”軍神”の隣に座りなさい
世界は常に発展し続ける。それは科学だけでなく、人間も同じである。
喧嘩、抗争、異種格闘、戦闘、戦争、隠密、暗殺。
磨かれた肉体を用いて戦う存在はいまなお多くおり、彼等を”超人”と称され異名を授かった。野蛮とも思われる戦闘をとる人間、芸術と讃えられる技を駆使する人間。様々な”超人”が世にいるわけだが、現在の『日本人最強の”超人”は誰か?』という問いに多くの超人や人間達は答える。
「”軍神”」
武功、来歴、実力、名声など。”超人”の世界では、その異名を知らない者はいない。
日本最強と謳われる存在は今………
「結婚したい」
木見潮 朱里咲。年齢は秘密。女性に失礼だ。
「早く光一。帰ってこないかなー」
「……木見潮さん。あの……マジで何してるんですか?」
「出雲。いつになったら、光一は帰ってくるんだ?私がアメリカに行って良いか?」
ここ、日本。鵜飼組と呼ばれる組織がここにいた。彼等の権力、暴力、資金力は日本を操作できると言われ、国内や国外に問わず暗躍を続ける組織。
現在、鵜飼組は新組長、天草試練の元。人材の確保に当たっているのだが、この組織の柱になれる逸材はそういなかった。他の組合などで視察も試みるが、多くが空振り。いきなりの即戦力は当然現れない。
思い切って、大規模な募集を始めた木見潮と出雲。
「私の”軍神”の名があればそれなりの”超人”は釣れるだろ。早く来ないかなー。婚約者」
「目的が違ってます。鵜飼組の戦力集めです!他国と比べれば暴力も、資金力も足りないんです!」
「私のファンセだって募集している!最低条件は、私が認める強者だ!」
「あなたが認める強い男とかそんなにいないし!日本にはまずいない!」
”軍神”
恐ろしい異名と武勲に似つかわしくないその姿だった。
年齢こそ秘密にさせてもらうが、少し暗い雰囲気を漂わせ、女性らしい非力な肉体。ボサボサでちょっと長めな茶髪。目はそこまで明るくはなく、ダークサイドに堕ちている。肌色は綺麗ではないが、弾力はある。女性用スーツの上からでも、気に入っている白衣をついつい着てしまう謎のファッションセンス。肉体派にはとても見えないが、何かを秘めているのは分かる。
そして、木見潮の外見における一言。女性としての魅力は……微妙。さすがに歳がある。
「殺されたいのか?ナレーター」
「誰に言ってるんですか?」
「まぁいい。あとは人が釣れるまでお茶でも飲んで待とう。持ってきてくれ、出雲」
「はいはい」
そう言って出雲は別室でお茶をとりに行く。
面接用に設けたこのビルには、鵜飼組の者は木見潮と出雲しかいなかった。主力を担う2人しかおらず、
ガチャァッ
「オラァ!”軍神”!6年前の恨みを晴らさせてもらうぞ!」
「俺達は鵜飼組を潰しに来たぞ!」
日本のいる鵜飼組と似た、暴力団組織からは討ち取る絶好のチャンスであった。
ご丁寧にネットに、『”軍神”様が直々に新人のチェックを行います。なお、力量次第では婚約者と認定』と書かれれば本気の武装でビルに突入する。
「はいはい、面接だ。みんな、私と同じように”座りなさい”」
「な、なめっ……」
「は?」
完全武装。なおかつ、木見潮と同類の超人達も目を疑って、勢いが止まってしまった。
たった一言。”座りなさい”という命令が、彼女ほど高次元であるのは異常。手に持った銃やサーベルなど役に立たないと伝える。力量の差を伝える。
「どうした座りなさい。面接が始まらない。不合格にされたいのか?」
誰もお前の婚約者になるつもりも、鵜飼組に加入する気もない。
しかし、”軍神”の圧倒的なパワーとテクニックに皆、膠着している。
「まさか、座れないというのか?」
頭がイカレたと思っている。なんで、この部屋の天井に椅子と机が突き刺さっているのか?そして、天井にある椅子に綺麗に座っている”軍神”がいた。
大地ってどっちだっけ?重力ってどっちだっけ?
なんやこの”超人”。
「木見潮さん、お茶持ってきました」
「ご苦労」
出雲も、天井をプルプルと震えつつ歩いてお茶を木見潮に手渡す。お茶の持ち方は当然、向きを気をつけて天井を向いている。こんな動作だけで汗を掻くだけで済んでいる出雲もまた恐ろしい。
「みなさんもお茶をどうですか?」
「待て、出雲。ロクに私の第一関門を突破できん奴等だ。お茶を零すだけだ」
「まぁそうですが、せっかく来たんですよ?可哀想ですよ」
「私達の拳を味わえば良いだろう。全員、不合格だ」
天井で行動できる”超人”が地上という場所へ足を着けた時、やってきた希望者達に拳の嵐が襲い掛かった。引鉄を握る余裕も、目で追える力量もなかった。襲撃をしていて返り討ちに合う図。これが日本を裏から操ってきた組織の人材達の力量。
鵜飼組の総戦力達の実力。
「また今度だ」
全滅に追いやった木見潮と出雲。勧告が通じない組織を壊滅させることでも貢献している。
「目的だった私の婚約者はまだ見つからないな」
「ハードルを下げたらどうです?」
木見潮の婚約者はきっといない。まずいない。