二つ目いやだ5
「二つ目いやだ」これにて完結となります。最後までお読みください。
「何ですか、何なんですか、君とか殿とか、まあいいですけどね。えっとですね、確か三味線のお姉さんはこんな風に言っていましたね『あらたくんは初々しくて良いねえ。そんな感じのまだあどけない可愛い前座の坊ちゃんにだったらね、お姉さんちょっとお小遣いあげちゃおうねっていう気になっちゃうね。でもあの二つ目の二人、名前は……思い出せないや。ま、あんなのの名前なんてどうだっていいや。あんな風にね、二つ目になっちゃうとね、すっかりとうが立っちゃってね 、自分たち、もう二つ目ですから、素人じゃあないですから、なんて偉そうな雰囲気を醸し出しちゃってね、そんなんだったらね、こっちもね、ああそうですか、お兄さんたちはプロフェッショナルなんですか、じゃあ自分の食い扶持ぐらい自分で稼いでくださいね、お小遣いなんていりませんよね、っていう気持ちになっちゃうんだよねえって……』いや、だから違います、違いますってば!僕が言ったんじゃあありませんよ!三味線のお姉さんがそう言ったんですからね!そもそも兄さん方が自分たちがどう言われているかって聞いてきたんじゃあないですかそれなのにそんな風に落ち込まないでくださいよ!」
あらたはそう言いますが、くすぶりとうらぶれの二人はすっかりしょげかえってしまいました
「俺たち、とうが立っちゃってるんだってさ、うらぶれや」
「あたしたち、偉そうみたいだね、くすぶりちゃん」
「俺たちもお小遣い欲しいよね、うらぶれ」
「あたしたち、全然プロフェッショナルなんかじゃあないのにね、くすぶり」
「勘弁してくださいよ、お二人さん。やめてくださいよ、そんな風に卑屈になるのは。兄さん方二人は素晴らしい落語家じゃあありませんか」
あらたはくすぶり、うらぶれの二人を持ち上げようとしますがちっともうまくいきません。
「いいんだ、いいんだよ、あらた。いや、あらた様。貴方様みたいなお人が俺たちみたいなダメダメ落語家のことを構う必要なんてもうこれっぽっちもないんですから。そうだよね、うらぶれ君」
「そうですね、くすぶり君。ですからね、あらた。いや、あらた師匠。お師匠様はご自分の落語道を邁進してくださいな。師匠にはもう怖いものなんてないでしょうから」
「いい加減にしてくださいよ、兄さん方、やめてください。様とか師匠とか、だいたい僕にだって怖いものくらいありますよ」
あらたの告白にふたりは俄然食いつきます。
「本当かい、あらた。怖いものがあるんだって、うらぶれ」
「怖いものがあるんだってね、くすぶり。で、その怖いものってのは一体なんだい、あらたや」
「はい、兄さん方、僕は二つ目に昇進して雑用を命じられなくなったばかりに心付けがもらえなくなるのが怖いです」
「ですから、兄さん方、これからは僕にどんどんタバコや新聞を買いに行かせて、お釣りを僕にくださいね『釣り?いらねえよ、てめえでとっときな』っていうのが粋ってもんですよ」
完結しました。読んでいただきありがとうございました。