表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/46

自己嫌悪

 例えば、だ。

もしここが私の夢の中であったなら。

きっと私は眠たい目を擦りながら若干の驚きと共に、変な夢だったなぁと思うだけに違いない。

それっきりで、私はいつも通りの日常を、笑って過ごしていただろう。

愛の言葉を信じられなくなることも、孤独を感じることもなく。

今みたいに、駆け逃げることもなかっただろう。


それは、私が何度も望んだ、叶わぬ夢だった。



 今の自分の姿を、まるで子供の様だと思う。

息を切らし、人目もはばからず走り抜ける姿は、少なくとも大人とはかけ離れているように思えたから。

少なくとも、通算40年間は生きてきたはずなのに、何という様なのだろう。

聞き分けのない子供のように自分の主張を押し付けた結果が、子供のような逃走だ。

私はこんな私が大嫌いだった。

あれほど認めてもらいたかった自分なのに、醜い感情を無意識に抱いていた自分が嫌いだった。

私は、この感情を表す言葉を、今は思い出すことができない。

なにせ、逃げていることに必死だから、そんな余裕はなかったのだ。

息を切らしながら、ふと後ろに振り返ってみる。

この街は坂道が多い。その上、今は上り坂の途中だ。

普段の運動不足が祟って、体力の限界がきていた。

幸い、振り返った先に幼馴染の姿は見当たらなかった。

あの3人の中では一番足が遅いから、追いつかれないわけがないけれど。

もしかしたら、呆れて追いかけてこないのかもしれない。

それはそれでほっとするような、寂しいような。

息を切らしながら周りを見渡すと、驚いて見つめてくる、知らない男たちと女たちが目に入った。

今更その視線に居心地が悪くなって、さりげなく路地裏に逃げ込む。

そのまま薄暗い民家の間を歩きながら、どこに行こうか考える。

けれど、いくら考えて足掻こうとしても、頭の中ではどこかで分かっていた。

最後は、どこにも行けなくて帰るしかないのだと。

分かっているのに、逃げることしか、頭に浮かんでこない。

とりあえず、息を整えようと煉瓦の壁に手を付き、立ち止まって休憩を取る。

壁に窓があって、家の中から窓辺に赤い花が飾られているのが見えた。

その花の色に、ある人の髪色を思い出す。花のような赤色をしていた。そしてそのまま流れるように思い出される、彼女の声。

はきはきと物を言う、溌剌とした声。

素直な彼女の、眉を寄せた不機嫌そうな顔。つまらなそうな顔。

最後に見た、おかしそうに笑う、彼女の顔。


ダリア。


私、あなたみたいに、なれなかった。


素直に話したところで残るのは一時の快感と散々な結果。

本当の自分すら、好きになれない。


私、あなたになりたかった。


決して変われない自分に、大嫌いな自分に、涙が出て、止まらなくなってしまった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