序幕 薄れゆく意識の中で
――こんな結末じゃなかった。
頭を何かで打ち付けられた彼はその冷たい地べたに力尽き倒れ込む。
――何がどうしてこうなった? 頭が痛い、心臓の鼓動に合わせて頭痛がする。しかもどんどん強くなる。
倒れ込む彼を見下す一人の男。彼はこの男によって今力尽き死線を彷徨っていた。
その姿を少し引いた距離から少女が叫ぶ。
「もういい! もういいよ! 私のことは置いて早く逃げてよ!」
その少女は自らが逃げる気力を失っていた。その証拠に既に腰を落としていて、その状況に抗う様子も無く、ただ倒れ込む彼に逃げろと叫ぶ。
――頭が痛い。痛みが止まらない。痛い、痛い。吐き気もする。息も早くなってる。そんなとこに座り込んでないで早く逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ――。
しかしその少女の虚しい叫びは彼には届かない。彼の哀しい心の声も少女には届いていない。
――あれ? ……なんで逃げて欲しいんだっけ。なんで痛がってたんだっけ。なんでこんな事になってるんだっけ。
横になり痛みで頭を抱えている彼の頭上に男は右足を添える。それは彼の頭を足で痛み付けようとする行為ではない。彼にとどめを刺そうとしていた。
――だめだ、死ぬ。死ぬ。ここで死ぬ。
男は右足を勢いよく降ろし、彼にとどめを刺した。
――約束、したのに。