表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限の世界  作者: 蒼風
五章「別れの果てに」
95/240

五章一話「発見」(5)

「いや~。悪いね~。無理矢理手伝わしちゃって」

「申し訳ございませんでした」


 そう言って頭を下げる医者と看護師。


「いえ、お気になさらずに」

「そうそう。私達としても何かしらの力に慣れて嬉しかったですし」

「リアさんの言う通りです」


 そんな彼らの謝罪に刀弥とリア、ネレスは笑みを見せながらそう返した。


「全く、君は見ず知らずの人を手伝いにかり出すなんて……」

「すみません。荷物が多くて、つい……」


 ついで他人を手伝わすのかと思わずそんな思考が頭に浮かぶ刀弥だが、もちろん口には出さない。

 ともかく刀弥達はお手伝いという立場から解放された。


「それにしても大変そうですね。皆忙しそうに動きまわってますし」

「ええ、全くです。この診療所の収容人数を大幅に超える怪我人が出るなんて思いもしませんでした」

「それは同意見だよ。街といってもここは比較的に小規模だし平穏な場所だったからね。まさかこんな事件が起こるなんて誰が想像するもんか」

「あったとしても、せいぜい屋敷に盗人が入るかドルネが集団リンチを受けるかのどちらかだと思ってましたし」


 屋敷の襲撃よりもマシだが、それでも中々エグい事を言っている。その事に刀弥は苦笑しつつ、一体ドルネという人物は何をやらかしたのかと内心疑問を浮かべていた。


「まあ、それはいいか。それより薬を収めよう」

「あ、はい。わかりました」


 そうして荷物に入っていた薬を傍にある棚に収めようとする医者と看護師。


「あ、手伝います」

「ここまで来たら最後まで付き合います」

「そうですね」


 そんな彼らに刀弥達はそう申し出すと、すぐさま彼らの作業を手伝い始めた。

 医者の指示に従い薬を丁寧に棚に収めていく刀弥達。人数も多いこともあるのだろう。あっという間に棚は薬で埋まっていった。けれども、たった一箇所だけ薬が置かれていない場所が残っている。


「そこの埋まらない棚は?」


 それが気になり刀弥はそこに視線を向けながら問い掛けた。

 彼の問いに医者が答える。


「品切れの薬だよ。今回の納品でも手に入らなくてね。だから、空きのままなのさ。できれば確保したいところなんだけどね」

「作るだけならここでもできない事はないんですけど、問題は材料の入手が……」


 と、そこまで言いかけて看護師が刀弥達の方をじっと見つめた。

 それにつられて医者も刀弥達の方を見る。けれど、やがて何かを思いついたのか医者の瞳に輝きが生まれた。


「そうか!! その手があった!!」

「え? え?」


 突然の大声にびっくりするリア。それはネレスも同様だ。

 しかし、刀弥だけは先程の話の内容から何が言いたいのか理解できた。なので、彼は必要な事項を尋ね始める。


「……それで材料はどこにあるんだ?」


 こうして刀弥とリアは薬の材料を取りに出掛けることになったのであった。



      ――――――――――――****―――――――――――



「……狭いね」

「まあ、坑道だからな」


 光を照らす魔術を使いながら先頭を歩くリアに刀弥はそう頷く。


 現在、二人は鉱山跡の坑道にいた。薬の材料が坑道内に生える苔だったためである。

 この苔は洞窟、それも光の届かない程の奥にしか生えないそうだ。街の付近で条件に合致する場所はこの鉱山のみ。そのため苔を手に入れようと思ったらこの鉱山に来るしかないのである。

 しかし、廃棄され人が来なくなった鉱山は現在凶暴な獣が巣として活用しているという話だった。故に苔を取りにいくにはその獣を撃退出来るだけの実力が必要となるわけだ。


「でも、凶暴な獣がいるなら確かに私達の出番だね」

「そういう事だな」


 そんな会話をしながら歩く二人。だが、会話をしながらも常に二人は周囲は警戒していた。

 ここに巣を作っている獣は『ボアメイル』。固い皮膚を持つ獣だという話だ。それだけなら以前戦ったことのあるロックスネークと同じだがこの獣、特異な習性として鉱物を食べることができるらしく、そのせいで皮膚部分に鉱物の物質が集まりそれが鎧替わりになってるそうだ。ちなみに皮膚の性質は食べている鉱物によって変わるので所変われば皮膚も変わるとの事だ。

