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無限の世界  作者: 蒼風
短章四章~五章「立ち向かう心」
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短章四~五「立ち向かう心」(10)

短章ようやく終了です。

予想より長くなってしまいました。

 いくつもの生き物が縄を引いている。その種類は様々だ。

 哺乳類と思わしきものから爬虫類と推測できるもの、果てはそのどちらでもなさそうな生き物までいる。

 大体は人より少し大きな生き物が多い。恐らくその多くは人を乗せるために飼われている生き物なのだろう。

 そんな生き物達が引く縄の先にあるのはとてつもなく大きな台の上に乗った巨大な二体のグーバラだ。

 縄の一部はグーバラの部位に結ばれているが、ほとんどの縄はグーバラに刺さった杭に結ばれている。杭はしっかりと刺さっているのか縄が張っている状態にも関わらずしっかりと刺さっていた。


 そんな光景を刀弥とリアはルセニアやレンと共に彼らの遥か前方で眺めている。


「なんというか。なかなか壮観だな」

「だね」


 刀弥の言葉に相槌を打つリア。

 実際、これだけの数でものを引くという光景は刀弥にしてみれば初めて見る光景だ。

 引く対象が巨大なものというのもあるだろう。実際、刀弥の感動の一部もその絵から来ている。けれども、何よりも一番感動したのはその巨大なものを圧倒的な数で引くという壮絶さだ。元の世界ではまず見ることのできない光景である。


「いつもこうやって運んでるのか? ルセニア」

「ええ、そうよ。もっとも、二体同時は今回が始めてだけどね」


 そう言いながら背後を振り返るルセニア。それにつられて一同も再び後ろへと目を向けた。


「これなら今夜は今まで以上に豪勢になりそうね」

「……豪勢?」


 ルセニアの言葉に刀弥は首を傾げる。何が豪勢になるのかわからなかったからだ。

 それはリアやレンも同じだったらしい。二人共刀弥と同じように首を傾げていた。

 そんな彼らを見てルセニアは笑みをこぼす。


「ふふふ……それは帰ってからのお楽しみってことで」

「ルセニアがそう言うとなんか嫌な予感しかしないよね」


 彼女の答えに少し嫌そうな顔を浮かべるレン。短い付き合いだがそれなりに彼女の事を把握したようだ。


「ちょっと、失礼ね~。今回はいい方なんだから」

「それって普段は悪い方って言ってるようなものじゃないかな?」


 レンの反応にすかさずルセニアが反論する。けれども、その直後今度はリアからツッコミが入ってしまった。


「う……」


 彼女の突っ込みに言葉を詰まらせるルセニア。

 そんな彼女の反応に一同は笑い声を漏らした。

 そんな事をしているうちに彼らは村に辿り着く。

 村に着いてみると村の人間たちは何やら準備をしている最中だった。

 いくつもある巨大な鍋にはいろいろな具材が煮られており、そこから美味しい匂いが漂ってくる。

 それで刀弥達は先程のルセニアの言葉の意味を理解した。

 つまり、今からグーバラの肉を使ってパーティーをするつもりらしい。


「毎回、グーバラ退治をして死体をゲットできたらやってることなの。特に今回は二体だからね。肉の量も二倍よ!!」


 二倍という言葉を強調して叫ぶルセニア。どうやら豪勢な料理が食べられるということでテンションが高まっているようだ。


「おお!! 肉か!! それはいいなー」


 それに応じるようにレンもまた気分を高揚させていく。

 見ていて少し不安になってしまうが、こちらに被害がこない内は放っておいてもいいだろう。

 と、いうことで刀弥とリアははグーバラをどうばらすのかを見学するためにグーバラの死体の方へと行くことにした。

 グーバラの方へと言ってみると丁度良く死体をばらしているところだった。

 ばらし方は部位によって様々で大きな刃物で骨ごと切り取るところもあれば、中くらいの刃物で中味を少しずつ切り取る部分もあった。中には風の魔術を使って切っているところもあるようだ。

 作業している村の人達の動きは手馴れていて、二つの巨大な死体は幾許かもしないうちに骨だけの存在となった。

 切り取った肉はそれぞれ手頃の大きさに切り分けられ一部は大鍋に放り込まれる。残りはというと村にある大きな蔵へと運ばれていった。恐らくそこで残りの肉は保管し何かの時に使うか売るのだろう。

