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異世界転生したけど、俺より不幸なやついる?  作者: 荒井清次
第一章 不幸にも転生場所はトラップタワー編
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異世界転生したけど、俺より不幸なやついる? 第一章⑤「助けられたスキルの副作用で不眠症になる」

ローグ爺が焼いてくれた黄マルモコの肉を堪能し、久しぶりの食事に満足した俺は、食休み代わりにローグ爺から借りた(くし)でオルフの毛をすいてあげていた。オルフの毛はちくちくと固い。櫛ですいても効果が無いと思ったが、オルフは気持ち良さそうにわふふっと鳴いている。

オルフとは会って半日もしない短い仲だが、子供の頃から犬が大好きだった俺は、オルフのこともすぐに気に入った。なにせオルフは俺のことを噛まない。今まで出会ってきた犬達は、俺の犬好きに反して、いつも見るなり吠えて噛みついてきた。

でも、オルフは賢い犬だから、俺が急に抱きしめても、わっふと余裕のある一鳴きで俺の抱擁に応えてくれる。ちくちくで痛いけど、あー、幸せー。

そんな俺達の様子を、嬉しいような寂しいような、なんとも言えない笑顔で見ていたローグ爺は、使い終わった食器の片付けを始める。


食事の準備の時にも気になっていたが、この狭い拠点のどこに食器やフライパンといった食事に使った道具を収納しているのだろう。どこかから取り出した黄マルモコの肉も腐っていなかったことを考えると、この部屋には冷蔵庫のようなものがあるのだろうか。そんな疑問からローグ爺の行動を観察していると、ローグ爺は食器を一箇所に重ねて置いた後、どこかから取り出した銀色のカードを、スマホのように操作し始める。


食後のソシャゲかな?と一瞬思ったが、そんな訳無い。ここは異世界だ。ソシャゲなんて存在しない。

そんなくだらないことを考えていた直後、ローグ爺が一箇所に集めた食器やフライパンが一瞬で消える。見間違いかなと目をこするが、目の前の光景は変わらない。食器、フライパン、焚き火代わりに使っていた鍋、すべてが綺麗さっぱり消えている。


「……ん!?」


「さて、そろそろ寝るかのう。久しぶりにいっぱい喋ったから疲れたわい。拠点は明日拡張するから、今日のところは狭いのを我慢しておくれ」


俺の驚きなど気付くことなく、明日の予定を伝えたローグ爺は、また銀色のカードを操作し、どこかから毛布を取り出して俺に差し出す。


「んんっ!?」


「どうしたんじゃ?変な声出して?」


目の前で起きた謎の収納と、どこかから現れた毛布。何が起きたか分からず混乱していた俺に対して、ローグ爺は疑問を述べる。


「いや、物を一瞬で消したり出したりしたけど、それも魔法?異世界特有の収納魔法ってやつ?」


日本では、四次元的な空間に物を出したり閉まったりする猫型ロボットのアニメがあったが、ローグ爺のさっきの物の出し入れも同じかもしれない。


「収納魔法……?って、そうか。ユキオはマグカも知らないんじゃったな」


「マグカ?何それ?」


「これじゃ!」


てれてれっててーんという効果音と共に、ローグ爺は手に持っていた銀色のカードを俺の前に差し出す。


「ローグ爺がさっきから操作してた銀色のカード?それがマグカ?」


「そうじゃ、これがマグカじゃ!ユキオには小さなカードに見えるじゃろうが、このように物を出したり閉まったりが簡単に出来るんじゃ!」


マグカの説明をしながら、ローグ爺は何も無いところから、大きな獣の頭の骨を取り出し、一瞬で消してしまう。どうやら、マグカは物の出し入れを簡単にできる便利道具らしい。


「そのマグカを使って、さっきの食器や調理器具を出したんだな!便利なカードだな!」


「そうじゃ!しかし、マグカのすごいところは物の出し入れだけじゃないんじゃ!」


「なん……だと……!?まさか、他にも便利機能が……!?」


「そうじゃ!マグカは持ち物の出し入れだけじゃなく、自分のステータスやスキルの確認、新しいスキルの取得、武器や防具の装備、物を売ったり買ったりといった取引を簡単に出来るカードなんじゃ!この世界で生きていくには必須品じゃぞ!」


