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ラーナ様が見てる!  作者: 池田 真奈
第1章 ラーナ様が見てる!
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第3話 女騎士ローザ



「ああっ、どうして愛しいショコラちゃんと一週間も離れ離れにならなければいけないの!」


ラーナ教団で侍祭を務めるトルテの立場上、教団の祭事には余程の理由が無い限り参加する義務があり、最下級の侍祭にはやらなければならない事が数多くあるらしい。

それらのために大神殿にある宿舎で皆と一週間は寝泊まりしなければならないトルテは、朝早くに私の部屋を訪れてから、ずっとこんな調子で落ち込みまくっていた。


「私とショコラちゃんを引き裂く悪の教団なんか滅んでしまえばいいんだわ。 いえ、いっその事滅ぶべきよ!」


あの〜 それって仮にも教団から聖女認定を審議されている方の言うセリフでは無いと思いま〜す。


「トルテ、それを教団で絶対に口にしたらダメだから。 異端審問とかされかねないからね」


聖女って事は女神ラーナが人間界に降臨する際には、その器にもなる貴重な存在だから滅多な事はされないとは思うけど。


「お嬢様、そろそろお時間です」


泣きながら私に抱き付いて離れないトルテを無理やり引き剥がして担ぎあげるセバスチャン。


「ショコラちゃ〜ん! 嫌〜っ、ショコラちゃ〜ん!」


悲痛な叫びを上げながら無理矢理馬車に乗せられたトルテは無情にもドナドナされて行った。


「ふぅ、どうやら終わった様ね。 何だか凄いお嬢様だね。 それにまた随分と気に入られてる様だけど大丈夫かい?」


トルテのあの姿には白猫亭の女将さんのノーラも呆れ顔だ。


「あれでも本当に良い友達だから大丈夫」


私は取り敢えず笑って答えておく。

白猫亭の玄関先での最後のやり取りを見に集まっていた人達も苦笑いを浮かべながら立ち去って行った。


「で、どうしましゅか? ショコラしゃま」


ラーナ教団とは何も関係の無いエマちゃんだけが私の元に残っていた。

セバスチャンはトルテの側に付いていないといけないらしく(一人にしたら絶対に脱走すると思われる)、一緒に大神殿へと向かっている。


「そうね、一週間もダラダラしていられないから二人でも受けられる簡単な依頼が無いか冒険者ギルドに見に行きましょうか?」


「そうするでしゅ!」



私はこの白猫亭にやっかいになっているんだけど一日小銀貨3枚の計算で一ヶ月分の家賃になる銀貨9枚を稼がなければならない。

一緒にお屋敷で暮らせばいいのにってトルテは言ってくれるけど彼女とは対等な立場の友達でいたいからって断わってある。

秘技”幻影包み”で大人の女性に見た目だけ変身したエマちゃんと冒険者ギルドに向かうと何だか騒がしかった。


「無礼者! この私をアイレンシュタット侯爵家の者と知っての狼藉ですか? 何故、高貴なるこの私が最下級の青銅3級から始めなくてはならないのかしら?」


たまにいるのよね、お金に困った貴族様が冒険者に身をやつしたはいいけど、他人を見下す性格が災いして結局自滅するのがお決まりのパターンだけど。

冒険者ギルドの受付嬢も困っているみたいだけど私には関係無いし、依頼が貼り出されている掲示板でも見に行こうっと!


「ちょっと、そこの貴女(あなた)!」


可哀想に誰か巻き込まれたみたい。


「聞こえてないのかしら? そこのミスリル装備の小柄な貴女よ!」

ええ〜っ、ちょっと待ってよ。

何で私をロックオン?


後ろを振り向くと金髪縦ロールの生粋のお嬢様って感じの女騎士が立っていた。

身に着けている鎧と剣はラナリア王国騎士団の物だけど、手にしている大盾は意匠が施されていて随分と立派な代物の様に見える。


「私に何か用?」


厄介事は本当に勘弁して欲しいと思いながら一応は用件を聞いてみる。

どうも冒険者ギルドに来ると変なのに絡まれる気がするのは気のせい?


「ディオ・フォーゲルの作と思える高価な短槍を携え、更に侍女を従えた冒険者なんて普通じゃないわ。 そうなると中々の腕前だと思うのですけれど… どうなのかしら?」


確かに私の装備は伊達じゃない! 普通の冒険者が何年かかっても簡単に手に入れられる装備じゃないのは知っていた。


「あなたと同じ、青銅3級のまだ駆け出しの冒険者よ。 この装備は親友からの貰い物だし、一緒にいるエマさんだって私の侍女じゃないから」


私は襟元に付けたギルドバッジを彼女に示す。

青銅3級の私に与えられたのは階級を表す青銅製のバッジで、そこには3級を意味する小さな星が3個付いている。

これが2級になれば少し大きくなった星が2個になり、1級になれば更に大きな星1個に変わる。

そして白銀級になれば材質も白銀製の物が支給される仕組みになっていて、黄金1級まであるからその道のりは果てしなく遠い。


ちなみにギルド会員にはギルドカードと言うのが渡されているんだけど、本人かどうか識別出来る様に特殊な魔法が付与されている。

これは便利なアイテムで現金をチャージする事が可能になってて、各地に支部がある冒険者ギルドで引き出す事が可能になっていて、更に安全のため本人しか引き出す事は出来ない。


