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第二話 スキル確認

「で、お前の能力はなんなんだ?」


 にっちゃんに訊く。彼女は煎餅を食べながら頬杖をついてテレビを見ていた。煎餅の噛み砕かれる音が、部屋に大きく響いた。


「スキル付与ですね。基本的にそれしか出来ません」


「スキル……? 技を貰えるってことか?」


「そういうことです。ゲームで言うところの必殺技ですよ」


 そう言って、煎餅を握りながら人差し指で天を指す。お気に入りのポーズなのかも知れない。


「じゃあそのスキルとやらをすぐに与えてくれよ」


「無理ですねえ」


「なんでだよ」


 峠は憤慨した。それでは話が違う。瞬間移動するような化物の相手をするのだ。必殺技ぐらい貰わなければやっていられない。


「現実世界では使えないんですよ、スキルは。バトルロイヤルの参戦者と接近すると仮想空間に送り込まれるのでそこで使えるようになります」


「……仮想空間、ねえ」


 瞬間移動を見せられた今でも、俄に信じ難いものがある。


「実際に戦ってみればわかるでしょう。ちょっと敵を探しにうろつきましょうか」


「そうだな」


 血が騒いでいた。戦える。その事実に、浮かれていた。


「けど、ちょっと待って」


「なんだ?」


「テレビ良いとこなんですよ。そこ終わるまで待ってください」


「……お前なあ」


 本当にこの相棒と一緒に二百人を相手に戦っていけるのだろうか。今後の不安は大きい。

 出現した時のポーズからして彼女は何処かお気楽なのだ。

 テレビ番組が終わって、外に出た。秋の夜の涼しい気温が肌を撫でている。


「時計のパーツは忘れないで下さいね」


 にっちゃんの言いつけを守り、時計のパーツをセロテープで固定するとポケットに入れて歩き始める。

 一時間ほど歩いたが、成果はなかった。


「いませんねえ」


「いないなあ……本当にバトルロイヤルなんて始まってるのか?」


「始まってますよ。もう脱落者が三名ほど。その分、貴方は自らを強化する機会を失ったというわけです」


 のんびりしているのか急かしているのかわからない。


「県の中央に行くか。ここは田舎だからな。人も少ない」


「良い案ですね」


「電車、もう動いてないけどな」


 沈黙が漂う。


「仕方ないですね。にっちゃんサーチ!」


 突然大声を出されたので、峠は驚いた。

 にっちゃんが目を瞑って何やら難しい顔をしている。そのうち、その目がはっきりと開かれた。


「見つけましたよ。相手も敵を求めてうろついているようです」


 にっちゃんに手を引かれて歩いて行く。その柔らかい感触に、不覚にも峠は胸が高鳴るのを感じた。

 そして、相手らしき人が見えてきた。

 六十代ぐらいの初老の男性。あまり裕福そうには見えない。古びたジャンパーを着て帽子をかぶっている。

 眼と眼が、合った。

 にっちゃんの手を放して、峠は前進を始める。相手も、前進を始める。

 そして、二人が一定距離に達した瞬間、光が弾けた。

 気がつくと、峠は狭い通路にいた。台座のようなものが、少し高い位置に設置されている。

 そして、初老の男性が嫌らしい笑みを浮かべた次の瞬間、鎧武者がその眼前に現れた。

 鎧武者が刀を抜いて接近してくる。その素早い一撃を、回避した。

 そして、右足首からの回転を右手に乗せて敵の胴を掌底で突く。硬い感触に手が痺れる。

 衝撃に、敵はたたらを踏んだ。


「真剣に鎧の完全武装が相手だなんて聞いてねえぞ!」


 にっちゃんに思わず文句を言う。


「ちょっと待っちゃって。スキル付与しますから」


 そう言って、にっちゃんは横ピースを決めている。


「そのポーズ、ムカつくから、やめろ」


 言いながら、敵の一撃、一撃を辛うじて回避していく。一撃が胸元を掠めて、服の前部が裂けた。

 死ぬ。そんな恐怖が、胸をかすめる。しかし、同時に高揚もする。飛び込む勇気さえあれば、勝てると。ただ、敵も鍛えているのだろう。刀の速度が尋常ではない。飛び込む間が、掴めない。

 次の瞬間、峠の体は光に包まれていた。


「刀剣制作、身体能力向上スキル、付与完了!」


 にっちゃんの楽しげな叫び声が通路に響く。

 力が湧き上がってくる。体が軽い。

 敵の刀のスピードが前よりも遅く見える。

 飛び込む間が、見えた。

 再度、掌底。それは敵の鎧を割って、腹部に痛打を与え、膝をつかせた。吐き出された唾液が、輝いて宙を舞う。


(そう言えば、刀剣制作スキルって言ってたな……)


 両手に剣を持つイメージを持ってみる。すると、それは現実のものとなって重みを持って手に現れた。

 剣で相手の胸を貫いた。

 すると、鎧武者が消えて行く。初老の男性も、消えて行く。


「フィールドクローズって言ってください。勝者の意図がないとこの空間は閉じれないので」


「フィールドクローズ」


 言われるがままに口にする。今度は、周囲の景色までもが消えて行く。

 気がつくと、三者は元いた市街地に戻っていた。


「ひっ」


 初老の男性が声を上げて逃げていく。

 後には、峠とにっちゃんだけが残った。


「初勝利おめでとうー!」


 そう言って、にっちゃんが抱きついてくる。胸の感触で、勝利の高揚感が散ってしまった。

 ポケットが輝いていた。

 時計のパーツの集まりが輝いている。パーツの数は、増えていた。


「おめでとう。ポイントが入りましたよ。夢を叶えるか、スキルを強化していくか、選べます」


 今持ってるスキルは、確か身体能力向上と刀剣制作だったか。

 それさえあれば、大抵の敵には対応できる気がした。


「一応、身体能力向上を伸ばすかな」


「はいはい、身体能力向上をレベルアップと。刀剣制作も有用ですよ。そこから分化した光剣制作になると魔術に対応できますからね」


「そういうことは早く言ってくれよ……。刀剣制作も上げれるか?」


「そこまでポイントは余ってないですねえ。」


「そうか。じゃあ余ったポイントはどうするかな」


「んー。こんなんじゃどうでしょうね。貴方の願望を写してみましょう」


 天から何か降ってきた。それを受け取ると、札束だった。百万はあるだろう。


「お、お、お、お、おー!」


 思わず声を上げる。百万。持ったこともない大金だった。


「戦闘経験が多い敵を倒すほど入るポイントは多くなります。頑張りましょうね!」


「豪遊だあああああああああああ!」


「聞いちゃいませんね」


 浮かれていた。手に入った大金。戦闘での勝利経験。自分の実力が通用するという確信。

 このバトルロイヤルを、峠は楽しみ始めていた。

次回『救済』

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