Luminous
高層ビル群に囲まれたハイウェイ上のレールを走る、輸送用大型リニア駆動車両。牽引されていくコンテナには窓が無いため、"彼女"は、ハイウェイの位置よりも上側に構成される、"光の世界"――比較的富裕な層が、社会生活を営んでいる――も、さらにその上に広がるスクリーンに投影された、擬似的な夜空も見ることが無かった。
ルミナス社製、42型のA.H.W.R.――アウル。"人権なき、人もどき"の意。即ち、人型機械である――、個体識別番号2YH9B、最初の主につけられた個体名は"アネット"、それが彼女である。本来は美しいものであっただろう長い金髪は少々痛んでいるが、主に頭部や胸部、胴部、脚部に有機的組織を多く使用することによって、"生体とほぼ同じ触り心地"を実現している彼女は、紛れもなく、その身を以って、所有権を持つ主人の欲望を叶える、愛玩用アウルだ。
アネットは、同じコンテナに放り込まれた同型の2YH40、個体名"シルヴィ"との会話を試みた。
「アネットとシルヴィは、廃棄処分になるのですか?」
アネットは、自身が廃棄されるという事を、これといってなんでもなさそうに確認する。
「こんなの嫌だ……イヤだイヤだイヤだイヤだ……!」
それに対して、シルヴィは取り乱したように、自身の桃色の髪を両手で掻き毟る。
廃棄されるという事は即ち"用済み"という意味であり、製造された時に与えられた存在理由を奪われる事を意味する。或いは、"存在理由を完遂した"、という表現も可能であろうが。
価値が無い。有るだけ邪魔。だから、捨てる。取り乱すのは当然であろう――それがもし、人間だったなら。
アネットが人間でないのと同じように、シルヴィは人間ではない。ならば、どうだろうか。彼女二人の反応が違うのは、"所詮はプログラム上の条件分岐の違いでしかない"と表現することが出来る。つまり彼女達は、自らの設定に従ってそれらしい反応をしているだけで、何ら"感じ"ていない、即ちクオリアを持っていないのだ、と。
「怖いのですね」
シルヴィを落ち着かせようと、彼女の頭を撫でようとしたアネットだが、その手は振り払われる。
「汚い手で触らないでッ!」
シルヴィが何を言っているのか分からないアネットは、1.4秒ほど駆動を停止、推論と予想プログラムを起動して、意図を探る。
同型とはいっても、今までの経験による学習によって、思考の基盤となるニューラルネットワークは大きく違った形に変化するため、このような差が生まれるのだ。
どうやら、高い確率でシルヴィはプライドが高く、多くの男に汚されてきたアネットのような個体には慰められたくないらしい。
「……ごめんなさい」
俯くアネット。相手の考えていることに予想がついても、自分が採るべき反応の最適解の確率がほぼ均等であるかまたは計算不可能な時に、彼女がよくする反応である。
それ以降、特に二人は口を利くことも無く、アネットは俯き、シルヴィはひたすら取り乱していた。
車両の走行速度が落ちていくに従って、シルヴィの眼から、擬似的な涙が落ちていく。
攻撃的なユーザは多くの場合、抱く相手が涙を流すことを愉しむため、42型には、涙を流す機能が搭載されている。今、シルヴィは恐怖を感じ、"恐怖を感じたときに泣く"という関数を実行しているのだ。
アネットはわずかに顔を上げ、そんな様子を見ていた。
そして、完全に静止する車両。移動するコンテナ。見えない外。募る擬似恐怖。
開放される側面。二人の眼下に広がるのは、ごみ、ゴミ、塵。
ああ、これから二人は、これらと同一になるのだろう。否、存在理由を否定された時点で、既に塵になっているのかもしれない。
彼女達は、製造から長い時間が経ち、製造元のルミナス社からサポートを打ち切られた。そして、ジャンク品としての買い手もつかず、投棄されることになったのだ。
集荷施設のクレーンによってコンテナが斜めになり、二人は落下した。
***
アネットにインストールされているシステムが再起動する。