なんという便利カード!しかし、ローグ爺が教えてくれた機能について一つ思い当たる物がある。

ゲームのメニュー画面だ。

ゲームならスタートボタンとかを押すと、アイテムやキャラクターのステータスを確認できるメニュー画面が開くが、ゲームによく似たこの異世界では、マグカっていうカードがゲームで言うメニュー画面の代用品なのかもしれない。


「ユキオはこのマグカに興味津々じゃのう!それなら、特別にわしのマグカを参照モードにしてやるから、色々と使ってみると良いぞ!」


ローグ爺はスマホを操作するように、マグカを指でちょいちょいと操作した後、ほいっと俺に投げ渡してくる。

両手で受け取った銀色のカードは、思っていたよりも軽かった。段ボールくらいの厚さに、地球で使っていたスマホくらいの大きさのカード。到底たくさんのアイテムが入っているとは思えない。

マグカの画面には見たことも無い文字が並んでいたが、すぐに日本語に切り替わる。


「ん?って、そうか。異世界への転生特典のひとつか」


異世界人のローグ爺と普通に話せてる段階で気付くべきだったが、これは異世界転生特典のひとつだろう。神が転生時、この世界の言葉が分かるように異世界言語が自動で翻訳されると言っていた。俺がこうして異世界の字を問題なく読めてるのも、それの効果のおかげだろう。便利な転生特典の効果を実感し、神に感謝をする。


「指をずらしたり、ぽんっと軽く叩くと画面が切り替わるぞい!」


マグカを観察していた俺に、ローグ爺は操作方法を教えてくれる。ローグ爺に言われるがまま、マグカを操作すると、指の動きに合わせて画面が切り替わっていく。操作方法はまさに地球で使っていたスマホと同じ。

マグカは異世界版の高性能スマホに、四次元ポ〇ットを追加した便利カードといったところだ。


「マグカって便利なカードだな!俺も欲しい!!ねぇ、ローグ爺。マグカ何枚か余分に持ってない?」


俺も自分のステータスの確認や、スキルの取得をしたかったため、ローグ爺に予備のマグカが無いか確認してみる。出来れば一枚もらえないかという気持ちも込めて。

そんな俺のお願いに、ローグ爺は首を横に振る。オルフも一緒にわふふと一鳴きしながら首を横に振る。どうやら、ダメらしい。


「残念ながら、あげることは出来ないんじゃ。基本的に、マグカは冒険者ギルドにある発券機で、使う人の情報を読み込ませてからじゃないと、手に入らないんじゃ!!」


「基本的に?」


「発券機以外でもマグカを手に入れる方法があるらしいんじゃが、大昔に噂で聞いた話じゃからのう。詳細な方法はわしも分からん。じゃから、ユキオに伝えることが出来ないんじゃ。申し訳ない」


「別にローグ爺が謝ることじゃないでしょ。手に入らないなら諦めて、このトラップタワーから脱出した後に、冒険者ギルドって場所で発券するよ!そん時はローグ爺、案内してよ!」


俺の言葉を聞いたローグ爺は、なぜか笑い出す。


「かっかっか!少し前までこのトラップタワーに殺されかけとったのに、もう無事に出られると思っとる!楽観的すぎる!ユキオ、楽観的すぎる!かっかっか!!」


「そんなに笑うなよ!高レベル冒険者のローグ爺に出会えたんだから、もう無事に出れたのも当然って思っちゃうだろ!」


ローグ爺の楽観的すぎるという言葉に、むっとして言ったが、ローグ爺は俺の高レベル冒険者という言葉に、見るからに嬉しそうな顔に変わる。


「かっかっか!嬉しいことを言ってくれるのう!わしを高レベル冒険者として、ちゃんと敬ってくれるのはユキオが久しぶりじゃ!わしのことを舐めきってる弟子と仲間達も見習って欲しいのう!」