 そうこうしているうちに大鍋に入った肉が美味しそうな色へと変わっていく。グツグツと音を立てながら匂いを漂わせる鍋。いつの間にやら傍にはレンやルセニアの姿もあった。


「一体、いつ来たんだ?」

「ついさっき。どう? 何か言いたいことはある?」


 ウインクを送りながら尋ねるルセニア。すると、そんな彼女の問い掛けにレンが応じる。


「うまそうじゃん。いつになったら食えるんだ?」

「もう少ししたらってところじゃないかしら。あ、ほら、今盛り付けを始めてるでしょ」


 確かに彼女の言う通り大鍋の傍では皿が運ばれそこに具が盛られ始めていた。

 それに合わせて退治に参加していた人達も次第にその場に集まり始める。

 彼らは皿に鍋の中身が盛られている事に気が付くと、次々とそれぞれの大鍋の元へと歩みを進めていた。


「それじゃあ、あたい達も行こうか」


 彼女の言葉に反対する理由はない。一同は同時に頷く。

 そうして刀弥達も列に並び大鍋の中身が入った皿を受け取ったのだった。


 まず最初に口にしたのはスープ。グーバラの肉とその他の具材の味がしっかりと染みだし混ざり合ったスープは辛さと苦味が丁度いいバランスで出ており、それが舌を刺激し空腹を訴える体の食欲を増大させていく。

 その欲求に従うように刀弥は次にグーバラの肉を口にした。

 柔らかい。けれども、しっかりとした食感に肉の隙間から溢れ出すスープ。それらが舌を楽しませる。

 それが気に入りもう一口グーバラの肉を口に運んだ。そうして再び味と食感を楽しむ。

 それはリア達も同じようだ。美味しそうな表情を浮かべながらグーバラの肉を食べている様子が今の場所からでも見える。レンに至ってはパクパクと次々と口に放り込んでいる有様だ。

