って血が出る系苦手だったーー!
ガクリと頭を抱える
「わ、罠ですか……?」
踏み絵的なやつですかっっ!?
顔を覆い隙間からちらりとシャルロットを見る
「ふっ……失礼、違うの…私も好きなの…白魔術師様……」
少し恥ずかしそうに微笑む姿はヒロイン顔負けなのでは……と思うほどだった
と言うか…
「……え、いまなんて?」
驚きすぎてシャルロットの顔をまじまじと見ていた