 なんとも変わった生物だと医者から説明を聞いた時、刀弥はふとそう思った。

 そういう事で二人はそのボアメイルを警戒しながら坑道を奥へ奥へと進んでいく。

 坑道のため所々にランタンが置かれているが廃棄されて随分と時が経っているせいか、

地面に落下していたりガラス部分が割れていたりと壊れているものが多々あった。

 ここのランプは電源から電気の供給を受けて点灯するタイプだそうだ。電源は廃棄された時に別の場所で使うために既に取り外されてここにはないと聞いている。

 そんな医者からの説明を思い返しながら坑道の最奥を目指す刀弥達。

 やがて、彼らは大きな分かれ道に差し掛かった。

 右と左に別れた坑道。しかし、迷う必要はない。


「リア、どっちだ?」

「えっと……こっち」


 医者から渡された地図を眺めながら左方向を指差すリア。そうして二人は左側の坑道へと入っていく。

 少し進むと道は下り坂になっていた。そんな道を二人は歩を進ませ暗闇の奥へと向かっていく。

 そうしてその後も分かれ道には何度も差し掛かった。

 基本、地図があるので迷う必要はないが、時折道が崩れている時などは目的地にいけそうな別ルートを確認しそれからその分かれ道まで戻ったりもした。

 そんな事を繰り返していること数回。遂にそれはやってきた。


「?」


 ふと、妙な物音が聞こえ二人は足を止める。

 音の方角は正面。どんどん音が大きくなっていることから音の主がこちらに近づいてきているのがすぐにわかった。


「ボアメイルかな?」

「ここにはそれ以外はいないんだろう?」


 そう言い合いながら身構える両者。その間にも音は大きくなっていく。

 そうして音とともに地響きを感じられるようになった頃、それは姿を見せた。

 だが、その姿を見た途端、二人の顔が青ざめる。そして次の瞬間にはボアメイルに背を向け急いできた道を戻り始めた。ボアメイルの姿に問題があったためだ。

 見た瞬間固いと思わせるほどの艶と深い色を持つ漆黒。赤く光る眼はまるで血を求める凶暴な生き物と錯覚させるほどに鋭い。そしてその姿は猪によく似ている。

 けれども、一番の問題はサイズだ。なんと坑道の横幅と同じくらいの巨体がこちらに向かって全力で疾走してきているのだ。その姿を間近で見れば誰だって逃げ出すに決まっている。なにせ避けようがないのだから。

 坑道のせいで左右は壁、向こうは巨体なので潜り込める隙間などほとんどない。

 加えてそれだけの大質量が全力疾走でやってくるのだ。普通の防御などでは意味を成さないのは目に見えて明らかだった。


「くそ!! 場所が悪すぎだ!!」


 悪態をつきながら全力で走る刀弥。その後をリアが必死に追いかけてくる。

 避けれる場所がない以上、速さは意味を成さない。と、なれば後は逃げるしかない。

 しかし、問題はリアだ。彼女は別に刀弥のように脚が速いわけではない。必然、刀弥が全力で走れば二人の距離は開いていく。

 それでもリアがボアメイルから逃げ切れるのであれば問題はないのだが、振り返って見るに両者の間は徐々に狭まってきている。このままではボアメイルの巨体に飲まれるのも時間の問題だ。

 思考は数秒。それで結論を出すと刀弥はすぐさま減速しリアと並んだ。


「悪い」

「え? きゃあ!?」


 リアの悲鳴が耳の近くから発せられる。理由は簡単、刀弥がリアを抱きかかえたからだ。

 思ったよりも軽い彼女の体に少し驚きながらも刀弥は再び速度を上げていく。

 上がっていく速度、それに振り落とされないようにとリアもまた刀弥に身を寄せていった。

 背後、追い掛けてくる漆黒の獣は未だスピードを落とす素振りも見せていない。現在位置が左カーブの上り坂ということもあってか右壁をガリガリと削りながら咆哮をあげ追い掛けてくる。