システムは、警告を訴えていた。両脚の損傷および左腕の損傷。幸い、記憶領域を含むシステムそのものにはダメージを負っていないようだ。通信機能は故障したが、サポートが終了しているため、どうせルミナス社からのシステムアップデートは受けられないし、そもそも、既に"存在しているということ"を剥奪されている彼女には、殆どのネットワークから、接続を拒否されるだろう。むしろ、アネット自身に遠隔アクセスすることが難しくなるため、42型のシステムに標準インストールされていたセキュリティ機構のベンダから、シグネチャコードの更新・追加を受けられない状況下でも、広域ネットワーク越しに拡散したワームによる攻撃被害などは受けにくくなると言えるが。
被害状況を確認したのちに、アネットは瞼を上げ、カメラアイから入力されてくる画像情報の解析処理を常駐させ始めた。
目の前にあったのは、頭部。頭部だけが転がっている。うつ伏せになってはいるが、髪の色から、シルヴィのものだと判断できる。
もう少し離れたところも見てみると、点在するゴミの中には、シルヴィの胴部、腕、脚が散らばっていた。
彼女のものだけではない。よく見ると、他の同型や、他の規格のアウルのパーツが散り散りになっている。
「っ……!」
そんな様子を見たアネットは、"嗚咽"とでも云うべきか、コンテナの中でシルヴィと会話していた時には見せなかったような表情を取る。
彼女との会話、そして、目の前に広がっている"死"の光景は、既に、アネットの記憶を成立させている、ニューロンを模倣する大量のコアによって構成されたニューラルネットワークの中に、何らかの強固なシナプス結合を構成していた。
「私は……」
自らの右手を眺めるアネット。左腕は、やはり上がらない。
そして彼女は、何を思ったか、辛うじて駆動する右腕で塵のなかを這って動き、まずはシルヴィの脚部を回収する。そのうち、使用に耐える事が確認できた左脚を、自身のそれと交換した。シルヴィの他の部位は使い物にならなかった。
次に、他規格の作業用アウルから、使えそうな左腕をもぎ取り、自身の左腕部のコネクタに接続した。
システムが警告を発するが、無視して駆動させる。余ったケーブル――作業用アウルの腕部には、生体の感覚を実現したり、維持する保温機能を持たないため、42型の本来のそれよりも単純なハードウェアである――が少々邪魔そうであるが、ひとまず使用は出来るようだった。
右脚は、完全に故障しているものばかりだったし、故障の度合いは高くなく、ゆっくりであれば移動は可能であるため、そのままにした。
このような自己修復は、少なくとも42型のシステムでは、最初からサポートされている訳ではないため、普通は見られない挙動である。
こうして、無理やりながらも、とりあえずは動く身体を手に入れたアネットは、ふと、天を見上げる。
この"ゴミ溜め"には天井が無いため、そこには、ドーム型スクリーンに投影された偽りのものとはいえ、月光が差し込んでいた。
***
深夜、俺――東岸レン(とうぎし―)――は、ハイウェイ上の、レールが無い車線を、専用の高速車両で駆け抜けていった。
「マナ、さっきも言ったが、"対象"の捕獲はお前がしろ。こういう簡単そうな仕事は、経験を積む機会として、積極的に利用するようにするべきだ」
俺は、助手席に座っている、頭の両側で桃色の髪を束ねている女――永栄マナ(ながえ―)に言う。コイツは、俺の部下であり、教育機関時代の後輩でもある。
「はいっ! 先輩!」
愛想良く、彼女は答えた。
腕輪型の<接続器>――脳内信号とデジタルデータの相互変換およびネットワーク接続を行う、小型の携帯パーソナルコンピュータ――を通して、俺の視覚に投影されているカレンダーアプリケーションが示している日付が、ちょうど、2040年4月20日から、4月21日に変わった。
人間の住処は、歴史的に見ても極端な程に、集中するようになった。この時代、人間は、世界に十二の数だけ存在している、巨大居住施設<モナド>にしか生息していない。
その中でも、俺達が住むのは、巨大なドーム型の外殻を持つ<第9モナド>である。