どうやら、ローグ爺は仲間達に舐めきられているらしい。見た目よぼよぼの老人だもんな。命の恩人だし、このトラップタワーの中ではローグ爺に優しくしていこう。そう心に誓う。


「俺は強くて優しいローグ爺のことを信じてるぞ!一緒にこのトラップタワーから脱出しような!」


「かっかっか!強くて優しいは事実じゃが、改めて言われると嬉しいのう!よし!わしが責任を持って、ユキオをダンジョンタワーの外へ連れ出してやるわい!大船に乗ったつもりで、わしに任せるんじゃな!かっかっか!」


ちょろい。この老人ちょろい。


「それじゃ、ローグ爺の言葉に甘えて、お願いがひとつあるんだけど、良いかな!」


「お願い?なんじゃ?」


「俺は転生したばかりで弱っちいから、ローグ爺の指導の下で俺を強くしてくれよ!このままじゃ、穴の近くで転んだだけで流されて死んじゃう可能性が高いからな!」


「ユキオを強くする?良いぞい!次の定期メンテナンスまで、まだまだあるしのう!ただ待ってても仕方ないから、ユキオを強くしてやるわい!」


ローグ爺は、俺の修行の申し入れに笑顔で賛同してくれる。


「おー!やったー!」


「おっと、そんなに喜んでて良いのかのう!わしの修行は厳しいぞ!覚悟するんじゃな!」


「任せろー!」


こうして、俺はローグ爺の弟子になった。

優しいローグ爺の修行なら、無理なく、ほどほどの厳しさで、俺のことを強くしてくれるだろう。どうせ簡単にトラップタワーから脱出できないなら、脱出した後に冒険者として生きていくための実力を、この機会に簡単に身につけよう。そう思っての弟子入りだ。ここで身につけた実力を基に、輝ける異世界生活を送る未来の俺の姿を妄想し、思わず頬が緩む。

しかし、この時の甘い考えを、俺は一日も経たずして強く後悔することになる。しかし、この時の俺はまだ知らない。アホ丸出しで、ニヤニヤしている。


「それじゃ、明日からの修行に向けて、今日はもう寝ようかのう!明日は朝一から修行じゃから、覚悟するんじゃぞ!!」


そう言ってローグ爺は、壁を背に毛布をかぶって眠ってしまう。拠点は狭いため、ローグ爺は気を遣って座る姿勢で寝てくれるようだ。今日の半分以上を全力疾走で過ごした俺は、その優しさに甘えることにし、拠点の真ん中に寝そべる。オルフはローグ爺の影の中に潜っている。オルフは影の中で眠りにつくようだ。


……。

どのくらい、時間が過ぎただろうか。

しばらくの間、目を瞑っていたが全く眠くならない。

ローグ爺は老人だから、早く眠りについたのかもしれない。転生前の考えだが、老人は早寝早起きと相場が決まっている。トラップタワーには窓なんて無いため、外の様子が分からないが、まだまだ早い時間なのだろう。


そういうわけで、全く眠くならない俺は行動に移る。疲れて眠くなるのを狙って、流れる床に逆らって走ることにする。もっと疲れれば、自然と眠くなるだろう。

ついでに魔法の修行も兼ねて、たまに流れてくるモンスターに火魔法や水魔法をぶつける。起きて襲いかかってくるモンスターもいるが、シルバーブルのように流れる床に逆らって攻撃してくるモンスターはいない。というか、危険そうなモンスターには攻撃せず、鈍臭そうなモンスターを選んで攻撃している。反撃を避けていると、モンスター達は穴の中に落ちて燃やされる。


中でも、魚のような水辺にいるモンスターは狙いやすい。眠りから覚めても、その場でビチビチするだけなので安全だ。大きなイカや角の生えた魚など、十匹ほどモンスターを倒したところで、頭の中に今日何度目かの機械音が鳴り響く。


「ユキオはレベル11に上がった!HPとMPが全回復した!

