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不意打ちの言葉

 愛してる。

この言葉の意味は、いくら奥手な私でも、聞きなれていない私でも、知っている。

つまりはまあ、そういう意味なのだ。

以前の、前世の私だったら、この言葉を聞いてどう思っただろうか。

きっと、今の私のように顔を真っ赤にして、その言葉を発した相手に戸惑いを抱きながらも、ときめいてしまっていただろう。

でも、今の私は違う。

生まれ変わった世界は、愛を囁く世界。

そんな日常的に使われる言葉をそうやすやすと信じられるほど、私は恋愛上手な人ではなかった。

私には彼の言葉を、信じることはできない。

いくら、そんな色っぽくて情熱的な顔をしても、そんなのいくらでも演じられると、疑ってしまう。

現に彼は、性格に表裏がある人だと、私は疑っているわけだから、そう思ってしまうのだ。

愛してるなんて言葉は、この愛の言葉が溢れる世界で、信じられるわけがない。



 熱を孕む彼の眼差しから何とか視線を逸らす。顔を逸らすと、絡められた手に力が入った。

やめてくれ!と、心の中で叫ぶも、実際に叫んでしまうのは彼にとって酷だ。

顔の赤みが消えないまま、顔が青ざめている気がする。

矛盾しているが、心境としてはそんなものだ。

黙り続ける私に待てなくなったのか、返事を催促するかのように、彼が私の名を呼んだ。

私は固まった声帯を何とか震わせて、かすれた小さい声で返事をした。

頭の中でどうしようと何度も呟く。

返事なんて今すぐ決められないし、その前に誰かに相談したい。

そもそも彼の言葉を信じられない自分がいるし、もう、どうしよう。


「あ、あの、あああいしてるって、友達としてじゃなく、その」

「異性として、だよ。ラピス、愛してる」


だから、そういう言葉をそう簡単に言わないでほしい。

言ったのは私じゃないのに、心臓が壊れそうなほどドキドキしている。


「ご・・・ごめんなさい。私、その」


私が拙いながらも、そう言い始めると、ジンはそれを遮って、私の手を痛いほど握りしめてきた。


「ラピス。返事は、もう少し考えてからで、いいよ。ラピスの言うとおり、これは大事な話だからね」


彼はそう言うと名残惜しそうに私の肌を撫でながら手を離し、席を立つ。

私はそれを呆けた顔で見ながら、立った彼を見上げた。

彼は微笑む。いつもの穏やかな微笑みだ。

さっきまでの、変に色っぽいジンの欠片はどこにも見当たらない。

そして、帰ろうと手をさしのばしてきた彼の手を、私はとった。



 家まで送られてしまった。

行きとは違って、帰りはずっとドキドキしたままだった。

家の前で、相変わらず赤みが引かない顔を俯けて、ジンと向き合う。

何か言った方がいいかと焦っていると、先にジンが言った。


「ラピス、顔を上げて、俺を見て」


その言葉に私は従うしかなくて、戸惑いながらも、ゆっくりと顔を上げる。

顔を上げた先には私を見つめるジンがいて、真摯に見つめる彼の眼差しが私の視線を絡め取った。

彼は手を伸ばし、私の頬に触れる。

びっくりして、体が震えた。


「ラピス。ラピスが恥ずかしがり屋だって、知ってる。だから、ラピスを困らせる気はなかったんだ。でも、普通の告白じゃ分かってくれなかったラピスが悪いんだよ?俺、結構緊張して言ったのに」


ふいに、彼が意地悪く笑うように、顔を歪める。

こういう瞬間が、彼の性格を疑わせる瞬間なのだ。

本当は、腹黒い人なんじゃないかって。

彼の指が、私の頬を撫でた。


「だから俺、もう我慢しないことにしたんだ。俺の気持ち、ありのまま伝えるって。ラピス。今日言った言葉は、俺の本当の言葉だから。だから、よく考えて、返事をしてね」


彼はそう言って、私から離れた。

私の体は固まったまま、微動だにしない。

ただ、もう体全体も赤いんじゃないかってくらい、体中が熱い。


「そうだな。返事は、三日後がいいかな。俺、明日からまた仕事で外出ちゃうから。よく考えてね、ラピス。愛してるよ」


彼はそう言って、私に爆弾を落とす。

やめてほしい。そういう、不意打ちの言葉は。

もう、どうしたらいいの。


「ラピスのこと、大切にするよ」


彼は最後まで愛を囁いて、帰って行った。

もう、来なくていいです。お腹一杯です。もうやめて。もう、耐えれない。

彼の姿が見えなくなっても、私はずっと家の前で突っ立っていた。

そうしてやっと、私は両手で顔を覆い隠し、潜めていた息を盛大に吐きだした。

そして、覆った手の、指の隙間から彼が去っていった方向を見て、また息を吐き出すのだ。

もうどうしよう、と。

ジンは真面目系S 独占欲強いです。でも、真面目なのでちゃんと順序を踏みます。

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