二つ目いやだ3
早速くすぶりがじゃんじゃん言いつけてくださいと言った様子のあらたにお願いをします。
「それだったらとりあえず、そろそろ寄席にお客さんが入る頃合いだから、入場券のモギリでもやってもらおうかな」
「わかりました、くすぶりの兄さん、ただいまやらせていただきます」
そういうが早いが、あらたは寄席の入り口に駆け出して行きました。
「あらたの奴、行っちゃったね、うらぶれ」
「そうみたいだね、くすぶり」
二人がそんなことを話しているうちにあらたが舞い戻ってきました。
「お待たせしました、兄さん方。モギリ、精一杯勤めさせていただきました」
「うらぶれ、あらたさんが勤めたんだって」
「それは良かったね、くすぶり。おや、あらた。お前手に何か持っているじゃあないか、なんなんだい、そいつは」
「ああ、こいつはですね、モギリをしていたらですね、お客さんの一人がですね、『おっ、前座のあらた君じゃあないか。モギリかい。感心感心、前座のうちはそういった雑用仕事も修行のうちだからね、そうだ、こいつで旨いものでも食いな』って心付けをくれたんです。いやあ、こういうことがあるから前座というのも悪くないですね」
あらたが嬉しそうに手に持っている客からのチップを見せるとくすぶりとうらぶれの二人は大層驚いて、一緒になって叫びます。
「嘘だ! 心付けってなんだい! そんなものもらえるはずがない。なあ、そうだよな、うらぶれ」
「ああ、その通りだとも、くすぶりや」
「うらぶれ! お前客にそんなことしてもらったことあるかい? 俺はないよ」
「あたしもだよ、くすぶり、あたしもそんな記憶一切無いってものだよ」
二人はひとしきり互いにお互いともチップなんてもらったことがないということを確認しあった後に再び口を揃えてあらたに詰め寄ります
「どういうことだい、あらた」
「どういうことだい、あらたよ」
「俺は」
「あたしは」
「そんなものもらったことないよ」
「そんなものもらったことないよ」
「落ち着いてくいださいよ、兄さん方。そういえば心付けをくださったお客さんがこうもいっていましたねえ『あらた君はいいね、その雑用でも一生懸命やらさしてもらっているっていう感じが良い。その点君の先輩である二つ目の二人、ええと、くすぶりにうらぶれだっけ、ありゃあダメだね、あれが前座だったころはひどかった。いかにもイヤイヤ仕方がなくやっていますっていう感じがありありとしててね、あんな風にやられちゃあこちらとしても祝儀をはずもうっていう気にはとてもじゃあないけどなれないねえ』って、あっ、違いますよ、兄さん方、僕じゃなくてね、そのお客さんが言ったことですからね」
あらたが有りのままに、客のくすぶりとうらぶれに対するお世辞にも良いとはいえない評価をしゃべってしまったものだから二人はすっかりしょげてしまいます。
「うらぶれ、俺たちはお客さんにそんな風に思われてたんだね」
「そうみたいだね、くすぶり」
二人はしばらく考えていました。しかし、先程はくすぶりが雑用を申し付けたことにうらぶれが気づくと、自分だって仕事を頼みたいと思い、今度はそのうらぶれが言葉を発します。
「あらたや、じゃあ次にあたしがお前にお願いしても良いかな」
「どうぞどうぞ、うらぶれの兄さん」