一
「なんっっっでここにはエアコンがないの!!?」
茹だるような暑さの中で、日向が叫んだ。
「びっくりしたぁ……いきなり叫ばないでよ」
「いやだって、おかしいじゃん!?他の文化部の部室はどこもエアコンあるのに、なんでウチだけないの!?」
「いや、知らないし…」
「いーやーだー!暑い!暑い!暑いーーー!!」
「だーーーもううるっさいなぁ!!そんなに元気が有り余ってるなら黙ってうちわ扇いどけば良いじゃん!!」
汗を流しながら吠える二人を眺めて、私は袖をまくり上げた。
窓から校庭を見下ろせば、サッカー部、野球部、陸上部など、男女問わず多くの生徒たちが日照りの中で動き回っていて、それを見ていると、そろそろ扇風機を出した方が良いかもなぁと思えてくる。去年だって、ギリギリまで我慢したせいで部費の節約にはなったものの、日向が熱中症で倒れてしまったのだし。
夏の部室を快適に過ごす良い方法は無いものかと考えながら、冷たい麦茶を鞄から取り出す。
「あっ、私にもちょうだい!」
「ズルい、あたしも!」
案の定食いついて来た二人に、こんなこともあろうかと予備で持ってきていたペットボトルを手渡した。勢いよく冷たいお茶を喉に流し込む二人を尻目に、私は弁当の残りの卵焼きを口に放り込んだ。
母の作った卵焼きは、いつも甘くて美味しい。
「はぁぁ、生き返る~…」
「それならどうして自分で持ってこないのよ。もしかして、まだ新しい水筒買ってないの?」
「うぐっ。……だって、梓がこうやって持ってきてくれるし」
「分かった、じゃあ明日から持ってくるの止めるわね」
「えっやだやだ!またちゃんと買うからそれまで待ってよ~!」
溜息を吐いて、日向の額を小突いた。