労りの言葉
裁縫の仕事は集中力が必要だ。
故に、どれくらいの時間が過ぎたかもわからないが、日が傾き、太陽が夕日になった頃。
固まった筋をほぐそうと思いっきり背伸びをしてしまった。
その様子を見て、店長でもあり学校の裁縫の先生でもあった少し小太りな、母と同じ齢の女性、ジュディが笑った。
「お疲れ様。今日も疲れたでしょう。もう終わりにしていいから、ゆっくりお休みなさい」
ジュディは露骨なまでの愛の言葉を使わない。彼女が使うのは慈愛の言葉だ。
私はジュディのそういうところが好きだった。
できたら彼女のようになりたいとさえ思う。
私は彼女の言葉に頷き返し、道具の片づけを始める。
最後にスカートに着いた糸くずを取り払い、シェルダーバックを担いだ。
そして店から出るとき、未だ縫物を続ける彼女に振り返り、
「お疲れ様でした。よき一日を」
といつものように告げる。
最後に付けた文は、儀礼的な言葉だ。
英語で言う『Have a good day』と同じようなものだと思っている。
彼女もいつものように「よき一日を」と返す。
そうして静かに扉を閉め、帰り道につくと空を仰いだ。
秋が近づいているため、既に薄暗くなっている。
赤と青が対立する空を眺めながら、私は来た時と同じように急ぐことにした
家の中は暖かかった。思っていたよりも、外は冷えていたらしい。
リビングに入ると、母が台所に立って鍋をかき回している。
私に気付いた母が、振り向いてほほ笑んだ。
「お帰りなさい。今日はシチューよ。たくさん食べてね」
私も笑い返して、
「ただいま。とても、おいしそう。・・・早く食べたいな」
と、また下手な言葉で返す。
普通だったら「お母さんが作る料理はなんでもおいしいから楽しみ」とでも言うのだろうか。
言ってから気付くのだから、達が悪い。
どの言葉が一番いいかなんて、私には全く分からない。
だから、今日も拙い言葉を言って、笑われた。
それが辛いだなんて、誰にも言えない。
短くてすいません。シリアスタグ入れてきます。
愛の言葉=好意を感じられる言葉 程度に見てください
修正しました。