一番星 星の降る夜とスピードスター。
この土地には『星の降る夜』がある
その夜は決して外へ出てはいけない、と住民なら耳のタコになるほど聞かされるものだ。
とにかくその日の夜はびっくりするほど外から人気が消える。
電車もコンビニも自動販売機さえ止まる。
星の降る夜は、この田舎町をゴーストタウンへと変えるのだ。
『星が降る』の本当の意味を知る者は少ない。
『星』にはいろんな意味がある。
人気があって注目を集めている人を『星』。
犯人の事を隠語で『ホシ』。
相撲界で星は恋人のこと。金星は美人のことだ。
――以上の意味で、堅木淳が出会ったのは大金星かもしれない。
午前零時、みんなスヤスヤ眠る頃。
堅木は屋上で天体観測をしていた。
いや、勉強から逃げている真っ最中だった。
暗記で火照った頭を冷やすため、なんて理由を建て前に屋上で涼んでいた。
彼の最大の過ちは、屋上はすでに外であることに気付かないことだ。
そして幸運にもこの日がちょうど、星が降る夜だった。
外は静寂、星の輝きだけが支配する田舎の夜。
満天の星空、そこへ一筋の流れ星を見る。
流星が堅木に向かって飛んでくるところだった。
それが人間だと気づくのに、時間は要らなかった。
その恰好は、特撮映画「スター・ブラインド」に出てくるキャラクターのひとり。
『スピードスター』の仮面をした役者、アクターだったからだ。
その飛来物をみたとき、全身に電流が走った気がした。
アクターの青を基調にした身体は、青白い雷を帯びていたのだ。
神々しささえ感じる魅惑のフォーム、拍動とともに弾ける電流の火花。
まさに『雷神様』と呼ぶに相応しい。
そんな特撮界のスターによるアクションを前に、堅木は興奮していた。
しかし、注目される本人は特に気付くことなく堅木の方へ飛び、そして眼前を横切った。
スピードスターは堅木に気付いていない。
そして、これはおそらく無意識、なのだろう。
堅木淳の口から自然とある人物の名前がこぼれたのだ。
―――稲妻、さん?
すると、スピードスターが勢いよく彼を見た。
まるでいまの呼び声が聞こえたかのように、反応したのだ。
それも一瞬、仮面のスターは何事もなく飛び去っていった。
青白い雷を纏ったスピードスター。
彼女が見えなくなった後、堅木の身体は震えが止まらなかった。
マスクの上からでも中の人が誰なのか一目でわかってしまったからだ。
学校のスター。同級生。18歳。性別女。
物語の中心である少女・稲妻未来は、特撮界最速と謳われるスピードスターの正体だった。