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第六話 双竜鉄壁(2/2)

 峠は、闘技場で飛んでいた。

 相手は二人。黒色の竜と白色の竜を引き連れている。巨大な竜だ。三メートルはあるだろう。体格向上のスキルにかなり振っていると見た。そこからも、歴戦の勇士と言うことがわかる。

 解せないのは、二人と言うことだ。


「にっちゃん、基本一対一じゃないんだな?」


「いいえ、原則は一対一です……」


 にっちゃんは戸惑うように言う。


「双子。同じ遺伝子。同じ血。システムが誤認識を起こしたとしか思えません!」


「そう、それが私達に与えられた恩恵!」


「二人で戦うという数的有利!」


 双子が歌うように言葉を紡ぐ。


「そうかい。たたっ斬るだけだけどな」


 そう言って、峠は接近を開始する。

 二色の竜の口が、大きく開いた。


「サウザンドニードルズ!」


「サウザンドボムズ!」


 竜の口から吐き出された氷の矢と炎の弾の嵐が、峠の眼前に迫ってきた。慌てて峠は、方向転換をする。

 すんでのところで回避できた。


「範囲攻撃か……。相性が悪い」


「峠さん、攻略は簡単ですよー」


 にっちゃんが言う。


「本体、狙っちゃえば良いんです。身体能力向上スキルで撹乱すれば一発でしょう」


 にっちゃんは薄く微笑んでいる。悪魔のように。


「そんなことできるかよ!」


「じゃあ精々苦戦してください」


 そう拗ねたように言うと、にっちゃんは台座の後ろに隠れてしまった。

 飛翔スキルの移動速度は身体能力向上スキルの恩恵を受けない。移動速度はそこまでではない。なので、陸地に降りることにした。

 降下中、再び攻撃を受ける。それを、飛翔スキルを解いて落下することで回避する。

 そして、前方へ矢のように飛んだ。一瞬で彼我の距離が縮まる。黒竜の腹部に、剣を突き立てる。しかし、貫けない。

 硬かった。体格向上のスキルは、肌まで硬くするのか。

 黒竜の腕が伸し掛かってくる。それを、剣で受け止める。

 そこに、白竜の口が近づいてくるのが見えた。


「良いわ。やりなさい、華音」


「はい、お姉様! サウザンドボムズ!」


 大爆発が起きる。

 刀剣作成スキルを解除して、生まれた隙間を作って辛うじて回避した。

 どう考えても、光剣作成スキルが必要だった。


「光剣作成スキルは取れないのか? お得意のへそくりポイントあるだろ?」


「いやー、今回は本当にカツカツで。だから、本体狙いに切り替えましょうって。傷つけても、現実世界に戻れば無傷なんですから」


「失血死という可能性もある!」


「ご立派」


 投げっぱなしかよ、と峠は歯噛みする。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 瑞希は不安を覚えていた。五分経つと言うのに、四人ともこちらに帰ってこない。

 もしも峠が負けたら。そう思い、瑞希は震えた。

 生きていてくれれば良い。もし、死んでしまったら?

 自分を救うために誰かが死ぬ。そんな重みを背負って瑞希は一生を過ごせない。

 それに、峠は、守ると言ってくれた。

 そんな優しい人を失うなんて、瑞希は耐えられない。もう、峠は瑞希の友人の一人だった。

 瑞希は、時計のパーツを握って祈った。一心に祈った。

 峠が、無事でありますようにと。

 その時、時計のパーツがほのかに輝きを放ち始めた。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「なに?」


