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ラーナ様が見てる!  作者: 池田 真奈
第1章 ラーナ様が見てる!
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第7話 ショコラ欠乏症

「ショコラちゃん、ショコラちゃん!」


ラーナ大神殿で行われた春の感謝祭も無事に終わり、久しぶりに私の部屋を訪れたトルテはドアを開けた瞬間からずっとこの調子。

会った瞬間に凄い勢いで飛びついて来た挙句、その後も私の胸に頬を擦り寄せっぱなしだった。


「ち、ちょっと待ってよトルテ!」


何とか引き剥がそうとするんだけど、何処から引き出しているのか不明な力でビクともしない。


「ダメですの、まだ私の中のショコラちゃんが不足していますわ」


トルテの中のショコラって… どんな成分?

一方、ずっと私と一緒だったエマちゃんは、私の護衛から解放されて久しぶりにザッハ家のお屋敷に帰って行ったの。

白猫亭にいる時のエマちゃんはずっと幼女モードのままだったからノーラさんはとても彼女を可愛がってくれ、頻繁に甘いお菓子を貰っては喜んでいた。

更にザッハ家のお屋敷からここまで毎日通うのは大変だろうからと、宿代をタダにするから私の部屋に泊まりなさいと配慮してくれたので先程まで私の部屋に居候していたのだ。


「とにかく、もうお腹も空いたし何か食べに行かない? トルテだってお腹空いてない?」


「私はこうして愛しのショコラちゃんを摂取出来れば、まぁ一ヶ月位なら飲まず食わずでも平気ですわね。 ですがショコラちゃんが食べたいのでしたら、勿論お食事にご一緒しますわ」


だから… その私の名前と同じ不思議成分は一体何? トルテが言うと本当に大丈夫そうで怖い。


「じゃあ、行こうよトルテ!」


まずは抱き付くのをやめてください。

王都ラナンは春の感謝祭を終え、落ち着きを取り戻し始めていた。

各地から訪れた巡礼者達も既にその大半が帰国の途に着いている。

そんな街中を私の隣の部屋で魔剣のレオンと一緒に"うふふ、きゃっきゃ"していたローザを誘って昼食に訪れている。

ドアをノックしても返事が無いから気になってドアを開けたらレオンを抱きしめたまま床をゴロゴロと転がっていたと言うのは皆には内緒にしておこう。


聖女と噂されているトルテに腕を組まれ、"白薔薇の騎士"ローザを従えた私は、行き交う人々から羨ましそうな表情で見られているのに気付く。

そうなのだ、ローザはハーマン街道での活躍が認められ、ラナリア王国騎士団から正式に"白薔薇の騎士"と言う称号を与えられていた。

私はと言うとエマちゃんと共に冒険者ギルドの冒険者仲間達から"小さな破壊神"と"麗しの女神"と言う傍迷惑な二つ名で呼ばれる様になったんだけど、私とエマちゃんとの差が明らかなのは何故?

"小さな"とか"破壊神"とか… どっちも16歳の女の子に対しての褒め言葉じゃないよね? あれ… おかしいな、何故か目の前が歪んで見えちゃう。


「ショコラちゃん! 少し涙目ですわ… 一体どうしたのですか? 何処か痛いの?」


「ううん、何でも無いから!」


挫けるな私の心! トルテやみんなが心配しちゃうもん。


そう言えば王都ラナンの冒険者ギルド本部には他の都市からも"麗しいの女神"エマ様を一目見ようと冒険者達が訪れる様にもなり、その虜になった者達の手によってエマ様親衛隊サインツ支部とグランバニア支部の設立が決まったらしい。


ある冒険者の体験談では絶対絶命の大ピンチの際にエマ様の笑顔を思い浮かべたら信じられない程の力が身体中に湧き上がり無事に死地から生還したとか、エマ様と言葉を交わしてから妖魔討伐に赴いたら傷一つ負わなかったなど、彼らが集まって語り始めたら… もうキリが無い。

恋する者の強さって言うのかな? でもね… ハッキリ言わせて貰うと、それってただ単にあなた達の実力のお陰だから!

いつの日かエマ教団が設立されそうな気がするのは私だけでしょうか?



