挨拶の言葉
淡々としています。説明ばかりですいません。
修正しました。
私が幼かった頃は、素直に言えたのだ。
子供なりの愛情表現だと思っていたから。
けれど、歳をとるにつれて、男と女の違いが出てくるようになって。
そして子供なりの愛情表現をする必要が無くなってしまった時、私は『前の私』に戻ってしまった。
それでも、愛を伝えることは挨拶と同じぐらい普通のことで。
だからそれを恥ずかしがる人なんて珍しいのだろう。
幼馴染のジェーンなんかは、道端での偶然の再会に驚く私を嫌味らしく、ニヤニヤと笑って馬鹿にするのだ。
「お前、もうちょっとはっきりしゃべれよ。そういうとこもかわいいけどさ」
かわいい?馬鹿にしてる、の間違いじゃないだろうか。
少し早口に言って愛の言葉を誤魔化そうとしたのがばれたのだろう。
オレンジ色の髪を持つ彼は、そう言って嘲笑していた。
友達の間では私が『異常なほどの恥ずかしがり屋』だと知られている。
だからジェーンは時々こうやって、思い出したかのように私をからかってくる。
けれど、そんな彼に反論できない私も私だ。
どんな言葉を考えても変だと笑い飛ばされそうで、言葉が浮かんでこないのだ。
黙って立ちすくんでいると、アリッシアがやって来た。
私とアリッシア、ジェーン、それにここにはいないがもう一人。彼らは私の幼馴染だ。
アリッシアは二つに結んだ赤い髪を揺らし、うれしそうに笑みを浮かべていた。
「二人ともおはよう!朝から出会えるなんて、本当うれしいわ!」
・・・そう、こんな感じなのだ。
オーバーリアクションを取るのが礼儀でもあり、普通なのだ。
「おはようアリッシア。・・・今日も赤い髪がきれいだね」
「おはよう。俺も会えてうれしいぜ」
私の愛の言葉は、少し“ずれている”らしい。
私なりに考え抜いたつもりなのに、何度か笑われたことがある。
その度心外だと内心憤るのだが、同時に、そういう言葉を考える才能がないことも身に染みて分かってしまい、悲しくもあった。
しかし、幼馴染たちはそんな私に慣れているのだろう。
何も言うことなく、話を繋げていく。
「ラピスとここで偶然会ったんだ。アリッシアはこれからどこに行くんだ?丁度暇だったし、付いてくぜ」
二人の会話を黙って聞きながら、私は二人の横顔をじっと見つめていた。
実はジェーンとアリッシアは、美男美女なのだ。
それも二人に限ったことではない。
この世界の人はいやに綺麗な人が多い。
快活の中にどこか艶があって、落ち着きの中にどこか色っぽさを感じさせる。
そんな人達、いわばフェロモン丸出しの人が多く、ついつい見とれてしまうことがある。
私が二人を観賞している間、会話はどんどん進んでいく。
どうやらアリッシアはこれからアルバイトに行くそうだ。
アリッシアは頭がいいから、更に上の学校に通っている。
だから、学費の足しにするために、バイトをしているのだ。
私は義務教育の学校を出た後、裁縫の仕事に就いた。
裁縫をしている間は話す必要もなく、一つのことに集中していればいいので落ち着くのだ。
かくゆう私もこれから仕事に向かう途中だった。
今はその途中で運搬業をしているジェーンとたまたま会い、そこにアリッシアが通りかかった、という状態だったのだ。
「またね、ラピス。大好きよ」
アリッシアのいつもの別れ文句。
私もそれに倣って、同じ言葉を返す。
「じゃあね、ジェーン、アリッシア。二人とも大好きだよ」
二人が笑いを漏らす。
それを見たくなくて、サッと視線を逸らし、そしてその場から逃げるように、足早で仕事場に向かった。