 激戦の中で、それに気がついたのは、双子の片割れだった。

 確か、美音と呼ばれている方だ。

 空から、光の粒子が降りてきている。それは、にっちゃんの元に集って、消えた。


「あ……光剣作成スキル、取得可能になっちゃいました」


「スキル付与頼んだ!」


 何が起こったかはわからない。けれども、状況が好転したと言うことはわかった。


「させるか、サウザンドボムズ!」


「サウザンドニードルズ!」


 炎と氷の共演が台座にぶつかる。しかし、台座は傷一つ負わなかった。


「無敵オブジェクト?」


 美音が戸惑うように叫ぶ。

 横ピースをしたにっちゃんが、台座から顔を出した。


「光剣作成スキル、付与完了!」


「だから、決まってねえっての!」


 手に持った剣を、一旦解除する。

 そして、念じる。なんでも断てる剣を。

 光で出来た、その剣を。


 そして、眩い光が闘技場に現れた。

 峠は不可思議な光の剣を持っていた。重さも感じない。体の一部のように感じられる。


 勝てる。そうと、確信した。


「サウザンドニードルズ!」


「サウザンドボムズ!」


 双子の声が重なり、炎の弾と氷の矢が群れをなして襲ってくる。光剣を振るい、それらを断ちながら、峠は前へと進んだ。

 持久戦だ。

 竜の息が尽きるのが先か、峠の腕が疲れるのが先か。

 けれども、伊達に身体能力向上スキルは取ってはいない。疲労は、ない。

 そのうち、竜が息を吸い始めた。攻撃の嵐が、止む。


「いけない!」


 美音が、悲鳴のような声を上げる。


「姉様!」


 華音が、絶望の声を上げる。

 それを聞きながら、峠は劇的な速さで前進していた。

 光剣を振るう。

 黒竜と白竜の足が、断たれた。


「あんたらにもう勝ち目はない」


 そう言って、峠は美音に光剣を突きつける。


「聞かせてくれないか。あんたらがそこまで必死に戦う理由」


「余計なことを……」


 にっちゃんがぼやくのが聞こえたが、無視する。

 美音は憎々しげな視線を峠に向けた。


「華音は……癌なのよ!」


 その一言で、峠の彼女達への敵視は薄れた。


「悪い? 生き残りの椅子に座りたいと思っても! 私は必死にやっている! なのに何故? 貴方みたいに余裕面してる人が勝っちゃってるの? おかしいじゃない?」


「俺は、この戦いを終わらせるために戦っている。人死を出さないために。犠牲者を減らすために。協力する気はないか?」


「協力……?」


 美音が、戸惑うように目を開く。


「お前達にポイントを譲れるかもしれないぜ」


 そう言って、にっちゃんに視線を向ける。


「にっちゃん、フィールドをクローズしてくれ」


「ええ……すっぱり勝っときましょうよお」


「仲間を増やせと言ったのはお前だ」


「仕方がないなあ。欲にまみれた峠さんを見たいんだけどなあ」


 そうぼやきながら、にっちゃんは台座に触れた。すると、そこに操作パネルが現れる。

 そのボタンを数度押すと、バトルフィールドは霧のように消えて行った。

 そして、現実世界に四人は戻ってくる。


 瑞希が抱きついてくる。


「良かった、生きてて! 私、必死に祈ったんです! 峠さんに生きててほしいって」


「そうか……その祈りが、光剣制作スキルの不足ポイントを補ってくれたのか」


「変な誤解してすいませんでした! 私が間違ってました!」


「いや、誤解とわかってくれたならいいよ」


 そう言って、瑞希の体を放して、双子に向かい合う。彼女達も、抱き合っていた。


「どうだ? 協力関係。悪いことはない気がするぜ」


「貴方が負けてくれれば、それで願いが敵うかもしれない」


 美音が、涙に濡れた目で言う。


「俺は本体がダメージを負うと死ぬタイプだ。それは出来ない」


「……人を、殺したことがある。意図せずに」


 華音が、呟くように喋り始めた。


「私はもう、あんなのは嫌。人が死ぬのは、嫌」


「華音……」


 美音が、華音を抱く手に力を込める。


「あんな犠牲を減らせると言うなら、私は貴方に協力します。ねえ、いいでしょう? お姉様」


「けど華音。それは、貴女の寿命を削る道よ……」


「約束するよ。俺達の誰が勝っても、華音の癌の治癒を祈るって」


 美音はしばらく俯いて考え込んでいたが、そのうち、顔を上げて手を差し出した。


「貴方の言葉、信じるわ」


 峠は美音の手を握って、上下に振る。

 美音の目が、鋭く細められた。


「裏切った時は、許さない」


「峠さんは人を裏切るほど賢く出来ちゃいませんよ」


「五月蝿いぞ低俗霊。それにしても、今回みたいなことがあったら困るな。俺がいない間に仲間が襲われたら対処できない」


「ああ、その対処は簡単ですよ」


 にっちゃんが、人差し指を天に伸ばして言った。


「皆で峠さんちに泊まれば良いんです」


「……は?」


 それは困る。そう峠が言おうとした時のことだった。


「もう、怖い目にあうのは嫌です……」


「隙がある時の各個撃破は一番手痛い状況だから避けたいわね」


「じゃあ、皆で峠さんの家に行きましょー!」


 そう言って、にっちゃんは腕を上げて前を歩き始めた。

 皆、その後についていく。

 なんでこの女はいつも状況を引っ掻き回すんだ? 峠の憎悪は今にも形になりそうだった。

次回『団欒』

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