 そんな様子を眺めながら刀弥も食事を進める。無論、皿の中が空になるのにそれ程時間は要さなかった。

 一杯では物足りずおかわりをする刀弥。

 彼のような人物は多数おり結構な人数が各鍋でおかわりをしていた。ちなみにレンは既に5杯目に突入している。

 そうやって騒がしい夕食を過ごしていた時だった。


「見つけたぞ。少年」


 突然、聞き覚える声が背後から聞こえてきた。

 それに反応して刀弥が振り返る。すると、そこにはウォードとルーゼス、セリーヌの姿があった。


「ウォードさん。怪我は大丈夫なんですか?」

「な~に、あの程度軽い軽い」

「よく言うわよ。ここに戻ってくるまで目も覚まさなかったくせに」


 体を振り回しながら答えるウォードに呆れるセリーヌ。

 彼女の手には二つの皿が持たれていた。ウォードの手に皿がないところを見ると片方は彼の分なのだろう。


「それは言わないのが約束だぞ」

「はいはい」


 振り返り文句を垂れるウォードだが、セリーヌはそれ聞き流す。

 それに苦笑する刀弥とリア。


「ねえ、この人達は?」


 そこにルセニアがチャンスとばかりに尋ねてきた。


「この人はウォードさん。隣の女性は彼の仲間のセリーヌさん。もう一人はルーゼスさん。昨日の夕食の時に知り合った」

「はじめてまして」


 刀弥が軽く紹介をすると、ウォードが何かを言う前にセリーヌが挨拶を口にする。

 言いそびれたウォードはセリーヌに抗議の視線を送るが、セリーヌはどこ吹く風とばかりに無視を決め込んでいた。


「よろしく。あたいはルセニア。こっちの槍っこがレン」

「やひっほひうな!!」


 変な呼び方をされ怒るレン。口に食べ物を含んでいた状態なので、当然何を言っているのか聞き取れない。けれども、僅かに漏れた発音から大体の見当はついていた。


「よろしくね~。後ろのおっさんは気にしないでいいから」

「おいおい、それはあんまりじゃないか?」

「……それで何か用があったんじゃないんですか?」


 このままでは話が脱線してしまう。そう考えた刀弥はとりあえず話を戻すことにした。

 彼の問い掛けに二人ははっとし本来の目的を思い出す。


「っと、そうだったそうだった。いや実は礼を言おうと思ってな」

「礼、ですか?」


 一瞬、何の礼だろうと思ってしまったが、すぐにグーバラとの戦いの事だと気が付いた。


「聞けば、気を失ったわしの代わりにグーバラの気を引いていたそうじゃないか。いやはや、かたじけないな」

「気にしないでください」


 そんな彼に刀弥は遠慮気味に返答を返す。


「しかし、威勢よく出た手前、気を失って囮役を他人に任せてしまうとは情けなくてな」

「全くだな」

「そうね」


 と、そこへルーゼスとセリーヌが追い打ちを掛けてきた。

 そのいいようにウォードは傷付いたようだ。

 恨みがましい目を向けた後、何も言わないままため息をついた。


「まあ、とにかくわしの代わりを努めてくれたのだ。とりあえず礼を言わせてくれ」

「えーと、まあそういうことでしたら」


 そんな彼らのやり取りに少しウォードに同情する刀弥。つい苦笑いが顔に出てしまう。


「それではな。わしはこれよりあっちでやっている大食い勝負に参戦するので」

「な!? なにそれ!! 面白そう!! あたしもそれ参加する~」


 そうしてウォード達はそう言ってその場を後にした。その後をレンが食いながら追いかけていく。


「やれやれね。どれだけ食うつもりなんだか」


 そんな彼らを見送りながらルセニアが呆れる。既に両手に何を持っていないところを見るとどうやら食べ終えて食器は元の場所に戻したようだ。


「それじゃあ、私も村長のところへ挨拶に行ってくるから。後は適当にしていていいからね」


 そう言ってルセニアも去っていく。

 後に残ったのは刀弥とリアの二人だけ。


「一気に静かになったね」

「そうだな」


 先程までは偉い違いだ。

 そうして二人はただ黙ったまま周囲の光景を眺め続ける。


「そういえばまた無茶したよね?」


 しかし、突然リアがそんな事を言ってきたことで二人の静寂は唐突に終わりを告げたのだった。


「……生きて戻ってきたんだから問題ないだろ」


 それに刀弥はむっとした顔で答える。


「見てて本当にヒヤヒヤしたんだよ?」


 けれども、リアの不安そうな表情を見たことでその顔はすまなさそうなものへと変わってしまった。


「…………悪い。けど!! 放っておけなかったんだ。仕方ないだろ」


 後半やや自棄気味に叫ぶ刀弥。そんな彼を見てリアはやれやれといったため息を吐いていた。


「まあ、仕方ないかな。でも!! 心配したのは本当だからね」

「わかってる」


 これまでも散々言われているのだ。それくらいちゃんと刀弥は理解している。


「……それでこれからどうするんだ?」


 それから刀弥は新たな話題へと話を切り替えた。

 正直言って気恥ずかしいというのもあったが、依頼が終わった以上、次の行動について早々決めなければならない。そういった理由もあってこの話題を持ちだしたのだ。


「結構遠いけどこのまま北へ行ってそこにあるゲートで次の世界へ行こうかなって」

「なるほどな。なら、ルセニアには早めに伝えておかないといけないな」


 それなりにこの世界に慣れたとはいえ、さすがに砂漠の移動は不安が付きまとう。そのため、彼女の助力はどうしても必要だ。

 彼女が断る可能性を全く頭に入れていないが、その理由は彼女が断る図が全く想像できないからである。どう考えても彼女がその手の話を蹴るとはどうしても思えないのだ。


「ルセニアの都合もあるだろうから、明日は準備だろうな」

「だね。とりあえず今はこの騒ぎを楽しんどこうか」


 と言っても騒ぎに混ざる気はない。

 刀弥自身は疲れてるし、リアもそれ程の元気はない。しかし他の人の馬鹿騒ぎはただ眺めているだけでも十分楽しいものであった。

 遠く、騒ぎが一際大きな場所ではウォードが言っていた大食い勝負が行われている。何杯目かわからないが、騒ぎようから見てかなり白熱しているようだ。

 チャレンジャーは未だにかなりの人数が残っているようだった。その中にはウォードやレンの姿もある。

 それを見つけて頬を緩ませる刀弥とリア。


 そうして夜は騒ぎの盛り上がりと共に更けていくのであった。




短章終了

これで短章は終了です。

ありがとうございます。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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