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珈琲協奏曲  作者: 鶍 冬児
はじまり
1/9

〜コーヒー・コンツェルト〜

初めての投稿で、作者自身も学生なので不定期、さらには亀更新になるかも知れません。読みにくい文章だったり誤字脱字、不適切表現がある可能性も否めません。

どうぞ、温かい目で見守っていただけたら嬉しいです。

ご意見、ご評価、ご感想よろしくお願いします!

ー私の居場所ー


和泉(いずみ)side


放課後、クラスメイトたちはどこどこへショッピングに行くとか、意味も際限もないお喋りをするとかそれぞれの友人と思い思いに過ごす。それこそ、よく言えばアンティークだとか懐古趣味な、悪く言えば古臭い純喫茶に嬉々として向かう女の子なんていない。

私、草鹿(くさか) 和泉の一番の自慢は祖父 草鹿 仙蔵だ。純喫茶・グラス/ディアを経営する、そこそこ名の知れたマスターだ。実際、地域情報雑誌に紹介されたのを見た記者が取材に訪れたこともある。らしい。私が生まれる前のことなのでよく知らない。珈琲を淹れる彼の姿は実年齢より若々しく感じる。彼が作る甘いカフェオレが私の好物だった。


グラス/ディアの扉は木製で、中学生の私が開けるには少し重い。それでもなんとか扉を開けると、私の好きな珈琲の香りが辺りを漂う。

「ん、おかえり和泉。今、豆を挽いてるから少し待ってろ……」

元々、職人気質で無口な性格だが、祖父が何を言わんとするか私には大体わかる。逆も然りだ。祖父も私の気持ちを敏感に感じ取ってくれる。

カウンターに腰掛け、背鞄を足元に置く。最近、少しこの店での居心地が悪くなった。

「あ、おかえりなさい和泉さん。」

こいつの存在である。長身痩躯で癖のある短めの黒髪に黒縁メガネで、いつも黒のカーディガン。佐伯(さえき)大和という高校生で一応、祖父の弟子。この近辺では、有名な進学校に通っていてこの店の二階の一間に居候している。なんでも、彼の父親が祖父の後輩でそのツテらしい。いつも部屋では本ばかり読んでいて、しかもドストエフスキとかゴーゴリとかなにかの呪文のような難しい名前の人が書いた本をよく読んでいる。部屋の大半は本が占領していて、うっかり触れようものなら崩れ落ちる。実際、彼が試験期間で店に出ていなかったときお八つを持っていき、崩落を招いた経験もある。


コポコポとお湯を注ぐ音が聞こえて、数学のテキストから少し顔を上げると祖父が珈琲を淹れていた。腕付きもしっかりとしていて、目は真剣そのもの。私は、どんなイケメン俳優やアイドルよりこの顔をしている祖父が一番かっこいいと思う。

少し間があって、目の前にカフェオレが置かれる。

「はい、宿題ーー、頑張ってくださいね。」

大和だ。いつもいつも、私に嫌われていると知ってか知らずか優しい瞳で、声で言葉で私に接する。そのこともまた私を苛立たせる要因の一つだ。

「フン。お爺ちゃんありがと」

大和の方をチラチラ見ながら、わざとらしく言ってみた。しかし、当の本人は全く意に介さず珈琲カップを洗っている。

「和泉。大和くんにもお礼を言いなさい。運んでくれたのは彼だ。」

「う……、その、ありが…と。」

祖父にたしなめられた私はそれこそ、子供っぽい、みっともないお礼を大和に言った。

「どういたしまして。」

これにも笑顔で返してくるのだ。調子が狂う。それを隠すようにテキストに視線を落とす。私がこの店を継いだら大和なんてクビにしてやる。そう心に決めながら。


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