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誘いの言葉

修正しました。

この世界は平和だ。

滅多に争いなんて起きないし、物資も豊か。その上、教育もしっかりしている。

だから私の日常もまた、至って平穏なものだ。

友達はいるし、仕事場も自分が好きなことができるのだから、文句のつけようもない。

だから、もし問題があるとすれば、それは私自身なのだ。



 夕食を食べた後、ある人の訪問があった。

ドアのノック音に気付いた私は、珍しいと玄関へと向かう。

扉の隙間から入り込んだ冷風を我慢して開ければ、そこに立っていたのは幼馴染の一人である、ジンであった。

そう、朝に出会ったアリッシアとジェーン、そして今目の前に立っているジンは、私の幼馴染である。

月の光がはっきりと彼の姿を照らす。

そこで今夜は満月で、明るい夜であることを知った。


「こんばんは。どうしたの?ジン・・・月の光で髪がキラキラして、綺麗ね」


私の愛の言葉が変だと言われる一因として、私はよく人の髪を褒めてしまう。

他に言うことが思いつかないのだ。

ジンは私のその言葉に、あの二人と同じように、笑いを漏らした。


ジンは傭兵だ。

傭兵と言っても、ただの警備員のようなもので、大事な荷物を運ぶ際の警備と獣の討伐ぐらいしか仕事がないと、前にぼやいていた。

しかし、ジンの剣術はすごい。

ジンは幼い頃から剣術を習っていて、国で行われる剣術大会にも時々出場している。

もちろん国中の剣豪が集まってくるわけだから優勝は中々出来ないけれど、それでもいいところまでいっていると思う。

ただ、一度見に行った大会で私が何より驚いたのは、普段は温和なジンが、試合の間はまるで別人のようだったことだ。



それは幼馴染と行った試合観戦だった。

湧きあがる歓声、怒声、熱気。

それらすべてに気圧されつつも、汗を握って見守った試合だった。

リング内の彼はおびただしい汗を流し、険しい顔をして相手を睨んでいた。

普段からは想像できない動きや彼の声に、目と耳を疑った。

試合が終わって私たちの所に来た時にはいつもと変わらない笑顔だったけれど、私は落ち着かなかった。

普段とは全く違う、知らない姿を見せつけられて、本当は裏表がある人なんじゃないかと途端に信じられなくなってしまったのだ

けれど、一番の問題はその後に起きた。

アリッシアとジェーンが声をかける。


「ジンお疲れ!かっこよかったよ!素敵!」

「さすが!さすが俺の親友!すげーぜっ」


感嘆の言葉を掛ける彼らに対し、私は完全にタイミングを逃していた。

すっかり怯えてしまっていた私の脳は、いつも以上に働かなくなっていたのだ。

何か言わないと、と自分を追い詰めた結果、あまり考えずにポロリと。


「あの、ジ、ジン、すごかった。たくましかった」


たくましかった。

・・・何を言っているんだろう私は。

気付くと同時に、大きな笑い声が聞こえた。

見れば、アリッシアとジェーンが爆笑している。

ジンも、口を覆って耐えようとしているけど、笑っている。

その姿に、ああ、またやってしまったと項垂れた。

自分で変だと分かる言葉を言ってしまったことに、羞恥心で顔が真っ赤になりながら、体からは冷や汗が流れていく。

何も言えなくなってしまい、三人と同じように、笑うしかなかった。



 三人からすれば笑い話なのだろうが、私にとってはトラウマでしかない。

・・・いや、今はこんなことを思い出している場合じゃない。

蘇ってきた忌々しい記憶を頭を振って追い出し、気を取り直してこんな時間に家に訪れたジンと向き合う。

彼とはジェーンと同様に久しぶりの再会だった。

彼らは一度町から出てしまえば、数日は帰ってこない。

例え帰ってきても会うことも滅多にないのだ。

そんな珍しい彼の訪問に、首をかしげる。

何か大事な用事があるのか、それとも誰かに伝言でも頼まれたのだろうか。

ジンは優しく微笑んで私に告げた。


「こんばんは。久しぶりだな。ずっと会いたかったよ。・・・それで、いきなりで悪いが、少し、出掛けないか?二人で、話したいことがあるんだ」


思わぬ言葉に、私は眉をひそめる。

こんな時間に男性と二人で外に出るのは、あまり良いことではない。

しかし、相手は幼馴染の、しかも久しぶりに会った友人。

無下にすることもできず、私は仕方なく頷くと上着を取りに室内に戻った。



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