信じられない言葉
修正しました。
ジンの後に付いて行くと、公園に辿り着いた。
公園と言っても、この世界にはブランコや鉄棒というものはない。
あるのは残された切り株が数個。どちらかと言えば、広場である。
幼い頃はそれを踏み台にしたり、ごっこ遊びに使ったりしていた。
あの頃は大きかったのに、月の光に照らされるそれらは今ではひどく小さく見える。
静寂の中でそれらを一瞥した後、隣を歩く彼を見上げてみる。
思案顔で前を見ていた彼は、すぐにこちらの視線に気づいて私を見返し、そして唐突に立ち止まった。
私もつられて立ち止まって、お互いに向かい合う形になる。
こんな場所まで来て、一体何なのだろうか?
あまり人に聞かれたくない話しでもするのだろうか。
けれど、詳しいことを何も聞かずここまで来てしまった私も私だ。
なんて声をかけようか迷っていると、彼が口を開けた。
開けたが、また閉じた。
どことなく挙動不審な様子に、こちらまでぎごちなくなってくる。
そんなに言い辛いことなのだろうか。
そもそも、なんで私なんだろう。
ジンをじっと見つめていると、彼の方から視線を逸らされた。
・・・なんで、頬が赤くなってるの?
今日は満月の青い光に包まれているというのに、彼の頬は明らかに赤い。
戻された真剣な視線と、紅潮した顔。
私は、その表情を見たことがある。
前世でも、今世でも。
それは、『恋をしている』顔だった。
前世では、友達がしていた。
ちょっと大人びた、けれど子供っぽさも残った素直な反応で、友達は『恋をしていた』。
今世では、母がしている、父を見つめる母の表情。
母は父に『恋し続けている』。
でもなんで彼は、私にそんな表情を向けるんだろう?
まさか、と考える暇もなく、彼は熱っぽい顔で私を見つめて、告げた。
「ラピス。その、俺と、付き合って欲しいんだ。好き、なんだ」
要領を得ない彼の言葉。
頬を染めて、恥ずかしい時に自分の髪をなでる癖。
彼の真剣な眼差しは、最後にはまた逸らされてしまった。
・・・いや、勘違いはしない。大丈夫だ。分かっている。
以前、ジェーンに同じことを言われたことがある。
あの時は変に取り乱してしまって、ジェーンに呆れるほど笑われてしまった。
でも、もう同じ過ちは繰り返さない。
私は大きく息を吸い、笑みを浮かべる。
すると心なしか、ジンの表情も明るくなる。期待を含む視線も向けられる。
私は自信を持って、はきはきと答えた。
「分かったわ!今は遅いからどこも行けないけど、大事な幼馴染のお願いだもの。どこでも付き合うわ!」
私の考えは、こうである。
彼は仕事先で会った子に、恋をしている。
アプローチしたいが、プレゼントしようにも何がいいのかわからない。
でもアリッシアは学生だから忙しいし、ジェーンに恋愛相談なんてしたら今後のネタとして笑われてしまう。
だから、私のところに相談に来たのだ。
・・・なるほど。
前世ではよく恋の悩みとかを聞かされていたため、この記憶がとうとう役立つ時が来たかもしれない。
そうであれば、うれしいものだ。
嬉々として納得する私に対して、彼は何故か、先ほどまでの恋の表情も青ざめていた。
何はともあれ、友人が頼ってきてくれるというのは、嬉しいものである。
「詳しいことはまた今度ね。明日の午後からなら、時間作れると思うから。寒くなってきたから風邪引かないようにね。それじゃあ」
言いたいことを言って、私はその場を立ち去る。
嬉しさのあまりにやけながら、帰路を歩いた。