「しつこいな」


 そんな獣に刀弥はそんな感想をこぼす。けれど、内心では少し焦りを感じていた。

 全力疾走を開始してからかなりの時間が経過している。そのため速度を維持し続けるのが厳しくなってきているのだ。

 全力疾走とは言わば短距離走の走りだ。速度はあるがそれを維持できる時間は短い。

 足腰を鍛えていた刀弥だからこそ全力疾走でもかなりの時間走り続けることができていたが、それももう時期で限界に到着だ。一気に速度は落ち、いずれはボアメイルに追いつかれてしまう。

 どうすると自問する刀弥。

 と、そんな彼の耳に口にしなかった問いの応えが返ってきた。


「任せて」


 その直後、刀弥の周囲に火球がいくつも現れる。

 現れた火球は次の瞬間には暴走する猪へと殺到、リアの魔術による攻撃だと刀弥が認識する頃にはいくつもの爆発が坑道内に響き渡った。


「さすがに走りながらだと集中しきれないから無理だけど、刀弥のおかげで魔術(こっち)の作業に集中できるからね。これくらいのことはできるよ」


 彼の見つめる先、至近距離に得意げなリアの笑みがある。緩やかに細められた瑠璃色の瞳、綺麗にカーブを描く唇、そして透き通るような肌。否が応にも彼女の顔を間近で見ることになった。

 けれども、リアの顔ばかりを堪能しているわけにも行かない。刀弥の後ろ、後方からは未だに地響きの音が続いているからだ。それはつまり、追いかけているものはまだ足を止めていないということを意味している。


「やっぱり、あれじゃあ倒せないか」


 リアもそれくらいは予想していたのだろう。紡がれた言葉からは落胆の色は感じられなかった。


「さて、どうするか」


 あれだけ頑丈そうな皮膚だ。仮に足を止め刀を振るったところで仕留めるのは難しいだろう。もっとも仮に倒せたとしても慣性によって巨大な死体に押し潰されてしまうのが落ちだが。

 理想は相手の背後に回ること。あれだけ坑道いっぱいの巨体なのだ後ろに振り返ることなどまず不可能だろう。

 ただ問題はその背後にどうやって回るかだ。ほぼ隙間のない巨体のせいで横から通り抜けるのはまず不可能。残る方法としては別の道から回りこむくらいだが、追いかけられている現状ではそれもまず望み薄だ。

 と、そうこうしているうちに二人は分かれ道のところまで戻ってくる。

 ややT字型の道。右部分が刀弥達の通路で下部分が最初に来た道だ。

 チラリと刀弥はリアの方を見ると、リアもまた刀弥の方を見返していた。

 そうして互いに頷き合えば、打ち合わせは完了。T字路に入った瞬間、刀弥はリアを左の通路へと放り出し、自分はそのまま正面の通路へと向かって走り出した。

 予想通り後ろにいるボアメイルは楽に終える刀弥の方を追いかけてくる。

 そうしてボアメイルがT字路を通り過ぎた瞬間、リアが通路から飛び出し雷撃の魔術を放った。

 突然の雷撃を受け体を痺れさすボアメイル。バランスを崩し坑道を滑るように膝をついた。

 それを見て刀弥は反転、一気にボアメイルへと接近する。

 向こうはまだ完全に止まっていない。だからこそ、その勢いを利用することができる。

 やや下から上へと向かうような軌道の突きを放つ刀弥。狙うのはボアメイルの瞳。理由はそこならば皮膚の硬度など関係ないからだ

 膝をついている相手は避ける術を持たない。

 そうして刀の刃は寸分違わずボアメイルの赤の瞳を刺し貫いた。

 瞳を貫いた刃はそのままボアメイルの脳天へと到達しあらゆる機能を破壊していく。

 傾く巨体。壁にぶつかる時に一際大きな音が辺りに響く。

 パラパラと落ちる天井の破片。けれども、刀弥もリアも相手を見据えたまま構えを解かない。

 結局、二人が構えを解いたのはボアメイルが全く動かないことを確認し終えた後の事だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拍手もらえたらやっぱり嬉しいです。
ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