二
「それにしても、日向の言う通り、エアコン付けて貰おうよ。これじゃあ今年も死んじゃうって」
玲が窓を開けて僅かな風を浴びながら言う。ミディアムロングの髪がふわふわと揺れる。
「私も毎年相談してるんだけどね……何せ部員も少ないから、なかなか難しいのよ」
「片山センセーに言うからでしょ。明日香ちゃんに言えば良いじゃーん」
片山先生というのは私たち二年生の数学担当教師であり、明日香ちゃんとは、顧問のいない私たちの部を多方面から支えてくれている、若い女性教師のことだった。
「誰に言っても変わらないわよ。校長先生に直談判っていう手もあるけど、あの人もご多忙だからね…」
「梓はほんと優等生だよねー。先生なんてちょっと足で使ってやるくらいが丁度良いのに」
「玲って本性こえーよな」
「うるさい体力バカ」
「はぁ!?何だとブリッ子!」
「脳みそ筋肉!!」
「多重人格!!」
「はいはい、落ち着いて」
唸る二人をなだめていると、扉が嫌に古めかしい音を立てて開いた。
「あ、また喧嘩してる。仲良しねぇ」
「「どこが!?」」
「そういうところが」
クスリと笑う女性。先程話題に出た明日香ちゃんだった。
噂をすれば何とやら。
「エアコン欲しいんだってね。でもねぇ、色々大変なのよ」
「ええ~、他の部室にはあるじゃない!」
「そう思うなら、もっと部員勧誘を頑張りなさい。貴方、二回しか参加してないでしょ?」
「うっ」
うなだれる玲の頭を撫でて、彼女は言った。
「そうだ、梓ちゃん。秋山先生が読んでたわよ?きっと卒業式の事だと思うわ」
「ああ、分かりました。日向、鞄の中に入ってるクッキー食べても良いよ」
「やったっ!」
明日香ちゃんに手を振って、部室を出た。
廊下はなぜか部屋の中よりも少しだけ涼しく、風通りが良かった。