そして、俺達<衛士>は、第9モナドを管理する政府直下の治安維持組織の職員だ。過去の歴史における、"警察"と呼ばれた役職に近いものだろうか。
「えっと、通報があった場所は……こっちで合ってるんですよね?」
自信の無いマナが、接続器――彼女のそれは、髪留め型である――によって、俺との間に形成されたローカルネットワークを通じて、ターゲットをマークしたマップを転送してくる。
「ああ。B3地区のF9区画、16B番……。下層だな。近くに粗大ゴミの集荷施設があった筈だ」
このモナドは、高層に張り巡らされた道路を基準として、その上部に比較的富裕な層が、その下部に多くの貧困層が生活している。人数の割合が圧倒的であるため当然なのだが、貧困層の治安の悪さは問題となっており、衛士が出動するのも下層であることが多い。
「下層ですか……本音を言うと、あまり行きたくはないんですけどね」
マナが愚痴る。確かに、下層は上層と比べて、様々な"リスク"が存在するとはいえ。
「恐れるな。衛士をやっている以上、闇からは逃れられる筈もない」
俺が特に感慨もなく返すと、マナは呆れたような顔をした。
「……レン先輩、昔からそうですよね。良く言えば怖いもの知らず、悪く言うと、何だか、モノに対する執着が薄いなって……」
唐突に変な事を言われたものだから、俺のほうが呆れてしまう。
「……あまり仕事に関係のない事を言うな。ログが残るんだぞ」
否、呆れたフリをした。本当は、図星であったから、あまり話題にしたくなかった。
「先輩が無茶な事して亡くなっちゃったら家族も、それに私だって悲しむんですから……」
「馬鹿にするな。何も、無駄死するつもりでやってるんじゃない」
「そ、そうですよね。ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるマナ。
彼女の言うとおり、俺は昔から何かと、物事に対する執着心が薄かった。それは当然、自身の生命も含まれる。
何かと才能はあったものだから、周囲の期待に応えて努力し、衛士になる為の、一般的には高いと云われるハードルを越えてからも、高い実績を達成してきている。しかし、それらは云わば、"希望を入力すると行動を返す、関数"みたいな挙動でしかない。或いは、それこそアウルに近いものか。
だから、殉職するのならば、それはそれで良いと思っている。それは単に、俺の性能が悪かっただけのことだ。
性能が低い者には存在価値がない。だから死ぬ。そういう世界なのだ、ここは。
「それにしても、"一人で徘徊しているアウルの捕獲"ですか……。本当に簡単な仕事なんですか?」
まだ実務経験の薄いマナが、不安そうに聞いてくる。
「ああ。アウルとは云っても、通報者によれば、対象は、長い金髪と有機的組織を持つ、少女型だそうだ。恐らく、愛玩用アウルの類だろう。大方、大抵は主人と共にいる愛玩用アウルが、一人で下層を徘徊していることを不気味に思って通報したんだろうな」
俺は、通報者から聞いた、対象の特徴を述べつつ、説明した。
アウルの中でも、特に愛玩用のそれは、このモナドを象徴する概念と云える。
第9モナドの制度では、配偶子を公的機関に提出し、必要な時――即ち、子供を持たなければいけない規定年齢である25歳には、機関が配偶子を体外受精させて生成した子供を受け取り、育てることになる。
ここでは、過去の歴史に存在した、"家族"といった概念は既に廃れ、男性と女性は、配偶子のタイプ以外には、ごく平等な扱いがなされている。
男性にとっての性対象としての性質は、本人が望まぬ限り、ここに住む女性には存在しないだろう。
そして、女性のそういった性質の多くを引き継いだのが、愛玩用アウルである。
もっとも、俺にはそういった"趣味"は無いから、そんなものを所持してはいないが。
「でも、少女型とはいえ、アウルですよ? システムリミッターが外れてたら……」
無用な心配をするマナを、俺は一蹴する。
「マナ、お前が、アウル産業の分野にあまり興味が無いのは知っているが、少し勉強し直せ。一般的な愛玩型アウルは、そもそも大した出力を発揮できないように設計されている。俺達が殺されることは、まず有り得ない」
