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珈琲協奏曲  作者: 鶍 冬児
はじまり
6/9

危機

投稿が遅れてごめんなさい。

仙蔵に不吉な影が迫る回です。

ー刑死者の試練ー


和泉side



「あなたのお爺さんが、緊急搬送されたと連絡が入りました。今は、仲町の中央病院に……」

先生の言葉もろくに聞き取れないくらい頭が真っ白になった。私の祖父はそれこそ大病の経験などない健康体なはずだ。でも、それがただの幻影で、実は不吉な影が祖父の体に巣食っていたのではないか。様々な憶測が脳内で飛び交っている。

「ハイ、ハイ、ワカリマシタ……」

もうただ機械的に、感情さえ忘れたような私がそこにいた。


祈る気持ちで階段を駆け下りて、踊り場で転んで膝と膝を擦りむいて、血が出たがそれも気にせず走った。仲町までのバスはいつもの5倍遅く感じた。

「はやく、はやく、はやく……」

小さく呟きながら、神仏に祈るように合わせた手が震えているのが目に映って余計に狼狽した。下車ボタンもギリギリまでうまく押せなくて焦った。

「あ、あの!草鹿!草鹿です!草鹿 仙蔵という患者は?」

取り乱す私を落ち着かせようと背中をさすってくれた看護師に案内されながら、病室に入ると院内着を着せられて沢山のチューブに繋がれた祖父がいた。

「お、お爺ちゃん……?お爺ちゃん!お爺ちゃん!」

一度落ち着いた私だが、再び取り乱した。

「和泉さん!落ち着いて!師匠は寝てるだけです!」

今度は大和に制止された。いつもは見るだけでイライラするのに今ばかりはその顔を見ると、途方もない安心感を感じた。


バイタルチェックを済ませて看護師が退出すると、病室には患者である祖父以外で私と大和だけになった。長い沈黙が続いて、先に私が口を開いた。

「大和、学校はどうするの?お店は?お爺ちゃんはどうなっちゃうの?」

自分でも泣きそうな顔になっているのがわかった。こんなことを大和に聞いてもしょうがないこともわかっていた。

「分かりません。何も。今は、何も…」

当たり前だ、居候ごときの立場で何もかもが決められるわけがない。彼は待つことしかできないと知っていながら、

「そんなの………、じゃあ!私はどうしたらいいの⁈お爺ちゃんが居なかったら!」

無力に大和の胸を何度も何度も叩いていた。

「師匠がいない間は僕たちで守りましょう。グラス/ディアを……二人で。」

不意に抱きしめられた。あまりに唐突すぎて抵抗すらできなかった。見上げると大和も震えていた。そして、つかの間、自分の行動に気づいたのか、

「あ、ごめんなさい!すぐに離します!」

「いい。もう少しこのまま。」

大和の温もりに涙が止まらなかった。


どれくらいの時間、そうしていたかは定かではないが私は泣き疲れて寝てしまったらしい。それだけ私にとっての祖父の存在は大きかったのだ。先のことは、祖父が目を覚まさなければ何も決められないしわからない。でも、それまでの間だけでも大和はクビにせず二人でやれるだけ頑張ってみようかな。

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