このカードを提示すれば冒険者ギルドと提携している宿や店舗で割引きが受けられる仕組みになっていて本人確認が取れればカード決済も可能。

ちなみに白猫亭も加盟店で、通常客なら一ヶ月銀貨12枚になるから私は毎月銀貨3枚も得している事になる。


でも全ての店で使える訳では無いため、ある程度の現金は持ち歩く必要はあるんだけど、かなりの危険は回避出来る安全なシステムになっていると思う。


「あら駆け出しの冒険者とはご生憎様。 私はローザ・アイレンシュタットよ。 それにしても随分とまぁ… 気前の良いご友人をお持ちです事。 さぞ裕福な方の様ですね」


「プレゼントしてくれたのはトルテって言うザッハ家のお嬢様だから、単なるお金持ちって言うより大富豪って感じかな」


「わ、我が一族から屋敷も領地も奪った恐れを知らぬ単なる成り上がり者に過ぎないあの憎っくき守銭奴ザッハ家ですって?」


ザッハ家の事を本当に凄く憎んでるらしく、さっきまで余裕を見せていた侯爵令嬢ローザが怒りに震えてプルプルしている。


「うん。 トルテとは幼馴染みで、一緒にいる事は多いかな。 さっきまで一緒だったし」


「私からは借金の形だと言って先祖伝来の魔剣を取り上げたクセに、この少女には高価な物を惜しげもなくプレゼントしたなどとは本当に口惜しいですわね…」


「あなたの家名"アイレンシュタット家"って言ってたと思うんだけど、確か獅子王ハンスの魔剣って言うのがグラン商会の武具屋に置いてあったの。 もしかしてそれの事?」


「そ、それですわ! 私の魔剣レオンハートはグラン商会にあるのですか?」


グイッと距離を詰めて来るローザ、なんか食い付き具合が半端じゃない。


「魔剣の名前までは知らないけど、獅子王が晩年に使ってた魔剣って聞いたと思うけど…」


「レオンハートに間違いありませんわ。 待っててくださいませレオン様… 必ず私の元に取り戻してみせますわ」


えっ、剣に愛称付けて更に様付け? 危ない人な予感しかしないわ…


「あ、そう… じゃあ頑張ってね!」


触らぬ神に祟りなしって言うし… ここは素早く退散退散!


「ちょっと待ちなさい、いえ… 待っていただけますか? 少し話を聞いて欲しいのです」


あんまり無碍にも出来ないし、結局巻き込まれちゃうのね私って…


急にトーンダウンしたローザの話によるとアイレンシュタット侯爵家は代々に渡る浪費癖が祟り領地を少しずつ切り売りして凌いでいたらしい。

そんな事をすれば領地からの税収も減少して財政が苦しくなるのは明らかで、自ら招いた負のスパイラルに陥ってしまい彼女の代で最後に残っていた屋敷を売り払ったが借金の額には遠く及ばず、先祖伝来の魔剣を持って行かれたそうだ。

彼女の持つ大盾も魔法の盾らしいがアイレンシュタット家の家紋が刻まれており、他の物が持つのは流石に憚れると言う理由で残されたらしい。


その後は彼女自身が生活して行くためにラナリア王国騎士団に入団したのだが、新人騎士の給金では日々の生活だけで精一杯で魔剣を買い戻すための貯金など到底出来ない事に業を煮やし、騎士団に所属していれば宿舎で生活出来る利点もあるため当面は非番の日だけの活動にはなるが一攫千金の冒険者の道を選んだと言うのだ。

騎士って国や君主への忠誠心からその身を捧げるんだって思ってたけどローザの場合は少し違うみたい。


「で、詳しい事情は聞かせて貰ったけど、私にどうして欲しいの?」


「貴女はグラン商会と面識があるようなので一目でいいからレオン様… じゃなく魔剣を見たいのです!」


うわぁ、完全に恋する乙女の眼差しになっちゃってる。 何となく醸し出す雰囲気がトルテに似てる様な…


「う〜ん、エマさんにも聞いてみないと… って、随分と静かだと思ったら立ったまま寝てる?」


振り向いた私は器用に立ったまま寝てるエマちゃんの姿に愕然とするのだった。


「ん、話は終わったでしゅか? じゅる…」


「エマちゃん、よだれよだれ!」


美人な顔付きに似合わない涎を、凛とした口元から垂らしているエマちゃん。


「エマ… ちゃん?」


ローザは首を傾げてエマちゃんに対してさっきまで"さん"付けだったのに"ちゃん"付けになっちゃった事を不思議に思ってる様だった。


「予定を変更してグラン商会に行こうと思うんだけどいいかな? エマさんはお屋敷に帰る?」


「エマも付いて行きましゅ、トルテしゃまにショコラしゃまから離れるなと命じられてましゅ! 悪い虫が近付いたらコレで駆除するでしゅよ」


そう言いながらスルリとスカートを捲り上げ、太ももの所に巻いた黒い革製のホルダーにセットしてあるクナイって言うナイフみたいな武器をチラリと見せるエマちゃん。


「うぉーつ!」「エマ様のおみ足が拝めるとは、今日は何て素晴らしい日なんだ!」「おい、押すなよ。 危ないだろ!」「ふ、太もも…」


突然の出来事に興奮した冒険者達が我を忘れて私達を取り囲む。

悪い虫ね… どう考えても私じゃなくてあなたに寄って来てると思う。


「エマ様、行ってらっしゃいませ! 我ら親衛隊一同、ご無事の帰還を祈っております」


「行って来るでしゅ、えへへ」


にこにこと可愛らしく微笑みながら手を振るエマちゃん。

美人さが際立つ澄ました表情に加え、それとはまた違うギャップのある愛くるしい笑顔にノックアウトされた者達が続出している模様。


興奮冷めやらぬ冒険者達が私達に対して両端に並んで建物の出口までの道を作ってくれる。

驚いた事に全員が右手を胸に当て、エマ様に心臓に捧げるポーズで敬礼までしているし…

そしてその中を歩く私達3人… ホント、いつの間に結成されたのよ、この【エマ様親衛隊】。


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