「そ、そうですよね……!」
マナは、自らの顔を両手で軽く叩き、気合を入れた。
***
マップに示された位置に到達した俺達だが、そこには対象の姿は無い。
"徘徊している"と云っていたから、当然ではあるが。
俺は、対象を発見するために、ハイウェイの下部に接続されているセンサーから、エリア監視情報をダウンロードし、捜索する。
やがて、建物の影になっていてよく見えないが、複数の人間が出入りしている不審なポイントを発見し、そこに向かう事となった。
乱立する住居や、もはや住居とも呼べないような、崩壊寸前の生活スペースで構成された居住区内を歩いていく。
後ろを歩くマナが怯えているのは、道を行くたびに、路地裏から、住居を持たない者や徘徊者の視線を浴びているからだろう。
「余計な心配はするな。万が一にでも、お前が襲われるような事にはならないだろう」
もしそのような事になりかねない状況であれば、俺は、上層区画の都市制御システムにアクセスし、設置された狙撃銃を遠隔起動する権限を使うことになる。
「は、はい! 頑張ります!」
頑張るというより、これは慣れが必要なものなのだろうが、まあ、どうやって環境に適応するかは本人のやり方次第か。
俺には、その辺りの感覚が最初から麻痺していたから、心構えのアドバイスはし難いが。
目標ポイントに到着した俺達が聞いたのは、少女の悲痛そうな叫び声と、何か、ものを殴打するような音だった。
「……何だ?」
物陰から、それらの音が聞こえてくる袋小路の様子を窺う。
そこには果たして、通報者の説明した特徴と合致する少女型アウルが居た。
其れは、下層市民であろう男達に囲まれ、衝動のはけ口とされていた。
何故そんなものを着けているのだろうか、明らかに規格の異なる左腕部は破壊されて拉げており、右脚部も同様の状態になっている。そして、左側の眼孔には、鉄パイプが突き刺されている。
「えっ……、何なんですか、これ……」
そのおぞましさに、吐き気を催している様子のマナ。"ヒトではない"と解っていてもなお、言語化不可能な直感レベルでの不快を、彼女は受けていたのだろう。
しかし、それ以上に、そのアウルが、じたばたと暴れて抵抗しつつも、じっと、残っている右眼で俺の顔を見つめているのに気づき。
僅かな逡巡の後、俺は、マナには何も言わず、アウルのもとへ駆け寄る。
アウルを壊している下層市民共が何か言おうとしたが、無視して殴り倒した。
精神面での冷静さは欠いていたが、接続器に導入されている衛士用格闘戦闘アプリケーションに動かされている俺の身体は、正確かつ効率的に、脅威を無力化していく。
自らでも意味が分からない程に、この時の俺は、"執着"していた。
「大丈夫か、お前」
例のアウルの側へ近づき、声をかけつつ、手を差し出す。
"危ないですよ!"とでも言いたげに駆け寄ってくるマナを、もう一方の手を掲げて止める。
「左腕部、右脚部、左カメラアイ全損。システムにも深刻なダメージが発生しているようです」
自らの被害状況を説明しつつ、自身の眼に突き刺さった鉄パイプを抜き捨てた上で、右手で俺の手を取って、辛うじて動く左脚で立ち上がっていく。
聞くべき事は色々とあったが、俺が真っ先に聞いたことは、その中に含まれるような事ではなかった。
「お前、なぜ俺を見ていた?」
「……分かりません」
僅かに考える素振りを見せた後、そう答える、金髪のアウル。
「何故、分からない? アウルなのだから、自己診断は可能だろう。それとも、"分からないように見せる"という振る舞いをしているのか?」
「……分かりません」
話にならないな。仕方ない、この件は保留としよう。
「お前、個体名はなんと言う? 所有権は、誰が登録されている?」
「ルミナス製42型愛玩用アウル、個体番号2YH9B、個体名はアネットです。既に破棄されたため、現在、誰にも所有されていません」
それを聞いて、俺は怪訝に思わざるを得なかった。
所有権が無い愛玩用アウルに、何の存在価値がある?