攻撃が4上がった!防御が2上がった!魔力が8上がった!魔法防御が2上がった!速さが16上がった!スタミナが2上がった!状態異常耐性が2上がった!」


「よし、レベルアップした!今までのレベルアップの音声は、状況がそれどころじゃなかったから、聞き流してたけど、今は落ち着いて聞くことが出来るなー。って、んー……?」


落ち着いてレベルアップの内容を聞いていた俺は、異変に気付く。

あれ?速さのステータス、他に比べて異様に上がりすぎじゃない?


俺は転生時に神から授けられた転生特典のことを思い返す。

転生特典とは、転生時に神から転生ポイントをもらい、基本ステータスへの成長補正アップ、追加魔法、追加武器、追加スキル、追加レベルアップの五種類へと、それぞれ転生ポイントを割り振って、この世界の住人よりも優位に立つもの。

異世界の住人の平均値が10に対して、俺が基本ステータスへの成長補正アップに使ったのは、攻撃20、防御40、魔力20、魔法防御40、速さ20、スタミナ20、状態異常耐性30だったはず。守りを上げて、堅実な冒険者として手堅く生きていこうと思ったのだが、レベルアップの時に上がる各ステータスの値は、俺が振ったポイントと合っていない。明らかにレベルアップ時のステータス上昇が速さに偏ってる。


それに、違和感はもうひとつある。転生してすぐに初期レベル10から始められるよう、追加レベルアップへ転生ポイントを多めに使った。しかし、俺の記憶が正しければ、転生してからのレベルアップは4から始まった。つまり、初期レベルは3。追加レベルアップへ使った転生ポイントが、明らかに足りていない。


「これも、転生時のエラーの影響だろうな。まぁ、過ぎたことをとやかく言っても仕方ないし、速さにステータスが偏ってなかったら、この流れる床に抗いきれなくて焼き殺されてたから、良しとするか」


エラーによって異世界転生が思った時と変わってることは、考えても仕方ないので前向きに考えることにする。転生特典の追加スキルとして取得した四つのスキルにも助けられてるし!


眠くならなくなる眠不知(ねむりしらず)のおかげで、上の湧き層で睡眠ガスを受けても眠くなることなく、運搬層で動くことが出来た。

高所からの落下ダメージをゼロにする落下防止(らっかぼうし)のおかげで、見上げるほど高い位置にある上の湧き層から落ちても生きている。

スタミナ消費を減らす疲労減少(ひろうげんしょう)のおかげで、長く全力疾走を続けることができ、処理層に落ちる前にレベルアップを重ねることが出来た。結果的に、速さのステータスが上がるまで走り続けることができ、処理層で焼き殺されずに済んだ。

いっぱい食べられるようになり、食事で少しスタミナが回復する大食(おおぐい)のおかげで、久しぶりの食事を満喫することが出来た。

うん……、スキル大食は今のところ活躍してないな。大丈夫、そのうち活躍するチャンスがあるよ。そもそもスタミナってのが何なのか分かってないけど。明日、ローグ爺に確認しよう。


「……ん?」


転生特典として取得した四つのスキルを確認する中で、俺の中に一つの確信めいた疑問が浮かぶ。


「もしかしなくても、俺が眠れないのってスキル眠不知のせいか?」


いやー、まさか!スキル眠不知を取得した瞬間、夜も眠れなくなるなんて、そんなこと有り得ないだろう。戦闘の中で、モンスターの眠り状態異常攻撃を無効にするだけでしょ!睡眠は疲れを取るだけじゃなく、脳内の整理や成長ホルモンを促すって聞いたことがあるし、かなり重要なものだぞ!それが、スキル取得によって無効化されるわけない!

きっと疲れが足りないんだ!そうに違いない!スキル眠不知のせいで眠れなくなったわけじゃない!!疑問を否定するため、俺は運搬層を走り回る。

走る、眠ろうとする、走る、眠ろうとするを十回ほど繰り返したところで、疑問が確信に変わる。

今俺がいる運搬層の上層である湧き層で、睡眠ガスから救ってくれたスキル眠不知だが、どうやら普通の睡眠も出来なくなるらしい。


異世界転生した時に助けられたスキルの副作用で不眠症になる。異世界転生したけど、俺より不幸なやついる?

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