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食べ過ぎ注意

 どこかも分からない人ごみの中で、私はジェーンの後を必死に追いかけていた。

ジェーンは私のことなんてまるで気にしていないようで、ちっとも振り返ったりしない。私は半泣きになりながらも必死に追いかけた。

だって、こんなところで離れたら迷子になることは確実だ。

そして後で散々馬鹿にされるのも。

息を荒上げながら、加減してくれないジェーンの後を付いていってどれぐらい経っただろうか。

何度も掴まりたいと感じていた彼の背中がやっと移動をやめた。

彼の前には一枚の扉。

それを見て、ようやく着いたのかと、彼の後ろで立ち止まり呼吸を整える。

彼は扉を2回ノックすると、中から聞き覚えのある声が返ってきた。

ジェーンは扉を開け、私も一緒にその中へと入って行った。



 中に入ると、ジンが立っていた。

木製の長椅子に先ほどまで着ていた鎧が置かれている。

ラフな格好に着替えたジンはタオルで顔を拭いていた。

そして、そのタオルを鎧の上に置き、こちらを向く。

鎧で暑かったのか、ジンの顔は赤く染まっていた。

けれどその表情はとても晴れびやかだ。

ジェーンはすぐにジンへ駆け寄るとその肩に腕をまわした。


「すっげーよ!ジン!お前、また強くなったんじゃねぇの!」


ああ、デジャブ。

ジンは素直に褒められるのが照れくさいのか「そんなことないよ。まだまだ」とはにかむ。

そして、ちらり、とこちらを見た気がした。

気がしたのは、ジンがすぐに視線をそらしてしまったからなのか、それともその隣でジェーンの憎らしい含み笑いがこちらに向けられていて気が削がれたからか。

私はぶすっとして、ジェーンを睨み返す。

言いたいことは、嫌というほど分かっていた。

けれど、それをわざわざ言うつもりもない。


「・・・・何?」


「いや、お前からも一言ねーのかなぁって。ほら、ジンの戦っているとこ、ちゃんと見てただろ?」


そのニヤニヤするのをやめてほしい。

うんざりする。


「・・・ジン。試合お疲れ様。ジェーンの言うとおり本当に強くなったね!すごかったよ」


アリッシアだったら「私感動しちゃった!」ぐらいは言うかもしれない。

けれど、私の性格ではそこまで言えない。

だから愛の言葉が下手なのかも、と思いながら、ジンにニコリと笑いかけた。

ジンも同じように笑い返して、「あ、ありがと」とまた照れくさそうに言った。

私にあんな言葉を言っておいて、こんなことで照れるなんて。

ジンは褒められ下手なのだろうか。

それに少し変な感覚を覚えていると、横に立つジェーンが途端につまんなそうな視線を投げてきた。

どうやら彼の期待には沿えなかったみたいだ。

元から沿うつもりもなかったが。

内心そんな彼に満足していると、ジェーンはジンに言う。


「今日、もう試合ないだろ?時間も遅くなっちまったけど、これから飯食い行こうぜ!とりあえず、一勝祝いだ!」


その言葉に、私も賛成する。

時間的に夕飯も兼ねて食べればいいだろう。

ああでも、宿屋では確か夕飯も出たはずだ。

一度、宿屋の女将さんに断っておいた方がいいかもしれない。

私がそのことを伝えると、一度宿屋に戻ることになった。



 私が女将さんに伝えに行っている間、ジンとジェーンはご飯処を探しに行った。

大会が開催されている間は、この街は人で溢れ返る。

当然、外食する人が多く、ご飯処は人でいっぱいになる。

まぁ、大きな街だからどこか空いている店もあるはずだが、それが街の端っこだったりして遠いことが多い。

だから、人が少なそうな時間を見計らってご飯を食べることが一番楽だと、今までの経験で知っていた。

幸い、まだ試合が続いているため、人はそれほどいないようで、店は意外と近くで見つかったようだ。

ジェーンが店内で席を取って待っているようで、ジンが宿屋で待つ私を迎えに来た。

そして、またはぐれないように必死になりながら、ジンと二人でジェーンが待つ店へと向かった。



 二人が見つけ出した店は肉がメインの店だった。

ジェーンが「ガッツリ食えるとこがいい」と言ったのがきっかけだったようで、ジェーンが余裕で食べられる量でも、すぐにお腹いっぱいになってしまった。

早々とお腹が一杯になってしまった私は、ジェーンとジンの話を聞きながら、相槌を打ち、ときどきサラダに手を伸ばしていた。

しかし、そんなことをしていたら、店を出る時になって私のお腹は痛いほどいっぱいで、歩くのも辛くなっていた。

食べすぎた。そう気づいても後の祭り。

帰り道、時々「うぅ」と呻きながら、みっともなくお腹を摩って歩くしかなかった。

そんな私に二人は心配そうな視線を投げかけるが、こればかりは時間が解決してくれる。いや、むしろ時間で解決できるものなのだからと私はひたすら耐えて、二人に気にしないように言った。

そんな感じに宿屋に戻った私は、結局一人部屋に着いてもしばらく眠ることもできず、ひたすらに苦しみと戦うこととなった。

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