「ここなんかどう? パンケーキが美味しいって評判なの。 きっと二人も気にいると思う」


「ほぅ、これは可愛らしい店構えですね。 私、浮いてませんか?」


ローザは少し恥ずかしそうだ。

今日は王国騎士団の鎧は着ておらず、白を基調とした騎士服を着ており、腰には当然の事ながら魔剣のレオンがいる。

トルテは相変わらずのラーナ教団から支給される侍祭の装束に身を包んでいたが、その手に錫杖は無い。


「全っ然っ! ローザとトルテは二人共、美人さんだもん。 どっちかって言えば私の方が一緒にいて浮いてる気がする位で…」


「そんな事ありませんわ! ショコラちゃんはとっても可愛らしくて、その全てが正義ですの」


「ショコラ様は、この私自身が認めた主人です。 その素晴らしい至高の存在のどこに劣る要素があるというのですか?」


「トルテやローザは、そう言ってくれるけど… みんなは良いよね。 「聖女」「白薔薇の騎士」「麗しの女神」だもん。 私なんか「小さな破壊神」だよ。 私だって女の子なんだよ?」


「もしかして、さっきショコラちゃんが黙って涙ぐんでいたのは… そのせいなの?」


「これは許せませんね… トルテさん」


二人揃ってテーブルに向かって(うつむ)きながら「「ふふふっ…」」と嫌な笑いを漏らす。

注文を取りに来たウエイトレスが「ヒィッ!」と声をあげて腰を抜かして後退る。

二人からモヤモヤとしたオーラが立ち昇る。

その姿は異世界の魔神として伝承が残る"修羅"と"羅刹"そのものだった。


「やはり… この世界は一度滅ぼさなければならない様ですわ。 まず手始めに私とショコラちゃんの仲を引き裂いたラーナ教団からですわね」


「ならば… 私は憎っくきラナリア王国を転覆させてみせますわ。 そしてショコラ様が万物の頂点に立つ理想郷を築くのです!」


「こんな世界は滅ぼしてしまえ! スクラップ・アンド・スクラップ!」

「こんな国は滅ぼしてしまえ! スクラップ・アンド・ビルド!」


二人が立ち上がって恐ろしいシュプレヒコールを繰り返す。

ごめんなさいごめんなさい、私の悩みで世界が滅ぶのは勘弁して。

と、とにかく話題を変えなきゃ!


「た、たまにはこんな私でも街中にいる女の子みたいなお洒落をしてみたら、少しは可愛く思って貰えるのかなぁ… あはは」


二人の関心を別に向けるため、苦し紛れに他の話を振ってみた途端、ピタリと二人は反社会的行動を止めて席に着く。

この間の怒熊討伐の報酬として金貨1枚の他に肝臓や熊の手などの素材が小金貨5枚の高値で売れていた。

それを3人で山分けしても各人が小金貨5枚を受け取る事が出来たため、今の私の懐はかなり暖かい。

たまにはお洒落してもイイかなって思う。


「それは良い考えですわ。 可愛らしいショコラちゃんの姿… 想像するだけで、もうワクワクしますの」


そう言って"パチン"と指を鳴らすトルテ。

「トルテお嬢様。 お呼びですか?」


何処からともなく現れるセバスチャン。


「食事の後にショコラちゃんの服を買いに行きますわ。 早急に馬車の準備を!」


「畏まりました。 ならば行き先はトルテお嬢様の行きつけの店で宜しいですか?」


「そう致しましょう」


「ちょっと待って! トルテの行きつけの店なんて流石に高いでしょ?」


慌てて確認する私。

幾ら臨時収入があったとは言え、お金持ち御用達のお店だなんて幾らあったって無理だもん。


「大丈夫ですわ。 ねぇ、セバスチャン?」


「中々にリーズナブルなお店ですから安心してくたさい、ショコラ様。」


「素敵ね、私も是非ご一緒させてください」


ローザも興味があるみたいだけど… 私とは違って侯爵令嬢だもんね。


「ええ、勿論ですわ。 皆で参りましょう」


その後、人気のパンケーキを食べたんだけど、話題になるだけあって本当に美味しかった。

お茶を飲みながら他愛もない話をする私達。

そして一時間程過ぎた頃にセバスチャンが帰って来た。


「お嬢様方、準備の方が整いました。 こちらへどうぞ。 支払いは私の方で済ませておくので馬車の中でお待ちください」


「わぁ、ありがとう。 ゴメンねトルテ」

「これは… ご馳走様です、トルテさん」


私とローザが礼を言う。


「いいえ、構いませんわ。 パンケーキを口いっぱいに頬張るショコラちゃんの可愛らしい姿も見れましたもの」


「ええっ、そんなリスみたいだったの?」


頬袋なんか無いのに。


「はい! とっても」


凄く美味しいから食べるのに夢中になってたもんね… ちょっと恥ずかしい。



お店を出ると私の予想通りに馬車の乗り口へと向かって敷かれた赤い絨毯が目に映る。

以前の様に馬車が邪魔だと因縁を付けられない様に、通常の3倍の速度で馬車に乗り込む私。


「うふふ、ショコラちゃん。 そんなに急がなくてもお店は逃げないわよ」


それを見たトルテには笑われたけど、これは自己防衛の一環だから。

"過ちを気に病まず、次の糧にしろ"って確か昔の偉い人が言ってた筈よ。

今回はノートラブルでお願いします、ラーナ様!

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