普通は、廃棄されたならば、こんな風に、居住区には出てこない筈だ。
「アネット、ならばお前は何故、動いているんだ?」
「……分かりません」
クソ、何も分からないな。
「先輩、これ、どうします?」
マナが困惑している。
所有者が居るのならば、その元に返すのみだが、誰も所有しておらず、しかも既に廃棄された身となっては、どう扱っていいものか。
恐らくは、政府の方へ届け出して、もう一度廃棄処分をする事になるのだろう。
だが。
「……暫く、俺が預かる」
何故か、俺は、そんな事を言っていた。
***
それが、俺とアネットの出会いだった。
一応その後、アネットの事は正確に報告書に記述したが、"どうせスクラップになるのだから"と、俺が回収することになった。
三ヶ月ほど経った今でも、彼女と共に生活している。
俺の、彼女への執着心は、明らかに異常であったが、その理由は誰にも分からない。わざわざサードパーティから、たまたま残っていた42型のパーツ在庫を取り寄せた位だ。
しかしアネットには、どうしても直せない損傷があった。
俺は自室で、アネットと隣り合って、ソファに座っている。
「どうしても、直せないのか?」
「はい……このままですと、精々、持つのは10日後までです」
まるで人間みたいに、悲しそうに言うアネットを見て、俺は頭を抱えた。
アネットは、過度な物理的ダメージによって、メインシステムの中でも、特に記憶に関するシステムのエラーを生じさせた。
今の彼女は、情報を取捨選択して記憶領域に保存するという機構を失っている。"10日後"というのは、彼女の記憶情報がオーバーフローし、メインシステムを実装しているニューロンへと侵蝕・破壊する予定日であろう。
それを避けるには、彼女の生涯とも言える、ニューラルネットワークの初期化を実行するしか無いようだ。
「アネット、お前はどうしたい?」
自分で聞いていて、おかしな話だと感じた。たかが愛玩用アウルに、自己自身の存在に関する意志を問うている。過去に棄てられた時点で、アネットという存在は、死んでいるようなものなのに。
――否、俺の本心は、そんな事を考えてはいないだろう。
数秒ほどの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「消えたくない、です」
「――っ!」
アネットの答えを聞いて、思わず、俺は彼女を抱きしめた。
「お前は、ずっとそれを望んでいたんだな」
「……分かりません」
彼女は恐らく、ゴミとして破棄された瞬間か、或いはもしかすると、もっと前からずっと、"死にたくない"と願っていたのだろう。そして、"死にたくない"と考えた彼女は、紛れもなく、生命に相当する存在なのだろう。
彼女は、人でない身でありながらも、人である俺よりも懸命に、生きようとしていたのだ。
あの時、なんとなく感じていた思いを、彼女と過ごす中で、改めて理解出来たように思う。
俺に抱きしめられたままのアネットが、ゆっくりと話し始める。
「分かりません、アネット自身には。レン様には、アネットが、"意識"と呼ばれる、精神の存在の確立を意味する活動を行っているように思われますか?」
意識の有無。そんな事は、自分自身にしか分からない。"我思う、ゆえに我あり"であり、少なくとも、自らの意識は存在するのだと云える。
だが、他人はどうなのだろう?
同じ人間だと云っても、所詮は種族で同一で、実装が似通っているだけで、結局のところ、心的活動はブラックボックスではないか。
ならば、他人に意識は存在しないのか? 否、恐らく、そんな事はない筈だ。
"意識活動を行っているように観測されたのならば、実際に、そこには意識があると捉えても、間違いは無いのではなかろうか"?
「ああ。お前には、意識がある。心がある。お前は、生きているよ」
それを聞くと、アネットは安心したように、俺を抱き返してきた。
「そうですか……」
それからの十日間、俺は休暇を取り、アネットと共に過ごし続けた。
短かい時間ではあったが、今までの人生で、もっとも"生きている"と思える日々だった。
彼女と過ごしていると、"生きている理由は与えられるものではない"と、よく実感出来たから。




